山﨑賢人「お仕事をさせていただくのは10年ぶりになりますが、テレビ番組等でコメントをいただいたり、プライベートで会う機会はありましたよね」
三木孝浩「そうだね。初めて一緒に仕事をした『管制塔』は、僕が映画に携わるようになったばかりの頃の作品で、賢人くんもデビューしたばかりだったよね。その後、数々の映画やドラマに出演し、主演も務めているけれど、いい意味で青臭さが残っているというか、すれていない感じが賢人くんの魅力。どんな作品でもフラットに入り込めて、なじめる柔軟性が彼の強みだと思っているんです。今回の『夏への扉―キミのいる未来へ―』は、映画化ということ自体が大きなチャレンジだから、誰が主役を演じられるのか?と悩んだけれど、賢人くんの“なじませ力”にかけてみようと思いました。どんな世界観でも、違和感なくなじんで、親しみを持たせてくれる力を持っているから」
山﨑「そう言っていただけるのはうれしいです。『管制塔』では、初めての映画で右も左もわからなかった僕に、やさしくていねいに教えてくださって、現場もとてもあたたかい雰囲気だったのを覚えています。そのやさしくあたたかい空気感は今作でも変わらず、三木組らしいなと感じました」
三木「あのときは稚内での撮影で、めちゃくちゃ寒かったよね。マイナス何十度の世界で、過酷だった」
山﨑「雪のなか、なんでロケバスの上で自転車をこいでいるんだろうって思っていましたから(笑)」
三木「そうだ、あのときはあおりの絵が欲しくてね」
山﨑「あれから映画やドラマにたくさん出演させていただき、自分なりに経験値を積んできて、また監督とご一緒できたのが、本当にうれしいんです。だから、『成長したぜ!』というところはちょっと見せたいなと思っていました。でも、実際は初心に返ってまっさらな気持ちで『よろしくお願いします!』という思いが大きかったです」
三木「少女マンガのキャラから、キングダムのようなヒーロー的存在まで幅広く演じられて、どれも難しい役なんだけど賢人くんが演じると違和感がなくなじむんです。今作はわかりやすい見せ場はないけれど、複雑な時間の流れのなかでキャラクターの心情をしっかりととらえて、みごとに演じてくれました。けっこう難しかったと思うけれど、現場で悩んでいる様子もなくて……」
山﨑「そうですか?」
三木「受け入れ力を感じたんだよね」
山﨑「たしかに(笑)。現実離れした物語やSFものが好きというのもあって、ストーリーに抵抗なく、素直に受け入れてはいました。タイムトラベルって信じていないと、一つ一つのできごとに『嘘でしょ』『そんなわけないよ~』ってなるけれど、僕は『あるよね!』と最初から思えたし、脚本を読んでワクワクしていました」
山﨑「先ほど、監督が作品にフラットに入れるのが僕の魅力だとおっしゃってくれましたが、監督からいただいた手紙があったからこそ、宗一郎を演じきれたと思っています。そこにはたくさんのヒントがあって、迷ったときの指針になりました」
三木「撮影前にメインキャストに手紙を書くようにしているんです。作品のテーマやキャラクターの特徴、ストーリーにおけるその役が持つ意味なんかを書いています。口でも説明しますけど、書くことによって整理ができるし、あとから見返すことができるので僕も役者も忘れることなく共通認識として持っていられるんですよね。作品のトリセツみたいなものです」
山﨑「直筆の手紙をいただけるだけでうれしいし、頑張ろうという励みにもなりました」
三木「繰り返しになるけれど、賢人くんの“受け入れ力”に助けられたんです。それに、物語を信じる力が合わさったからこそ、宗一郎に説得力が出て撮影もスムーズに進んだと思います」
山﨑「受け入れるということで言えば、宗一郎は幼いころに両親を亡くし、さらに養父まで亡くして悲しい出来事が続くけれど、それを受け入れて生きてきた男。でも、ただ受け入れてきただけでなく、ロボット開発に対しては人一倍熱量があって、あきらめが悪い部分もある。手紙にも、あきらめずに扉を開け続ける力強い思いを大事にして欲しいということが書かれていて。運命を受け入れてきた男が、初めて大切な人のために運命を変えていくんだという強い思いを抱くところを意識しながら演じました」
三木「物語のなかでも、カギになるのがタイトルにもある『夏への扉』。猫のピートが夏を求めて扉を開け続けるだけでなく、宗一郎の気持ちの表れでもあるということを大切にしたかったので。コールドスリープ(冷凍睡眠)で30年後に目を覚ましたとき、全てを失い折れかけた心を、璃子を救いたいという熱い思いが彼を変えていく。その心情の変化について、手紙に書きました。気持ちの変化、あきらめない心を描きたかったから、30年という時間やタイムトラベルの話に疑問を持たれると、なかなか難しいところもあって(笑)。そこは、賢人くんの受け入れ力が生きてくるわけです」
山﨑「そうですね(笑)。30年後のリアクションは悩んだところではあります。今、普通にスマホを使って色々なことができますよね。2025年の世界はさらに便利になっているし、進化はしているけれど『あり得ない』ことではないと知っているので。だから、ガラケーからスマホに替えたときの衝撃を思い出してみました」
三木「1995年の世界も賢人くんにとっては新鮮でしょ?」
山﨑「僕は94年生まれなので1歳のころ。目にしたり触れていただろうけど、覚えてはいないので。カセットテープは家にあったので知っていますよ。一応、どちらの世界も知っているからこそ悩む部分はありましたけど、想像しながら演じました。時代背景の部分だけでなく、30年後の世界で謎を追っていくなかでどこまで気づいたのか、その瞬間瞬間を監督と話をしながら作りあげていけたのがよかったです」
三木「そこは大事な部分だからね。宗一郎の気持ちの変化だけでなく、藤木(直人)さん演じるロボットとのバディ感も見どころの一つ。どう面白く見せるかというのは意識しました。ドラマで共演していて、信頼関係がすでにできていたので助かりました。ふたりのかけ合いがクスッと笑える要素になっていると思います」
山﨑「藤木さんのロボットはとてもチャーミングで、ずっと見ていられるくらい。『これでいいのかな?』と藤木さんは悩んでいましたけど、『高倉!』と呼ぶだけで面白いし、めちゃくちゃ素敵でした」
三木「本読みの段階から面白かったし、ほぼできあがっていました。ちょっとしたところを調整しながら、愛のあるバディ感が生まれたと思います」
山﨑「たぶん、小学生のころにテレビで見てハマって、DVDセットを買ったくらい好きです」
三木「そうなんだ。僕も小学生のときに1作目をテレビで見て、パート2の公開時に映画館に行ったんだよね。みんなが夢中になって見ていた時代で、僕も心躍らせていました」
山﨑「いいな~。僕も映画館で見たかった」
三木「僕は80年代のハリウッド映画で育ってきた世代だから、『夏への扉』は最初に話したように挑戦的な企画でもあり、楽しみでもありました。ハリウッドのSF映画は『夏への扉』にインスパイアされてつくられたと言われているものが多いので。これまで映像化されてこなかった名作ゆえに、日本でどう表現できるのか難しさはありましたけど、物語が持つ強さがあるので乗り越えられると信じていました。少年時代にワクワクした気持ちを思い出しながら、楽しんで作れたと思います」
山﨑「完成した作品を見てワクワクしました。笑えたし、感動したし、最高でした!!」
三木「本当? それはよかった」
山﨑「夏菜さん演じる鈴さんの30年後の姿も、びっくりで。これは、映画館でぜひチェックしてほしいです」
三木「そうそう、あれは見てのお楽しみで」
山﨑「時を超えるというタイムトラベルのエンターテイメント性が高い作品ですし、宗一郎とロボットのバディものとしても楽しめると思います。大切な人のためにあきらめずに前に進み続ける強さを感じとってもらえたらうれしいです。エンドロールの最後まで見逃さないでください」
三木「専門的なことを一つあげると、今回はハイグレードのカメラを使い、深度が浅く、奥行きがはっきりと映らないようにしています。それは細かいディテールに目がいくよりも、ストーリーにのってほしいからです。タイムトラベルものは疑問がわくと、ストーリーが楽しめなくなっていくので、違和感やストレスを抱えずに見ることができる演出を心がけました。原作は、アメリカだけでなく日本でも愛されているとても有名な作品です。映画を作るにあたり読み返してみて、星新一さんのショートショートや、藤子・F・不二雄さんの『SF短編』のような、ユーモラスでアイロニカルな人間模様を描いたものと通じているなと感じました。堅苦しくなく、老若男女が楽しめるエンターテイメント作品になっているので、ぜひ劇場でご覧ください」
Writing:岩淵美樹/Photo:白石愛
MOVIE
6月25日(金)公開
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