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主演作が続く北村匠海と小松菜奈の、『ディストラクション・ベイビーズ』(16)以来の共演作『さくら』が公開される。2年ぶりに集まった長谷川家の大晦日から元日にかけての2日間を描きながら、そこに長男がいない理由が次男の視点で回想される、家族の物語。北村は兄妹への嫉妬や憧れ、コンプレックスを抱く次男を、小松は長男への深い愛で家族を翻弄する自由奔放な末っ子を演じている。

今年公開できる意味がすごくある映画になっていると思います

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―― タイトルの「さくら」は、長谷川家に暮らす白い犬。演じたタレント犬のちえ(2010年生まれ・雌・ミックス)の、飄々とした名演技に異論を挟む人はいないだろう。映画で動物と初めて共演したという北村と小松も「すごかったです」と絶賛する。

北村匠海「とにかくお利口さんで、素晴らしかったです。本能で生きてるんですけど、僕らの感情にちゃんと寄り添ってくれて。言葉が通じないので、『こうしてくれ』と言えないから、毎シーンちえの奇跡に賭けるしかない。毎度毎度、ちゃんと奇跡を起こしてくれました」

小松菜奈「ラストの車内でのシーンでは、私がちえを抱きかかえていました。私のセリフが長かったので、途中で暴れたりしないかと心配しましたが、そんなことはまったくなく、ずっとおとなしくしてくれました。現場の空気も私達の感情も読めていたんでしょうね。日々進化していたし、長谷川家はさくらなしでは成り立たない家族になりました」

―― 名場面はいくつもあるが、父の浮気を疑った母が、卒業アルバムを開かせ、浮気相手が誰なのかを問い詰めるシーンが出色だ。卒業アルバムを取り囲むように両親と子どもたちに緊張感が走る中、定位置の食卓の下に伏せていたさくら(ちえ)が、アルバムを覗き込むかのように、にじり寄っていったのだ。

小松「かわいいですよね!」

北村「あそこも、『ああなればいいな』というみんなの願いがあって、ちえが奇跡を起こしてくれました。長谷川家で一番の大御所感があったよね。『はいはいやりますよ』みたいな(笑)」

小松「そうそう! 『見たいのはこれでしょ?』みたいな(笑)」

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―― ちえは、長谷川家では永瀬正敏と吉沢亮に従順に懷き、北村と小松はちえにとって「おやつをくれる遊び相手」だったとか。

北村「僕らは下っ端でした(笑)。ちえには全部わかってるんですよね」

―― 母を演じる寺島しのぶも含め、長谷川家の5人を演じるのは、正真正銘の“映画俳優”たちだ。

北村「家族という近い繋がりを永瀬さんと寺島さんと持てること、どんな芝居が巻き起こるんだろうという期待にわくわくしました」

小松「パワフルで明るいお母さんが引っ張って、お父さんが優しく包んでくれたので、子供たちは『何をやっても大丈夫』という安心感のなかで、自由にお芝居させていただいた感覚があります」

北村「家族の団らんのシーンはアドリブが多かったです。映画の中盤で大きな壁が立ちはだかるまでは、ありふれた日常の幸せを噛み締めながら、笑いや会話の幸福感を大事に演じたつもりです」

小松「美貴は自由奔放で天真爛漫な末っ子です。欲や感情のままに生きていて、次になにをやらかすかわからない小悪魔っぽさもあるので、観た人が『この子は何なんだろう?』と戸惑うような、得体のしれない子になればいいなと思いました」

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―― 北村が演じる次男の薫は、自由奔放な妹と人気者の兄に比べて、あまりにも自分が普通であることにコンプレックスを感じている。

北村「絶対的ナンバーワンの兄の背中を見て育った薫は、無個性な自分に悶々としています。コンプレックスを糧にする少年を演じることは、美貴や一の気持ちを受ける芝居が多かったこともあって、難しくはなかったです。ただ、ストーリーテラーとしてナレーションも担当しているので、主観の薫と切り離して、薫の気持ちが声に乗らないように、気をつけました」

―― 吉沢亮が演じる兄の一(ハジメ)に対し、美貴は兄妹愛という枠には収まらない、強く深い愛を抱えている。一の恋人への美貴の嫉妬が暴走した結果、一は過酷な試練に見舞われる。苦しむ兄を見て喜ぶ美貴に、たしかに観客の心は「この子は何なんだろう?」とザワザワするだろう。

小松「美貴の気持ちは、100%わからないわけではないです。私も兄が2人いて、兄が家に連れてきた彼女に『あなた誰!?』という気持ちになった経験があります(笑)家族しかいない空間に、兄が恋愛感情を抱いている人が入って来る状況は、妹にとってはちょっと複雑なものがあるんです。その感情があそこまで狂気的になるのは、わからない部分もありましたが、演じながら発見するものもありました」

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―― 長男の一を演じた吉沢亮について、2人はその演技力を絶賛する。

北村「小栗旬さんを初めとする先輩たちが起こしたような波を作る人なんだろうなと思います。平たくいうと同じ世代なんですけど、僕らも引っ張ってくれる人。本人は「そうじゃない」と否定するかもしれないけれど。力量が別格だと思います。純粋に芝居が上手い。それでいて良い意味で芝居にすがっていないドライなところも素敵です」

小松「一瞬で空気を作って、スッと役に入り込んで、飄々とやれてしまう人でした。あまりにも器用で、内面の葛藤があったとしてもまったく見せないので、何を考えているのかわからないところがあります。一緒にふざけてくれるんですけど」

北村「僕は『さくら』を皮切りに何本かご一緒して、努力や葛藤は見せないけれど、裏のない人だと思いました。眠いときは眠そうだし(笑)。いろんなスイッチがある魅力的な人だと思います」

―― 吉沢亮、北村匠海、小松菜奈。長谷川家の兄弟妹を演じた3人にはある共通点があるという。

北村「みんな目が死んでいます(笑)」

小松「三白眼が揃いました(笑)」

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―― 苦しみを経た長谷川家が、再生に向かう希望を感じさせる、抜けのいいラストシーン。2人は長谷川家の正月に欠かせない自家製の餃子を食べながら、白目をむいて笑い合う。自称「死んだ目」「三白眼」の2人の白目はなかなかの破壊力。ユーモアの中に、人生は厳しいものだから、まっすぐ見据えずに、白目をむいて進めばいいという肩の力の抜けたメッセージを読み取ってしまった。

小松「そんなに深く考えるようなものではないです(笑)」

北村「ロシアン餃子を食べたときのリアクションをなにかやってということだったので、アドリブで白目をむいたら、菜奈ちゃんもむいてきた(笑)。バラバラになってしまった家族がまた繋がりはじめて、昔のように笑い合うというテーマがあったので、笑える感じにしたいなと思ったんです。原作を読んでも、読後感がすっきりしていたので、悲しいお話で終わりたくなかったというのもあります」

小松「普段の長谷川家に戻った安心感があって、私もすごく好きなラストです。ただ、あの白目が使われているとは思わなかったので、びっくりしました(笑)」

北村「人生って『嘘でしょ』という困難が起きるものなんですよね。今年は誰もがそう感じていると思うのですが。僕自身は経験上、乗り越えようと思って乗り越えるんじゃなくて、結果的に乗り越えていたことが多かった。何があっても、踏ん張ってればなんとかなるという気持ちでいます。長谷川家も試練を経て、幸せな方向に進んでいくと思います。彼らの弱さみたいなものがちゃんと描かれているので、今年公開できる意味がすごくある映画になっていると思います」

小松「個人の人生にも、社会的にも、いろいろなことが起きるけれど、止まることってできないから、前に進んでいくしかない。状況に応じて人の考え方も変わっていくし、時間とともに忘れることもあれば、また思い出してつらいときもあるかもしれない。長谷川家もそんな風にこれから進んでいくなかで、さくらの存在の大きさを感じました」


Writing:須永貴子

インフォメーション

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(C)西加奈子/小学館 (C)2020「さくら」製作委員会

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『さくら』

11月13日(金)公開


「サラバ!」で直木賞を受賞した西加奈子が、デビュー作「あおい」の次に発表した小説を映画化。ある年の大晦日に、2年間音信不通だった父(永瀬正敏)が、長谷川家に帰ってくる。その報せを受けた次男の大学生・薫(北村匠海)は久しぶりに帰省し、母(寺島しのぶ)、妹の美貴(小松菜奈)、そしてサクラ(ちえ)と再会する。しかし、そこに長男・一(吉沢亮)の姿はなかった……。次男の目を通して、サクラと名付けられた1匹の犬と、長谷川家の5人の物語を描く。

▼公式サイト
https://sakura-movie.jp/

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