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2014年6月20日更新
第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生の小説「果てしなき渇き」を、『告白』などの中島哲也監督が実写化した映画『渇き。』。“天使の顔をした悪魔”と言えるヒロイン、加奈子を演じるのは、中島監督が抜擢した小松菜奈。透明感と妖しさの同居する圧倒的なきらめきを放ち、本作で鮮烈のスクリーンデビューを飾る彼女に、作品のこと、今後の女優活動について聞いた。
大変なことも多かったけど、自分と違う誰かになれる楽しさを知れた大切な作品です
── 失踪した娘を探す父親の物語が、壮絶な暴力&鮮血シーンとドリーミーな音楽で展開する『渇き。』。登場人物は、主人公、藤島を筆頭に誰もがブッ飛んでいる。近年の日本映画の中ではかなりの衝撃作といえるが、完成作を観た感想は?
「観終わったあとは、とにかく唖然としました。台本を読んでいるので、自分の出演シーン以外のところもなんとなく想像してはいたんですけど、完成した作品は、全体を通して想像以上のものになっていました。おそらく多くの人が観たあと、「凄かった」と思っていただける作品に仕上がっていると思います。私は何度も観たいと思いましたし、観る度にいろんな発見があると思います」
── 今回演じた加奈子は、あらゆる人間を魅了し、それらの人生に大きな影響を与える役どころ。映画初出演にして挑むには相当な難役と言える。
「そうですね。とても難しい役だと思いました。でも、初めての映画なので、何をどう考えていいか分かりませんでした。よく分からないままというか、あまり考え込まないようにしました。役柄的には、私がこういうキャラクターだと決めつけてしまうと、観る人の意見がみな同じになってしまい、加奈子の魅力でもある不思議な感じがなくなってしまうと思って。観る人によって加奈子の印象は変わるはずで、人によっては可哀想だと思ったり、共感できるという人もいるかもしれないし。そういう子なので、何かを参考にして演じようというのもなかったです。加奈子は実態がないような存在で、1人だけ違う世界にいる感じがします。みんな彼女に惹かれていくんですけど、どこに惹かれていくのか客観的に考えました。でも、自分でもよく分からないことも多かったです。天使のようだけど、考えていることや、やることは悪魔ーーというか、人としてありなくて(笑)」
── そんな加奈子に共感したことは?
「分かるなと思ったのは、相手に応じて、いろんな表情、心の部分を見せるところです。それは人間が誰しも持っている部分なんじゃないですかね。私ぐらいの年齢で言うと、多くの子が、お父さんとお母さんの前ではいい子。友達の前では、憧れられたり、尊敬される人間でありたいと思っているでしょうし。私もお父さん、お母さんに見せる顔と、友達に見せる顔は違います。そういう部分は、加奈子と一緒だと思います」
── シーンごとに、あどけなかったり、小悪魔的だったり、妖艶だったり、実にさまざまな表情を見せる彼女。演じる上で、モデルとしての経験は役立ったのだろうか。
「顔の表情を変える場面がたくさんあって、特にクラブのシーンでは「いろんな表情をして」って言われたんです。これまでもモデルとしてやってきたことだったので、楽しくできました。「変顔をして」と言われたときは、ちょっと恥ずかしかったんですけど、大きな戸惑いはなくできました。きっとモデルの経験がなくてまっさらな状態だったら、この役はすごく悩んで大変だっただろうなって、あとから思いました」
── キスシーンも多く、初めての映画ながら本当にハードだったと思うがーー。
「台本を読んだときは大変だろうなって思いました。でも、加奈子だったら堂々とできると思ったら、私自身も抵抗はなかったです。モデルのときと演じることは同じだと思うんですけど、モデルは1日や2日、映画は長い期間で、この映画は3ヶ月ありました。それもあって、本番では加奈子にすっとなれたんだと思います」
── 中島監督、役所広司、妻夫木聡、オダギリジョー、中谷美紀ら錚々たる面子に囲まれての日々。撮影中の印象的なエピソードは?
「皆さん、とても優しい方でした。主演の役所さんは劇中でとにかく暴れまわっていて(笑)、休憩時間も役に入っているので話しかけるのは迷惑かと思っていましたが、役所さんから話しかけてくださったことがあって、とても嬉しかったです。私は山梨が地元なのですが、役所さんが地元の方にいらっしゃることがあるらしくてそんな話をしました。役所さんは本編とは違いとても優しい方で勝手に親近感を抱きました(笑)。監督は、私が緊張しているのが伝わっていたようで、いろいろと話しかけてくださって緊張を和らげてくれました。お芝居についてもワンシーンごとに細かく指導してくださって、一緒に加奈子について考えてくれました。加奈子はこうなんだっていう発見もいっぱいあって。監督、ガチャガチャが趣味らしいんですけど、リハーサルのときにバナナマンの日村さんのストラップをくれたんです。ガチャガチャが好きなんだっていうギャップがかわいらしいなと思いました(笑)。ストラップは、リハーサルで何個かいただいて、今でも大事にしています。とてもいい思い出です」
── それでも難役ゆえ、心が折れそうになったことはあったという。
「撮影中、何度か女優には向いてないのではと思うことはありました。わざとらしく台詞のように言ってしまったり、考えて演じてしまってなかなかOKをもらえないこともあって。疲れから頭がこんがらがってしまったり、自分が思った以上に大変な世界でした。初めてだし、緊張するし、役も役だしって、ずっと神経を使っている感じで、切羽詰まっているときもありましたね。撮影がすべて終わってオールアップだって言われたときは、すっきりして、やっと息ができるという感じでした(笑)。始まりがあると終わりは絶対あるものなんですけど、本当にこのときがきたんだなって。でも、今振り返ると、大変なこともいい思い出ですし、自分と違う誰かになれる楽しさを知ることができた大切な作品です」
── 『渇き。』で演じることの楽しさを知り、「いろいろな監督のもとで、いろいろな役を演じていきたい」と熱い口調で語る。秋には早くも2作目の『近キョリ恋愛』が控えている。
「学校の先生と女子高生の恋愛映画で、私はヒロインの無表情な女の子の役です。『渇き。』とは違って感情をより表に出す様に求められて、最初は難しかったんですけど、どんどん楽しくなりました。静岡での撮影で地方ロケが初めてだったので、映画の世界にどっぷり浸れて良かったです。『渇き。』でもこの作品でも、私は映画の現場にいることが好きなんだなって思いました。まずは、『渇き。』を観客のみなさんがどう感じるのか、ドキドキしています。私の母も映画館に観に行ってくれるみたいなんですけど、観たらびっくりすると思います(笑)」
Writing:杉嶋未来
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『渇き。』
6月27日(金)全国ロードショー
ある日突然、謎の失踪を遂げた優等生の娘、加奈子の行方を追う元刑事の藤島。藤島は自身の性格や言動によって家族をバラバラにしたが、過去には目もくれずに自分が思い描く家族像を取り戻そうと娘の足取りを調べていく。交友関係や行動を丹念にたどる中、加奈子の知られざる素顔が浮かび上がりーー。ロクデナシの父親を演じる名優・役所広司を筆頭に、妻夫木聡、オダギリジョー、中谷美紀ら、実力派が大挙して出演。中島監督ならではの鮮烈なタッチに加え、小松菜奈の存在感にも注目。
(C)2014「渇き。」製作委員会
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