「台本と1本の映画になったときとの印象がまったく別物になっていて、まずそれにすごく驚きました。一番大きかったのはさつき像。私はさつきっていわゆる“普通の子”で、この物語はその普通の女の子が最愛の人を失い、それをどう乗り越えていくかっていうお話だと思いました。彼女の周りに起こることはファンタジーなことが多いし変わっている人物たちもいっぱい出てくるんだけど、だからこそさつきは…作品の中心となる人は、やっぱりブレちゃいけないな、現実に起こったことに対してちゃんと噛み締める人、どう生きていくかをちゃんと考えられるのがさつきという人間だなって思ったんです。でも監督はさつきは普通の女の子ではあるけど、そこにちょっと不思議というか、行動だったりが少し変わっている感じで演じてほしいという構想でした。そこは結構現場で話し合いました。やっぱり自分で演じながら“こっちの方向ではないかも”と思うこともありましたし」
「さつきは繊細で言葉が少ない分内側には強いモノがあって、最愛の人を失った同士の柊とも何もしゃべらなくても分かり合えるとか、お兄ちゃんと彼女を同時に失くしている柊は自分以上に辛いはずだと思いやれる細やかな心があるんです。そういういろんなモノを“秘めた”さつきのほうが私はすごく好き。例えば喪失感で食べれなくなるっていうのも、“心と身体はやっぱり繋がっているからそうなるよな”って自分も思うし、そこには観ている人たちも共感できるような部分がちゃんとある。そういうリアルも大事にしたかったから…」
「はい。なので私のやりたいことはちゃんとやって、その上で監督が求めているものにもちゃんと寄り添おうと務めました。最終的にどうだったかというと、起こったことに対して、それぞれが抱えているモノに寄り添いながら物語が進んでいく、本当にシンプルなお話になっていた。画もすごく美しかったですし、みんなちょっと現実から浮いてるんだけどちゃんとリアリティのあるその感じ、(原作の吉本)ばななさんの世界観と監督の世界観がちゃんとマッチしたこの作品だけの空気感になっていて、すごいな、今の日本の映画にはないような映画が作れたのかな、と思いました」
「内容的にはやっぱり暗い話だけど、でもそこに服装なんかもすごくポップで明るいものを持ってきていて、部屋のインテリアも監督が“もっとクレイジーにしたい”ってずっと言ってたんです。初めは“なんでクレイジーなのかな?”って思って(笑)。その表現方法はどういう意向なんだろうって。でもそこも完成した作品を観たときに理解しました。さつきたちが内側に持っているモノの重さと物語から受け取る気持ちの中にある暗さ、そして背景に配された明るい色という逆のものがうまくひとつの世界で重なりあっていることで、すごく見やすかった。重くなり過ぎず、でもそこにちゃんとリアルな人間の感情を乗せていくっていう繊細さ。いいですよね。とても」
「いっぱいあります。始めに本読みを何回もして、みんなで一人一人の人物の土台作りから始めて…さつきと暮らしている猫の名前も、監督と話して決めたんですよ。“菜奈は猫に名前をつけるとしたら何がいいと思う? 僕はエマかな”って。“私はエマだと少し強過ぎるかも。月だからムーンとかどうですか?”とかあれこれ案を出して、クーという名前にしました。そういう感じで監督は常に一緒に考えてくれるし、柔軟ですし。同時にこちらはいつも問うことをされているとも感じました。監督の中にやりたいことがいっぱいあって、とにかくできる限り私たちもいろいろやってみよう、みたいな感じが新鮮だった。コミュニケーションは英語で、上手く自分で伝えられない部分とかは通訳さんもいらっしゃるんですけど、でも私としてはなるべく自分で伝えたいと思ったし、そこはもう言語じゃないことを感じてほしいなとも思っていて。監督からもらうアイデアや演出はすごくあったからこそ、自分もこちらからから与えられるものを監督にも感じて欲しかったので。その積み重ねがやっぱり最終的にすごくいい味になってますよね」
「“目のお芝居”みたいなのもすごく要求されました。本当に繊細な部分を監督は求めていて、ちょっとドキュメンタリーみたいな感じですね。だから私たちも素直に自分のペースでひとつひとつをちゃんと丁寧にというか、呼吸ひとつでさえも、その人がちゃんと生きているものを残したいと思っていました。もちろん試行錯誤はありましたし、ディスカッション的な部分もありました。死者ともう一度会える<月影現象>を語り合うシーンは台本上の中のセリフを超えて本当にリアルに話そうということになり、みんながそれぞれ言うことを自分で考えてきて、リハーサルもなく撮ったんです。お互い初めて聞く言葉でお芝居をする新鮮味が現場に溢れていて、それも全部映像に映し出されています。そうか、監督はそういうところを狙っていたんだな、そういう“生もの”を愛している人なんだなとわかって、こういう緊張感ってすごくいいなと思いました」
「すごく異色のメンバー(笑)。やっぱりみんなと一緒にいると楽しくて。ナナちゃんも緋美くんもフレッシュで現場でもいい風を吹かせてくれていましたし、氷魚くんも実際に長男らしいんですけど、その長男感が現場を引き締めてもくれていたし、すごく頼もしかったです」
「ラジオの部分とか」
「麗は不思議な存在の人物なんだけど、彼女に“声を出してみない?”と言われた時、柊とはずっと一緒にいるけど柊とはそういう話はできないし、でもこの人には話したいなって、さつきは思えた。たぶん会った瞬間から…知らないからこそ本心を伝えられる、心の架け橋になってくれるような人だって感じてたんです。あのシーンは、たぶん感情が漏れちゃうというか、麗と対面してやっと心の詰まっていたものを吐き出せる瞬間の緊張感、戸惑い、葛藤みたいな部分が一連の中での勝負でもあったので、私はそこをたっぷり使わせてもらって。監督とも事前に話さなかったしト書きにも“泣く”とかはないけど、でもそういうアプローチもしてみようと思って挑みました。ある意味、結構挑戦的だったというか、賭けではあったんですけど」
「監督はもっと淡々としたイメージだったみたいだけど、“すごい、そういう方向もあったね”って。現場で起こる感情、エキサイティングな部分を一緒に感じることが出来て嬉しかったです」
「今作の撮影は、私自身が25歳になってあらためて“生と死”というテーマについて向き合える時間にもなりました。そこで感じたのは、自分にとっての大切な人、家族だったり周りの友達だったり、いつも近くで支えてくれている人の存在のありがたさ。特に今この時代を生きていると、“生と死”ということを含めて“いてくれて当たり前”ではないんだってことをより強く、より身近に感じざるを得ない状況にもなってしまっているので。本当に何気ない瞬間の愛おしさとか人と会えることの大切さみたいなものを、この映画からもなにかメッセージとして感じてもらえたらいいなと思います」
「強いです。“映画俳優”って言ってもらえることがすごく嬉しいですし、デビュー以来映画を教えてくださった監督だったり、周りの人だったり、今もこうして映画を求め、私を求めてくれる人がいてくれて本当に幸せ者だなと思います。やっぱり映画の現場が一番好き(笑)。限られた期間の中で一緒に作品を創り上げていくということ。映画が好きな人たちが映画を愛し、一緒に同じものを食べ、一緒に同じ楽しさや苦しさを味わいながらひとつの方向性に向かっていく。その全てが好きなんです。そして創り上げた作品をこうして公開できるというのは、やっぱりしみじみと幸せなことだと思うんですけど…自分たちしか知らなかったものをいざ世に出すときって、嬉しいけど寂しい、みたいな気持ちにもなって」
「そう、そういう感覚もあります(笑)。でもいろんな人に観てもらいたいし、観てもらわないと! 創って、そして、届けることが私たちの仕事。これからも届け続けていきたいです」
Writing:横澤由香
<衣裳協力>
ジャケット ¥163,900 トップス ¥71,500 パンツ ¥82,500/以上パトゥ(イザ TEL.0120-135-015)
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