月川翔「最初は僕と岸田一晃プロデューサー、春名慶プロデューサーでこの映画の脚本を作っていて。『検討稿』と呼ばれるくらいまでできたところで、僕が次の作品に入らないといけなくなってしまったんです。自分で書いて自分で撮らなかったのは今回が初めて。『お願いだから、三木さん撮ってください!』と思いながら書いてたら、三木さんが本当にやってくださることになって」
三木孝浩「だって月川くんが『三木さんがやってくれないんだったら、この企画流れちゃうかも』って、すごいプレッシャーをかけてくるんだもん(笑)。だから最初は『お、おぅ……っ』みたいな感じで。もちろん、そんなこと言われなくても『やるやる!』って答えましたけどね(笑)。その時点で撮影に入るまで多少時間があったので、『ここからさらにブラッシュアップしていくために、誰か脚本家を入れたいです』という話を岸田プロデューサーにしたら、『松本花奈さんは?』と提案されて、『ぜひ!』って。それでこんな流れでした」
松本花奈「元を辿ると、三木さんの『思い、思われ、ふり、ふられ』のプロットコンペに参加したのがきっかけで、岸田プロデューサーと面識があって。今回のお話をいただいたときは、三木さんにも月川さんにもお会いしたことがなかったので、めちゃめちゃ緊張しました。すでに大枠が出来上がっているところから入らせてもらったので、『この世界観を壊しちゃいけない』というプレッシャーもありつつ、せっかくやらせていただくからには自分の思いも入れたいという気持ちもあって。月川さんが書かれたのが『第8稿』くらいでしたよね?」
月川「第8稿か9稿くらいまで書きました。それこそ途中までは自分で撮る可能性もあったので、現実的に撮れることしか書いていなかったはず(笑)。もしも最初から他の人が撮るつもりで書いていたら、もっと無茶なことも入れられたのかもしれないですけどね(笑)」
三木「コロナ禍というのもあって、基本はオンラインでのやりとりで。僕が月川くんからバトンを受け取って、『はい、じゃあここからはこっちでやります』と。最終的に僕と松本さんが相談しながら作ったものを月川くんに読んでもらって、意見を聞いたりしました」
月川「『ここはもっと、こうなるといいんじゃないですかね』ってコメントするのが、僕の最後の仕事でした。無責任に意見が言える機会だったので、自分のことは棚に上げて(笑)」
三木「『だったら、最初から月川くんがそう書けばよかったんじゃないかな』って。僕と松本さんとで話したりもしたよね(笑)」
松本「結果的にかなり好き勝手やらせてもらえたので、私はすごく楽しかったです(笑)」
三木「監督としても、今回の形はすごくやりやすかった気がします。まずは月川くんに映画の骨組みとなる部分を作ってもらって。そこから松本さんに、キャストがセリフをしゃべったときの生っぽさというか、リアリティみたいなものをプラスしてもらった感じです。月川くんのストーリーテリングの巧さと、松本さんのダイアログの繊細さ。まさにこの二人の良いとこ取りができたことによって、すごく良いケミストリーが生まれたんじゃないかな。もし仮にこれを僕が全部自分一人でやっていたとしたら、こうはならなかったと思うから」
月川「この映画みたいに『この二人は既にこの秘密を知っているけど、こっちの人はまだそれを知らない』といったような状況を映像で描こうとすると、誰の視点で物語を進めるかによって見え方が全く違うから、視点の切り替えどころがものすごく重要になってくるんです。そこを今回はお二人が絶妙な塩梅で切り替えて、すごくいい情感でつなげてくれたので、『うわ~!』と思いながら観ていました。松本さんが新たに書き加えてくれた部分と、三木さんの演出。実際に演じる役者の芝居によって、自分だけでは絶対にたどり着けなかったなと思えるところまで連れて行ってもらえて、すごく面白かった。光の使い方もすごく良くて」
月川「僕は原作を読んで、『これは真織の視点から透の優しさを愛でる作品になる』と思って取り組んだんですよね。楽しい記憶だけで彼女の日記を埋めてあげたいのに、それが増えてくると一日ではとても抱えきれないものになっていく。『相手のために尽くしたいと思ってやっていることが、結果的に相手をどんどん辛くさせるなんて切ないなぁ』『これは恋愛における新しい障壁だ!』と思って、ガブッと食いついて、のめり込んでいった感じでした」
三木「月川くんから台本を受け取ったときに、『記憶をテーマにしている作品だから、これ俺好き!』と言った気がする。これは、映画を作り終えてから改めて気付いたことなんだけど、『心が動いた瞬間のエモーションを何かの形で留めておきたい』という想いがあって。僕が記憶にまつわる物語に惹かれる理由も、多分そこにあるんじゃないかなと。実は僕自身も記憶力がそれほどいい方じゃなくて、『夢で見たことなのか、本当にあったことなのかわからない』みたいな感じなんですよ(笑)。だからこそ、消えゆくものへの憧憬というか、『こぼれ落ちてしまうものをなんとかして留めようとする』みたいな感覚が自分の映画作りのモチベーションになってるんじゃないかと思いました」
松本「透のお姉ちゃんが『忘れる』ということを肯定するような言葉を発する場面があるんですが、私はそれを読んだときに救われた感じがしたというか。『別に忘れてもいい』っていうところに、すごくハッとさせられました」
三木「普段から僕は、映画で伝えたいテーマや『このキャラクターはこういう感じで演じて欲しい』といったことを書いた覚え書きみたいなものを、メインキャストには渡しているのですが、今回、道枝くんと莉子ちゃんに宛てて共通して書いたのが、『“忘れないで”っていうのも愛なら、“忘れてほしい”っていうのも愛だと思います』というメッセージだったんです。生きている時間が長ければ長い人ほど、自分のアイデンティティみたいなものは、古い記憶によって形成されていたりするじゃないですか。幸せな思い出が積み重なって、『あぁ、自分は幸せなんだ』って自分で自分を肯定できるというか。若ければ若いほど失うものも少ないけど、年を取れば取るほど『失われると自分自身が揺らいでしまうような記憶』がたくさんあるはずで。だからこそ、『一日で記憶が消えてしまう』という切なさを描いたこの作品は、年配の方々にも響くんじゃないかと思うんです」
松本「台本の段階だと、いい意味でどんな透くんになるのか彼の人間性が掴みきれない部分もあまりしたが、完成した映画を観て透くんのことがすごく好きになったというか、透くんに対する愛が自分のなかでめちゃめちゃ増しました(笑)。表には出さない優しさが道枝さん演じる透くんの節々からにじみ出ているようで、そこがとっても素敵だなと。その一方で、透と出会ってからどんどん変わっていく真織の表情にも、すごく引き込まれました」
月川「透が真織にあくまでも自然体で接していたのが良かった。道枝くんが演じる透には、押し付けがましさみたいなものが全くなかったから。そこがすごく素晴らしいなと思って」
三木「脚本読みをしたときに、道枝くんがもともと持っている柔らかさとか優しい空気を活かしてもらった方がいいなと思って、自撮りの部分なんかはちょっとドキュメンタリーっぽく、本人の素が出てしまってもいいかなってくらいの感じでやってもらいました。まぁ、そうは言っても普通にしているとアイドルオーラが出まくってしまうので(笑)、なるべくそれは消す方向で。序盤は猫背気味にしてもらったり、ヘアメイクさんとも話して引き画の場合は目があまり見えないくらいの、重めのヘアスタイルにしてもらったりしました。
莉子ちゃんは『ふりふら』の撮影時、いわゆる“泣き芝居”のところでうまく感情を出せなくて、カットがかかった瞬間、『泣けなくて悔しい!』って、悔し泣きをしたんですよ。ちゃんと悔しがれる負けず嫌いなところが、今回の真織という役を演じる際にもすごく活きたというか。障害があっても日々を楽しく生きていこうとするたくましさが、莉子ちゃん自身の強さとシンクロするなと思いました。だから、キャスティング案で莉子ちゃんの名前が出てきたとき、『確かに彼女だったらできるな』っていう勝算がありました」
月川「毎回記憶がリセットされるのに、それでも何かしら積み上がっているものがあるように見せるためには、最終的にどんなふうに演技してもらえばいいのか自分には正解がわからなかったけど、完成品を見たらちゃんとそう見えていたのですごいなと思いました」
三木「そうなんだよね。僕も編集しながら、そこはちゃんと表現できてるなって思った」
月川「撮影中ワンカットだけ現場見学に行ったんですが、たまたま古川さん演じる泉がメインのシーンだったんですよね。『いま、この人の中には何層の感情が積み重なってるんだろう?』と感じるようなお芝居をずっと古川さんがやり続けていて、すごく感動したんです。『泉役は古川さんじゃなければ演じられなかった!』と思うくらい最高のお芝居でした」
三木「琴音ちゃんには『泉は十字架を背負っている子だから』という話は最初にしていて。『真織を守る騎士のような存在』というのも覚え書で伝えたかな。泉は観客目線でもあり、観客を物語に引き込む“裏の主人公”でもあったので、主演じゃないのに主演級の活躍をしなければいけなかったから、役者としても十字架を背負わせてしまったところがあるんです。松本穂香ちゃんに関しては、僕は今回本当に何も演出してないです(笑)。セリフのトーンとか空気感なんかは、完全に穂香ちゃんが自分で作ってきてくれていたので、現場で何かを変えるということは、ほぼなかったですね。実際には琴音ちゃんと穂香ちゃんは同い歳なんだけど、泉のメンター的な感じをお芝居で出せていたのはさすがでした。それこそ萩原聖人さんは月川くんが監督したドラマ『そして、生きる』を観て、萩原さんのお芝居が素晴らしかったので、いつかご一緒したいなと思っていて。今回それが叶ってうれしかったです」
三木「Twitterの感想を見ていると『2回目の方が泣けました』と書いている人も結構多いんですよね。透の秘密を知ってからこの映画を観ると、どのあたりがどう違って見えるのか、みたいなところは当初はあまり想定していなかったんですが、そこはうれしい誤算でした」
月川「泉目線で2回目を観ると、めちゃくちゃ泉に感情移入して泣けるんですよ!」
松本「わかります! 私は泉ちゃんの涙につられて、既に1回目から泣いてしまいました」
Writing:渡邊玲子
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