三木孝浩「匠海くんとは、ショートフィルム『ニケとかたつむり』で初めてご一緒させてもらったんですけど、あのときは中1ぐらい?」
北村匠海「そうですね。『陽だまりの彼女』は15歳ぐらいで、もう7年ぐらい経ちますね」
三木「僕は匠海くんの声がすごく好きなんですよね。艶があってしっとりしていて、特に映画館で大音量で聞いたときの響きが好みなんです。この作品は咲坂先生の素敵なセリフがたくさんありますし、ナレーションも多いので、ぜひご一緒したいと思いました。ナレーションも本当に素晴らしくて、聞いているだけで心地いいんですよね。現場では安心してお任せしていました。福本莉子ちゃんと赤楚衛二くんというフレッシュな二人がいて、匠海くんと浜辺美波ちゃんがリードしてくれたという感じがあって、とても頼もしかったです」
北村「監督と初めてお会いした『ニケとかたつむり』という作品から、監督に対しての印象は変わっていないんです。こんなにあたたかくて素敵な人柄が映像に出る監督はなかなかいないなと。今回は、本読みの段階から安心感があって、芝居でいろいろと試せるし、監督のディレクションが自分の中ですごく腑に落ちて、心地よいキャッチボールをさせてもらいました。何年もの間の、目に見えない信頼感も感じさせてもらえて、とにかくずっと心地良くて温かい現場でした」
三木「匠海くんにはもちろん役も演じてもらっているんですけど、由奈役の莉子ちゃんがなかなか感情をうまく出せないとき、匠海くんは僕たち作り手と同じような気持ちで待っていてくれてるんですよね。莉子ちゃんのいい表情を引き出すために、なんとか粘りたいという気持ちを共有してくれるし、ここのシーンで何を撮りたいかっていうのをわかっていてくれて、現場寄りの感覚を持っている役者さんだという印象です。受け手がフワフワしてしまうとなかなかいいところに着地できないのですが、匠海くんが安定したお芝居をしてくれて、すごく上手だな、頼もしいなって思いました」
北村「そのシーンで言うと、監督が莉子ちゃんのもとにかけ寄って、いろいろとお話しをされていたんですね。僕は理央として立ちつつ、監督の熱い思いも伝わってきましたので、横で何球でも受けてやるぞって思っていました。結果、映像を見ても、そのシーンはとっても素敵だったし、そういうものがちゃんと線になっていく感覚を感じられて良かったです」
三木「匠海くんが演じた理央よりも、原作の理央の方はもうちょっと感情が出ているのかなという印象です。匠海くんのお芝居の良いところは、理央の表情をわかりやすくしないところ。そこが匠海くんの芝居を好きな理由でもあるんですけど、今いったい何を考えているのか? 朱里に向けたその表情は何なのか? すごく考えたくなるんですよね。観客の皆さんを能動的に動かしてくれるんです。ここでわかりやすい芝居をしすぎてしまうと、はい、そういう感じなのねって受身で観てしまう。やっぱり前のめりになって観てほしいので、上手く観客の気持ちを引き込んでくれる匠海くんのお芝居はいいなって思います。理央というキャラクターは、一面的では全然なくて、複雑な感情を持っているので、そこをうまく表現してくれました」
北村「理央の複雑な思いというのは、朱里に対して気持ちを伝えられなかったというのが大きいんですよね。そもそも理央は朱里とは何も始まっていないから終われない。理央の中では、その気持ちは始まっていないから、終わりがないわけで...それは多分、朱里も一緒で。もう気持ちを言っちゃえ、でも…っていう。僕は言葉だったり、表情でわかりやすくするより、笑っているけど笑っていないみたいな微調整をしながら演じました。そういうお芝居が好きなので、自分がやりたいことを存分に発揮できた作品です」
三木「理央を好きな由奈に、朱里とキスをしたって言うシーンがあって、普通だったらそこは女性から総スカンになるシーンなんですよ。でも、匠海くんはあのシーンで理央の切なさをすごく上手く演じてくれて、北村匠海はずるいって思いました(笑)」
北村「(笑)。由奈が理央を好きだってわかってて言うんですもんね。そこが理央の不器用さでもあり、理央は由奈に対して、そういうふうに言える相手だっていうことを気づいていない。あれ?なんか言えてるって思うところじゃないですか。そういうのも、あえてちぐはぐというのをやってみました」
北村「ありがたいことです。僕は意外とこういう役は馴染みがなくて」
三木「本当に?」
北村「だいたい僕の相手役の女性が亡くなってしまうので(笑)」
三木「なるほど(笑)」
北村「キュンキュンというより、切ない系が多かったんです」
三木「ネットで匠海くんが莉子ちゃんのほっぺをブニュってやるシーンが話題になっていたよね。あれをやってもらいたいっていう女の子が多いみたいで(笑)」
北村「(笑)。本当に嬉しいです。ありがとうございます」
三木「ほっぺたのもそうだし、『内緒』って言いながら口元に人差し指を当てるシーンは、漫画で成立していてもなかなか現実では難しいのに、よく成立させているなって思います。割と難なくやってのけるよね」
北村「内心はすごく恥ずかしいんですけど、頑張りました(笑)。絵で伝える漫画は、ファンの方が絶対的なイメージを持つと思うので、僕は実写化の映画をやらせていただく上で、原作ファンの方に満足していただきたいのはもちろん、映画として面白くなるにはどうしたらいいか考えて、いかに自然にやろうかっていうのを考えています」
三木「(笑)。そういうやりがいがあるんだね」
北村「そうなんです」
三木「でも、ほんと、さらっとやってたね。咲坂先生が絶賛してくださった、人指し指が鼻すじからずれているのも、自然にやってたもんね」
北村「神戸でスタッフさんたちが撮影の後よく食べに行っていた中華料理屋さんがあって、和臣役の赤楚くんと2人でチャーハンを食べにいった記憶があります。その当時、すごく忙しくて、神戸に行ったり来たりしてたんですけど、気心の知れたスタッフさんばかりで、だからリラックスできたし、逆に存分に甘えることができました。あと、神戸では走ったりしてました。リフレッシュのために。他の作品と重なっていて、いっぱいいっぱいになりそうだったので、もう走ろう! とにかく走ろうと思って(笑)」
三木「そんなふうに全然見えなかった。余裕でやってるように見えてました。このスケジュールでよくこなせますね、匠海さん、とは思っていたけど(笑)」
北村「監督をはじめ、スタッフの皆さん知ってる方が多かったのは本当に大きくて。居心地が良くてすごく助けられてました」
北村「10代特有の青春のイメージは、届かないとか、言いたいけど言えない、言葉にできないとか、それこそ雨の似合うような感情です。僕の学生時代もまさにそうだったので、理央に共感するし、あの時代はやっぱり良かったなって思いました。悩んで悩んでぶつかって、光に向かって進んでいく。僕自身、学生時代に誰かに言えなかった気持ちって、まだ残っているんです。言えなくて、始まらなかったから、まだ気持ちが残ってしまっている。この作品はそれぞれの思いが交差して、複雑に絡み合うんですけど、誰かが一歩踏み出た素直な気持ちをきっかけに、みんなが一歩踏み出していくんですね。自分が作品に出ているにもかかわらず感動したし、Official髭男dismさんの「115万キロのフィルム」もすごく良くて。
いま学生の方々は、このご時世でみんなに会えない期間があって、大きな大会がなくなってしまったり、学生のうちに味わえる大切な何かが欠けてしまっている人も多いんじゃないかなって思います。この作品がそういう人たちを、ちょっとでも応援できたらって思うし、素直な気持ちを大切な人に伝えるべきだし、忘れられない時間になるんだよっていうことを伝えたいです。そして、僕はまだ10代でいたかったなって思いますね(笑)。学生のときの、あの時代に戻りたいなと思いました。いまは多少年をとってしまいました(笑)」
三木「原作ももちろんですけど、僕はこの4人のキャラクターを見ていると、すごく愛おしいなって思うんですよね。人との距離感とか、関わり合いとかをみんな失敗してるじゃないですか。みんな間違えて失敗してる。そして傷ついてる。でも、それがちゃんとそれぞれの成長の糧になっているんです。ふられるっていうことも、相手の立場で自分を見られるようになったりとか、人との関わり合いで成長していく時期の話なので本当に愛おしいと思います。また、4者4様の気持ちの表現の仕方が違うことで、キャラクターの誰かしらに自分を重ねられるし、映画を観に来てくださる方も、誰かしらにシンクロする瞬間はあると思うので、そういうところを楽しんでいただけたらと思います」
Writing:杉嶋未来
MOVIE
8月14日(金)公開
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