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『害虫』の塩田明彦が自身のオリジナル脚本を監督した『さよならくちびる』は、インディーズ・シーンで人気のギター&ボーカル・デュオ〈ハルレオ〉の解散ツアーを描くロードムービーだ。W主演を務めるのは、ハルを演じる門脇麦と、レオを演じる小松菜奈。ローディー兼マネージャーのシマ(成田凌)を含めた3人のもつれた感情の行方を追いかける本作について、小松にインタビューを行った。

「みんなに」ではなく「誰かに」伝えたいという気持ちで歌いました

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―― 映画は、ハルとレオがシマの車に乗り込むところからスタートするが、ハルとレオは挨拶どころか目も合わさない。彼らはこれから全国7会場を回る解散ツアーに出発する。彼女たちがライブを行う現在時制に、2人の出会いから始まる過去の出来事がインサートされ、彼らが解散を選んだ理由が徐々に明らかになっていく。本作では3人に関するシーンしか描かれず、それ以前にどんな人生を送ってきたのかという説明はない。

「脚本にも書かれていなかったので、その部分は自分で想像しました。性格とかを文章に書いたりして。多分、良い家庭ではなかったんだろうなと。誰かに愛されたこともなければ信頼できる人もいなくて、孤独に、何かにしがみつきながら必死に生きてきたんだろうなと思いました。そんなレオにとって、音楽を一緒にやろうと誘ってくれたハルとの出会いは運命的なものだった。ただ一緒にいる、ご飯を食べる、音楽を作るということを共有できたことにレオは感動したし、光が差し込んできたような感覚だったと思います」

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―― レオは、誰をも魅了する美貌の持ち主だが、言動がガサツ。一方、寡黙なハルは、自分の思いを自作の歌で表現する。

「ハルは硬くて、レオは自由奔放。性格は全然違うけれど、シマも含めて、3人とも自分をうまく伝えられない不器用さが似ていると思います。レオを演じるときは、心のなかに小さな子どもがいるような感覚でした。座り方や歩き方も、いちいち大きく動く感じ。セリフに関しては、塩田監督が『言いにくければ、レオが言いそうな感じであれば、しっくりくるように語尾を言い換えていいよ』と言ってくださいました。監督自身が言葉がなくても気持ちは伝わるという考え方だったので、まずは自分が思うように自由に動いて、それを見ていただいて、役を固めていきました。そういうやり方は楽しかったですし、今まで演じた役のなかで、感情移入も一番しやすかったです」

―― 回想シーンは3人にとって重要な出来事が占める。ハルの手作りカレーを食べたレオがポロポロと泣き出したり、夜の自動販売機の前でレオがハルへのある感情をぶつけたり。2人の過去のダイジェストに、どのように感情のピークを持っていったのだろうか。

「使われている映像が少ない場面でも、現場では長回しで撮っていただけたので、感情は作りやすかったです。私、カチンコが鳴るとすごい緊張しちゃうんです(笑)。顔がこわばったり、泣くシーンで余計な力が入っちゃったり。でも、塩田監督がカチンコを使わない方なので、自然な流れでお芝居ができました。カレーを食べるシーンでは、レオの奥にあるピュアな部分が言葉じゃなくて涙で出てきたんだと思います。自動販売機のシーンは、実は撮り直しました。一度撮ったあと、麦ちゃんも私も、ハルとレオの感情に到達しきれなくて、『なんか気持ち悪いね』『わからないままだね』と困惑が残ってしまったんです。納得できずに終わってしまって『んー』とずっと言いあっていた私たちに、塩田監督やスタッフさんが気づいてくださって。気持ちよく終わるために再撮しようと言ってくださって、クランクアップの日に撮り直しました」

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―― そもそも、1回目ではなぜ不完全燃焼に終わったのかというと、このシーンにおいては塩田監督から動き方を指示されたからだそう。自動販売機が放つ光が、彼女たちを美しく捉えた映像を見れば、その意図は明白だ。

「撮り直しがきまってからは、監督と麦ちゃんと3人で話し合いながら、相手を引き寄せたり、離したり、背を向けたり、向けなかったり、いろいろと動きながら探っていきました。些細な動きの違いで、映像に映るニュアンスが変わるし、2人の感情の伝わり方も全然違う。再撮できて本当に良かったですし、いいものを作るには話し合いが一番だなと実感しました」

―― 本作において、間違いなく最大の見どころの1つが、ハルレオのライブシーンだ。小松は初めてのギターに挑戦し、弾き語り曲を3曲マスターした。楽曲の作詞・作曲をしたのは、主題歌の「さよならくちびる」が秦基博、挿入歌の「たちまち嵐」「誰にだって訳がある」はあいみょんだ。

「まずは『3曲も!?』とびっくりしました。弦の抑え方や右手の使い方など、初歩の初歩から始めて、しかも歌いながら弾くということで、不安でいっぱいでした。まずは先生に教えていただいたことを家で繰り返し練習するという地味な作業をするしかなくて。孤独な戦いを続けるうちに、麦ちゃんはどれくらい進んでるのかが気になって、2人で一緒に練習をしようということになりました。最初はほぼはじめましてだったので、お互いに遠慮があったけれど、プライベートでギターを担いで渋谷のカラオケ店に行ったりするうちに、どんどんいい雰囲気になっていって。歌とギターも、バラバラで練習するよりも、弾きながら歌ったほうが上達が早いことに気づいて、どんどん楽しくなっていきました。初めてのことをやるのは大変だけど、追い込まれると意外とできるんだなと思いました」

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―― 撮影ではエキストラを入れたライブハウスでの生演奏も行った。

「純粋に、驚きです(笑)。もちろん、実力よりもうまくできているように見せてくれるカメラマンさんたちの協力もあるんですけど、大事なのは“気持ち”だなと思いました。上手い人はたくさんいるし、全然敵わないので、上手い下手じゃなくて、レオの気持ちや、ハルレオの2人の温度がちゃんと伝わったらいいなと思いながら演奏しました。たくさんの人に伝えるのも大事だけれど、私が大事にしたのは、『みんなに』ではなく『誰かに』伝えたいという気持ち。そう考えると、自然と声を張らなくなるし、誰かに語りかけるような歌い方になったんです。とにかく硬くなりすぎず、レオらしくのびのびと自由にやることを心がけました。せっかく秦さんとあいみょんさんが作ってくださった楽曲なので、この映画を観た人に口ずさんでもえたらいいな、と思っています」


Writing:須永貴子

インフォメーション

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(C)2019「さよならくちびる」製作委員会

MOVIE

『さよならくちびる』

5月31日(金)公開


ギターデュオの〈ハルレオ〉はインディーズ・シーンで人気を博していたが、突然解散を決断した。メンバーのハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)は、ローディー兼マネージャーのシマ(成田凌)の運転で、全国7都市を回る最後のツアーへと出発する。浜松、大阪、新潟とライブを重ねるうちに、ハルレオ解散の噂が広がり、ラストライブとなる函館には満員の観客が押し寄せる。それなのに、なぜ彼らは解散するのか? ハルとレオ、そしてシマの間になにがあったのか? 最後の歌を歌い終えたときに、彼らはなにを決断するのだろうか?

▼公式サイト
https://gaga.ne.jp/kuchibiru/

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