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三木孝浩 「三木孝浩 filmo day ~音楽と映画~ 2020」開催!
同イベントは、『僕等がいた』『ホットロード』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』や、現在大ヒット公開中の映画『きみの瞳が問いかけている』などを手掛ける三木孝浩の映画監督デビュー10周年を記念して開催。
2010年、映画『ソラニン』で長編映画監督デビュー以降も映画を中心に、TVCM、ショートフィルム、ミュージックビデオと精力的に制作を続ける中、映画はこの10年間で15作品を発表。三木孝浩作品の単独上映イベントは、前回の映画監督デビュー5周年記念上映イベントから5年ぶり。進行MC全てを三木本人がまわすスタイルは変わらず、今回はこれまでの三木孝浩の監督作品の中から、映画3作品と、三木の映像作家としての原点となるミュージックビデオをスクリーンの大画面で上映。上映後にはゲストを招いての舞台挨拶&ティーチインを行い、これまでの作品を振り返りながら当時を語った。
開会挨拶にて三木は、「本当は4月に開催する予定だったのが延期せざる負えない状況になってしまったんですけど、まずこうして開催できたことを本当に嬉しく思います。今年は長編映画監督デビューをして10周年になるんですが、この10年を振り返って、皆さまにご満足いただけるようなラインナップになっていると思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。映画終わりでティーチイン形式の舞台挨拶もありますが、このご時世で質問を直接いただくことができないので、スマートフォンでQRコードのサイトに質問を入れていただくとそれがリアルタイムで見られるというものになっていますので、ぜひご参加いただければと思います。ではごゆっくりお楽しみください。」と挨拶。
イベントでは、はじめに『ソラニン』を上映。上映後の舞台挨拶では、サプライズゲストとして主人公・井上芽衣子を演じた宮﨑あおいさんが登場した。
三木は宮﨑さんについて、「本当にありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。控室で何をしゃべろうかと考えていたのですが、謝罪から始めさせていただければと思っています(笑)。長編映画の第一作で、それまでミュージックビデオはたくさん撮っていたのですが、映画は不慣れで、今思い返すと背筋が凍るくらい宮﨑さんにご迷惑をおかけしたんじゃないかと思っていて。」と当時を振り返りコメント。
宮﨑さんは、「私の中では監督もキャストも含めて一緒に青春をしているみたいな、そんな印象がすごくあります。」と話した。
また、三木は「現場中、今思い返すとデザインとしての画を見てるけど、ちゃんと宮﨑さんが出してくれている心の動きをちゃんと見れていたかなと後になって反省することが多くて。『ソラニン』はすごく良い映画になったし、評価もされたんですけど、僕自身はすごく悔しかったんです。キャストの皆さん、原作、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の音楽も素晴らしい、でも僕は監督として何か貢献することができたかなと。その悔しさがあったからその後の映画作りに生かすことができたと思っていて、そういう意味では特別な作品なんです。」と語った。
三木がこの映画の企画を聴いたときはどんな心境だったか?と宮﨑さんに問うと、「もともと歌も苦手ですし、楽器を弾いたこともなかったので、ギターを弾くというのがすごく楽しそうだなと思って。ギターの練習もさせていただけたし、とてもやりがいのある役だったなという印象があります。」と振り返ると共に、「いまだに自分の中ですごく好きな作品で。会う人に『ソラニン』好きですと言ってもらえることが多くて、自分が好きな作品は10年経っても(好きだと)言ってもらえるというのは良いなとしみじみ思う作品です。演奏シーンが好きで自分でも観たりします。」と笑顔を見せた。
撮影当時はコード進行も完璧だったという宮﨑さんは、「ギターを背負って歩いているのが楽しくて、どんどん芽衣子ちゃんに近づいていくような気持ちもありましたし、指が固くなっていく感じもすごく楽しかったです。いまも自分でギターを持っているのですが、10年経っているので弾き方を忘れちゃっているんですよね。ところどころしか覚えていないので、悔しいな思い出したいなと思っています(笑)。」と明かした。
続いて、観客からいただいた質問に答えるコーナーを実施。“キャスティングはどう決まりましたか?”という質問に、三木は「最初に宮﨑さんにお声がけしまして、そのあと高良(健吾)くんという順番で、高良くんは『蛇にピアス』に出たあとくらいで、種田みたいなイメージがなかったんですけど、プロデューサーからの提案で顔合わせをしたときに、ふわっと雰囲気のある感じが種田っぽかったのでこの人だと思いました。僕がこの映画に唯一貢献できたなと思っている部分は近藤(洋一)くん。すごくポジティブマインドの持ち主で、僕がもともとサンボマスターのライブを撮っていたというのもあるんですけど、それで無理を承知でオファーしたら快諾していただけました。」と回答。
その後、三木が「今日お会いできて本当に嬉しかったです。公開したあとってそんなにお会いする機会もないので、作品がどうだったとか、現場がどうだったとかゆっくり話すこともないですし、きてくださってありがとうございます。」と話し、宮﨑さんに「またご一緒していただけますか?」と聞くと、「ぜひぜひ。」と宮﨑さんが答え、会場は拍手に包まれていた。また、宮﨑さんは「作品に入るにあたってクリアしなきゃいけない課題、大きな壁があればあるほど燃えるので、そういうのがあるほうが好きですね。」と語った。
続いては、『くちびるに歌を』を上映。三木は、「4月にこのイベントを予定していたときは、合唱部の子たちに声をかけていたんですよ。このイベントで久しぶりに会いたいねと話していたんですが、どうしてもあれだけ人数がいると密になってしまったりして、今回は断念したんですけど、合唱部の子たちが自粛期間中にリモートで合唱する動画をアップしていまして、5年経った彼らの歌声が聴けますので、ぜひ見ていただければと思います。」と話した。
ティーチインにて、“お兄ちゃん役の渡辺大知さんのお芝居がとても良かった。現場ではどんな演出をされたのか?”という質問に、「この作品において、渡辺大知くんが演じたお兄ちゃんの出す空気感というのが素晴らしかったです。最初にご本人と一緒に自閉症の方がいる施設にお伺いして先生と一緒にいる姿とかを拝見したのですが、自閉症スペクトラムと言ってもグラデーションがあって、人それぞれのキャラクターがあるというところを、渡辺大知くんがいろいろな人のしぐさを見てミックスして現場でやってくれて、それが本当に素敵だなと思いました。また、撮影前に見てもらったのが『ギルバート・グレイプ』という作品で、その映画でレオナルド・ディカプリオが演じた知的障害者の方のお芝居が素晴らしくて。『くちびるに歌を』の中で、車で三人並んで映っているシーンがあったかと思うんですけど、あれは個人的に『ギルバート・グレイプ』のジョニー・デップとジュリエット・ルイスとディカプリオが三人並んでトラックで走るシーンが大好きで、僕の中でちょっとしたオマージュになっていたりします。」と裏話を明かした。
また、“五島列島の思い出はあるか?”と聞かれ、「この作品の企画が来るまでは五島列島に行ったことがなくて。東京から現地に到着するまで半日くらいかかってしまうので大変なんですけど、行ってびっくりしたのが、島々が重なり合っているので海がすごく穏やかなんですね。いつでも凪の状態というか。本当に湖のような海面が広がっていて、荒々しさのない優しい美しさが五島にはありまして、最初にロケハンに行ったときに魅了されました。(劇中で)砂浜を走る練習をしていたところは、映画がまだ企画段階のときに一人で五島にロケハンに行って島をめぐっていた中で見つけた場所なんですよ。長崎鼻という浜辺になるんですけど、あそこに一目ぼれしてぜひあのシーンを撮りたいなと思いまして。自分が監督をやるとまだ決まってもないのにそうやって一人でロケハンとかしていました(笑)。」と回想した。
“コンクール当日、会場の外に出てしまったお兄さんのために学生たちが「マイバラード」を合唱する場面があるが、なぜ「マイバラード」だったのか?”と問われると、「最後のコンクールが終わったあとのシーンが僕の中ではクライマックスだと思っていて、歌の内容がお兄さんに響くものがいいなと思って探していたら、「マイバラード」がぴったりで。また、合唱コンクールの全国大会を取材しに行ったんですが、そのときに何が感動したって、もちろんコンクールの本番も素晴らしかったんですけど、結果発表があるまでの間に自由時間があるんですよ。そのときに誰かが演奏し始めると他校の人とか関係なくみんなが歌いだしていて。生徒のみんなも客席にいるので、一斉に歌いだしたその会場の歌声の響きというのが、現場で取材をしたときにめちゃめちゃ感動して。何かこの感動を映画の中に取り入れることが出来ないかと思って作ったシーンが最後の「マイバラード」を歌うシーンでした。(取材で感じたものと)同じような感動をこの映画を観たお客さんにも感じてもらいたいと思いました。」と振り返った。
“当時の生徒役の子たちが今たくさん活躍しているが、当時からその可能性を感じたか?”という質問には、「今だと恒松祐里ちゃんや、葵わかなちゃん、佐野勇斗くんだったりがそれぞれの世界でがんばっているのは嬉しいなと思いますけど、当時はどちらかと言うと俳優というよりは生徒の子たちと地方に合宿に行っているような気分で撮影をしていたので、自分の中で役者と接しているというよりは生徒と接しているような感覚でした。実は僕自身もびっくりしたのが、クランクアップの日に、みんなと撮影が終わったあとに初めて泣いたんですよ。これって先生が生徒と別れるときに感じるやつじゃんと思って(笑)、他の撮影ではそういうことがなかったんですけど、この映画のクランクアップでは生徒たちが最後に泣いているのを見たら僕だけじゃなくてスタッフももらい泣きしていました。今回のイベントが音楽と映画というテーマということで、音楽にまつわる映画をラインナップさせていただいたのですが、音楽を題材にしたときに自分が意図して作り込んだもの以上のドキュメンタリー性というか、リアリズムが役者にも生まれてるなと思っていて、『ソラニン』のときもそうなんですけど、ライブをしている瞬間って演じているというよりは本当にライブをしている感覚になるんですよね。合唱コンクールのシーンもそれこそ現場でドキュメンタリーを収録しているような、現実と非現実の境目がなくなる瞬間というのがあって、それが演奏シーンが出てくる映画の醍醐味だと思っています。いろいろな作品を作ってきましたが、自分の中ですごく特別です。生徒役の子たちとクランクアップを迎えたときに感極まったというのも、自分自身が撮影の中でその子たちの成長のリアルに触れていたからなんだろうなという気がします。」と語った。
さらに、“ガッキーが役作りのために子供たちと距離を置いていたというのは本当か?”と問われると、「はい(笑)。そうなんですよ。厳しめのツンデレ先生だったので、現場で生徒役の子たちとは親しくしないというか、役の上での関わり方を徹底してやっていたので、クランクアップ後の打ち上げでめちゃめちゃフランクに話していて、逆に生徒役の子たちがびっくりしていました(笑)。新垣(結衣)さんともずっと合宿状態で、東京に帰ることなく泊まり込みで撮影をしていたので一緒に遊びに行ったりとか、川遊びをする機会もあってすごく楽しかったです。」と述べた。
その後、『管制塔』と、ORANGE RANGE「キズナ」、YUI「LIFE」、FUNKY MONKEY BABYS「もう君がいない」のミュージックビデオを上映し、三木は「『管制塔』に続きミュージックビデオも三本観ていただきましたがいかがでしたでしょうか。僕のルーツであるミュージックビデオですが、『管制塔』もGalileo Galileiというアーティストの担当者からその曲を題材にした映画を作れないかというところからスタートしたので、自分の中ではミュージックビデオともリンクしている作品です。『管制塔』はそれこそデビューしたての山﨑賢人くんと最初にご一緒した作品でもあるんですけど、また来年公開の『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』という作品で10年経って成長した彼とご一緒できて楽しかったです。」とコメント。
“約10年前の『管制塔』の山﨑と『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』でご一緒していたが、山﨑の印象は変わったか?”というティーチインでの質問に、「『管制塔』のときの賢人くんは、まだデビューしたばかりで右も左もわからないという空気感があったんですけど、ふと切ない表情をするときの目が好きで、久しぶりに会ったときにその空気感はいい意味で変わっていないと思いました。もちろん役者として相当成長されているし、賢人くんの良さって、例えば漫画原作の主役とかいっぱいやられていますけど、本当にどんなキャラクターにもなれる柔軟性というか、自由度の高い俳優なんだなというのは改めて思いました。自分の色を何色にでも変えられというのが賢人くんの良さなんじゃないかと。それは『管制塔』の当時にはまだ感じられなかったので、何本も主演作を経験して培われたものなんじゃないかと思いました。」と答えた。
また、“山﨑の演出で苦労したところは?ねばったところは?”と問われ、「撮影が真冬の稚内だったんですよ。マイナス10℃以下みたいな世界で撮影をしていたので、特に丘の上のシーンはしゃべりたくても口が動きませんみたいな状態になっていて、お芝居というよりは単純に環境に苦労した点がすごくありました。芝居より現場での大変さに対応するのに必死で、むしろ芝居に変に肩の力が入らなくて、その場のシチュエーションに合わせてお芝居が出来たので、逆に過酷な環境というのは芝居がリアルになるので良かったかなと思いました。」と当時を振り返った。
ここでサプライズゲストとして三木の長編作品全てに出演している野間口徹さんが登場。
「それこそ『ソラニン』から全作品に出演していただいているんですよ。なんでここまで続いたのか最初のスタートラインが思いだせない。」と話す三木に、野間口さんは、「たしか三本目くらいで、監督が“なんかレギュラーみたいですよ”と言って、これからも出ちゃいますかみたいな感じでしたよ(笑)。」と伝え、会場が笑いに包まれた。
「全作品どんな形であれ出ていただきたい」という三木に、「僕もそう思っているんですが、皆さんの映画の感想を見ると、“また野間口さん出てる。笑った”とあって(笑)、笑いが必要じゃないシーンでも“笑った”となっているのは三木さんの映画にとって良いのだろうかとは思いますよ。」と野間口さん。それを聞いた三木は、「あのワンポイントほっこりが必要なんですよ。」と笑顔で話していた。
続いて、三木が「今日は『ソラニン』から『フォルトゥナの瞳』まで、野間口さんが出ている作品の場面写真を用意しまして、それぞれの1分ずつ作品についてトークしていきたいと思います。」と説明し、野間口さんの場面写真を公開する一幕も。
『ソラニン』から次々と場面写真が公開され、『アオハライド』では看板に野間口さんの写真が貼られた画像が披露された。野間口さんが、「この辺からなんですよね、野間口徹を探せみたいな…」と話し、三木が「これは逸話があって、撮影を富山でやっていたんですけど、どうしてもスケジュールの都合で野間口さんを富山にお呼びできないと。どうにかして出せないかと意固地になって、“野間口さんすみません、自撮り写真を送ってもらえますか”とお願いして。ひどい話ですよね(笑)。なんとなく笑った写真とかいろいろパターンを変えて撮っていただきました。」と回想した。
また、『坂道のアポロン』の場面写真では、三木が「これは(中川)大志くん演じる千太郎が引き取られた家のお父さん役なんですけど、実の息子との距離感、実の子じゃないというところをセリフもない一瞬の表情で突き付けられるというのが、野間口さんの素晴らしいところ。」と解説した。
そして、現在公開中の『きみの瞳が問いかけている』の話題になり、「この映画が久々に役者・野間口徹の真骨頂というか、だいぶ長尺で出ていますよね(笑)。いまや日本一忙しいバイプレーヤーじゃないかというくらい。そんな野間口さんにスケジュールをいただくというのがなかなか大変でしたけど、『きみの瞳が問いかけている』はどうでした?」と三木。野間口さんは、「女性をああいう風に蹂躙する役というのをやったことがなかったですし、もちろん私生活でもないんですけど(笑)、こういう役が来るようになったんだというところが嬉しかったのと、吉高(由里子)ちゃんが“野間口さん実際に殴っていいっすよ”と言ってくるんで、本当かなと思って監督やプロデューサーのほうを振り返るとみんなNGを出しているという(笑)。」と振り返った。
三木が「『ソラニン』から三木組の現場の空気感は変わりました?」と聞き、野間口さんが「それが本当に変わらないですよね。監督の人柄なのかスタッフさん全員がずっとニコニコしているんですよ。僕が現場に行くと“久しぶりー!よく来たね”と迎えてくれて。」とコメントすると、三木は、「衣装合わせとかでも、野間口さんが来る前からスタッフみんなニヤニヤしているというか(笑)。ワンポーズだけ着て終わるみたいな感じが続きましたよね。」と明かした。
さらに、三木の「次作品に出ていただくとしたらどんな役やりたいです?」という質問に野間口さんは、「どんな役が良いんですかね。」と悩みつつ「清掃員(笑)。“ちょっとこれ捨てられちゃ困るよ~”と言うだけとかの。」と答え、笑いを誘った。
舞台挨拶の終盤には三木が、「オファーをお受けいただけるならずっと出ていただきたいなと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。」と笑顔で話した。
そして、閉会挨拶にて三木は、「長時間に渡る「三木孝浩 filmo day ~音楽と映画~ 2020」お楽しみいただけたでしょうか。10年と言いつつも、作品の本数としては10本以上撮ってはいるんですけど、まだまだ自分のターニングポイントには来ていないという感じがあります。それこそ最新作の『きみのめ』もそうですし、次の『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』もそうなんですけど、自分の中でチャレンジしていない新たなジャンルの企画をいただいたときにすごくワクワクするんですよね。今後もまた10年後とかにこういったイベントができたらと思うんですけど、がんばって皆さんを楽しませられる作品作りをこれからも続けていきたいと思っておりますので、今後とも応援よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。」とメッセージを送り、イベントを締めくくった。