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自身にとって2作目となるストレートプレイ、COCOON PRODUCTION 2022 NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』の出演を控える葵わかな。今は稽古の真っ最中、1999年に蜷川幸雄と野田秀樹のタッグから生まれた、いわば20世紀の演劇界に産み落とされたレガシー的作品の中枢に潜り込む日々はまさに「すべてが面白い!」。楽しみだらけの本番に向け、そのたぎる思いを語ってもらった。

「こんな面白い脚本があるんだ!」と心が踊った気持ちのまま、優しくてカッコイイ作品世界を生きていきたい

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―― 『冬のライオン』『パンドラの鐘』と大作出演が続き、演劇への軸足もよりグッと力強くなっている2022年前半。今はやはり、“舞台モード”?

「そうですね。でも間に映像も撮ったりしていたので…どうなんだろう? 自然と現場によって切り替えられている感じでしょうか」

―― 稽古場での本読みには1999年に作・演出を手がけた野田も同席したという。

「まさか現場にいらっしゃるなんてと、びっくりしました! その時は私たちの様子をご覧になって「好きにやってほしい」とおっしゃってくださいました。それはものすごくありがたいと思いました。そこまでちゃんとお話しする時間はなかったのですが、印象は「あ、野田さんだ」(笑)。舞台で拝見した野田さんのままのイメージでした」

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―― 本作は1999年に野田の戯曲を蜷川と野田がそれぞれに演出した2本を同時期に上演するという非常にエキサイティングな形で誕生した。太平洋戦争開戦前夜の長崎と古代王国で起こったとある出来事を同時進行で語りながら、実際に日本が経験した歴史的事実に肉薄するメッセージを孕んだこの物語、2022年の今向き合うことで、戯曲からはどんなイメージを受け取っているのだろうか。

「台本はすごく緻密で──現在と古代が交差しているという意味でもそうですし、最初のテイストと観終わった時の感想が違うというか、ポップなテイストで始まって、現代の言葉がいっぱい出てきて面白いなって思っていたら、実はすごく大切なことが隠されていた、という印象。しかも伝えたいことが“何かに包まれている感じ”っていうのもあり、そういう構成がすごく面白いと思いました。自分も読んだ時そうだったし、おそらくお客様も同じように感じられるのではと思うんですが、まず現代と古代が交差していくところで「これ、何の話なんだろう?」って思い、そして「パンドラの鐘って一体なんのことなんだろう」ってこともなかなかわからなくて最初はちょっとだけ置いてきぼりになるかもしれないけれど、でもやがていろいろなことが分かってくると、「ああ、あれはこうだったのか」みたいなところにスッとたどり着く。その伏線の張り方とかもとても面白くて、こういう表現、素敵だなと思いました」

―― 葵が演じるのは古代の女王・ヒメ女。政治的策略で兄を差し置き若き王となる運命を背負った少女だ。まつりあげられた存在かと思いきや、物語が動くに連れグイグイと強い意思を獲得、短い時間の中で鮮やかに成長していく魅力的なキャラクターである。

「ヒメ女は14歳ですが、演じるにあたっては14歳の幼さというか、無知な感じ…無知で無垢な感じがキャラクターにとってとても重要なベースになってくると思うので、それをどんな風に表現するのか。いわゆる女王として作られた“こうあらなければ”という表の顔と、隠しきれない少女の感じと…。今は演出の(杉原)邦生さんとお話ししながら、そして実際にやってみながらちょっとずつ外枠を探っている段階です。邦生さんもおっしゃっていたのですが、ヒメ女はいろんな気持ちに整理がついていない、あっちいってこっちいってと気持ちがごちゃごちゃしているところからスタートしていくような人なので、そのもともとの幼い感じと、あと、そこを自覚していくところの女王としての品位を──言葉にするのは難しいんですが、そういう変化を伴う人物をイメージしてお稽古しています」

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―― 同世代から大先輩の演劇人まで、共演者の顔ぶれも豪華且つ個性的。座組みのムードは?

「すごく明るくていい雰囲気だと思います。今はまだ全体のカタチを作っている段階なのでお芝居に関してはほぼノータッチというか、お芝居のことは好きにやっていいという雰囲気で、思い思いのことをそれぞれがやっているみたいな感じ。たぶんこれからもっとすごいことになっていくと思うのですが、それを許してくれる自由でのびのびとした空気感ではあります。稽古の仕方自体も独特で、今は現代パートと古代パートを完全に分けてやっているので、本読み以降は現代パートの方とお会いしてなくて。もちろん時空が重なっているところでは同じ舞台上にいるんですが、よく考えてみると過去と現代とで一緒にお芝居するってことはなく、この前粗通しをした時も、現代パートはホントに違う作品を観ているような気持ちになりました。「こっちはこんな風になってるんだ」って。全体を知っているのはまだ邦夫さんだけ、みたいな(笑)。今はそれぞれのパートに集中しています」

―― “違ったふたつが並行していく”面白さ、難解さ、そして最後に行き着くだろう事柄を想像し怖さすら感じながら作品を楽しむことが、まさに本作の醍醐味でもある。

「確かにそうですね。「きっと何かに繋がっているんだろうけどどこだろう」っていうのは、常にすごく思わされますよね。ここで彼らは何を語っているのか、そこを本当に最後のほうまで教えてくれないような」

―― さらに最後までたどり着いてもなお、待っているのは何かをハッキリ刻印しないからこそ感じられる“抽象的な感動”。その手触りは別格だ。

「それは本当に私も共感で、物事って明確に言った時にそれ以外の選択肢をなくしちゃうっていう怖さもあるじゃないですか。例えば何か悲しいことがあった時に、その悲しみはその人だけのものであって、それに対して周りが…もちろん慰めるとか寄り添うっていうのはあるけど、寄り添い方のひとつとして「何も言わない」ということ、はっきりさせない、ぼやかすっていう在り方もすごく優しいことだなと私は思うんです。この作品はそれがすごく顕著。私の一番好きなところは(成田凌さん演じる)ミズヲとヒメ女の関係性についても何も提示されないところ。そこには確実にイメージはあるけど、でもそれが何かは誰も言わないし、最終的にヒメ女のたどる道筋がいいことなのか悪いことなのかもはっきりと語られることはない。全て隠されている。けれど、それは観る側に委ねているっていうことなんですよね。この物語を観た人が感じたその人の気持ちを否定しない優しさ、みたいなものが作品自体にあるから本当にすごいなって。それは脚本を最初に読んだ時にも感じていました。かっこいいですよね。
邦生さんも野田さんに「全部が全部論理づけていくと成立しないですよね」と投げかけた時、「そうだね」とおっしゃっていたよって。確かに私も最初はいろんなことをちゃんと繋げて考えなきゃって思ってたんですけど、そのおふたりのやりとりを聞いてすごくヒントをいただけたと思いました。そうか、ここにあるいろんな事って、決めつけたりせずもっとぼんやりして、ぼやけていて、イメージみたいなほうがこの作品には合うのかな、と」

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―― 本公演は「NINAGAWA MEMORIAL」と冠されている。これまで蜷川作品との接点は?

「残念ながら作品を拝見するチャンスがなくて。でも、『パンドラの鐘』の初演は23年前。私は今年24歳になるんですけど、ちょうど私が生まれた頃にこの戯曲で演劇バトルみたいなことが行われていたんだって思うと、それもなんだか不思議な気分で、その数字にもすごい私はいつもドキドキしてしまうんです(笑)。稽古場のホワイトボードに色々連絡事項が書かれていて、そこに当時の新聞記事が1枚だけずっと貼ってあって、そこに「演劇バトル」って大きく書いてあるんです。これ、誰がコピーしてここに貼ったのかな?と思いつつ(笑)、でもそれだけ大きい荷物を背負っている作品ではあると絶対思うので、いつも常にちょっとだけその記事の存在感を感じながらお稽古しています。また、邦夫さんはじめ今回のキャストみんながそういう背負う気持ちを持っているのも確かですし、今できる『パンドラの鐘』を作ろうっていう意識もすでに一致していると思うので…演出方法もそうですし、自分たちの年齢もそうだし、逆に今までの作品に引っ張られずに、むしろ知らないぐらいがちょうどいいのかなって思ったりしながら、無鉄砲に挑戦したいなという気持ちが大きいです」

―― では杉原版『パンドラの鐘』の魅力を語るなら…

「今稽古をしていて感じるのは、ストレートプレイだけどエンターテインメントという側面がとても強い作品だということ。例えばミュージカルってもともとエンタメ要素が大きくてどんな人にも分かってもらえて楽しんでもらえるっていう側面が強いかなと思っているのですが、この作品はストレートで言葉しかない演劇だけど、でもそんなミュージカルのようなエンタメ要素が強いというか…早く観ていただきたいんですけど、すごいんですよ! 衣装もすごいし、私のウィッグとかも宇宙人みたいだし、ダンサーさんのダンスとか俳優たちの動きとか、取り入れているものがすごいエンターテインメント! 私はこういう作風の作品に関わるのが初めてなので、物語のリアル感とビジュアル面でのエンタメ感をどう繋げていくのかっていうのはこれからもっとやらなきゃいけないし、楽しみです」

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―― アートの中にいるような感覚?

「そんな感じです。大胆だし、ビビットだし、形になってくればなってくるほど、全てが面白い。舞台装置や演出は本来自分の味方なんだけど、でも今回はそこに立ち向かっていかなきゃいけないのか、みたいな気持ちにはなってきています。自分から全部を巻き込んで観た方にも「うわ〜、すごい!」って思ってほしいし、でも自分の初心は忘れずにしっかりと挑みたい。最初に台本を読んだ時、単純に「すごい。こんな面白い台本があるんだ!」って思い、「ぜひこの役をやりたい」と感じ、「実際に私はこれをできるんだ」という純粋な喜びと「この時代に自分がこの作品に参加できるなんてすごいラッキーだな」と思ったあの気持ち。その最初の衝動は今もずっと続いていて、やればやるほど難しいし荷物は重いような気もするんですけど(笑)、一番最初のあの喜びの気持ちのままとても楽しく稽古へ挑むことができています」

―― また、“役者心”を掻き立ててくれた『パンドラの鐘』は驚くほど今世の中で起きている事象にも重なり、その内容の深さと鋭さにも大いに共感している、とも。

「これも邦生さんがおっしゃっていましたが、「いい戯曲はいつも上演されるその時の時代に反映していく」と。私もそう感じていますし、もしこの作品が観てくださった方たちの中でもそういう時代を反映した存在になれるのであれば、演劇をやっている中のひとりとしてもすごく光栄なことだなと思います。エンタメで世界が変えられるとか、そんな大層なことは言えないかもしれないけど…多分、いつだって誰よりもエンタメの力を信じている人たちがここには集まっていると思うので、自分も同じ場所に居られることにちょっとだけ光栄だなと自信に思いつつ…でも、普通に。いつもと変わらずひとつの舞台としてみなさんが愉しめるイマジネーション豊かな演劇作品が届けられるように頑張りたいと思っています」


Writing:横澤由香

インフォメーション

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STAGE

COCOON PRODUCTION 2022
NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』

【東京公演】2022年6月6日(月)~6月28日(火)Bunkamuraシアターコクーン
【大阪公演】2022年7月2日(土)~7月5日(火)森ノ宮ピロティホール


太平洋戦争開戦前夜の長崎。
ピンカートン財団による古代遺跡の発掘作業が行われている。考古学者カナクギ教授の助手オズは、土深く埋もれていた数々の発掘物から、遠く忘れ去られていた古代王国の姿を、鮮やかによみがえらせていく。
王の葬儀が行われている古代王国。兄の狂王を幽閉し、妹ヒメ女が王位を継ごうとしているのだ。従者たちは、棺桶と一緒に葬式屋も埋葬してしまおうとするが、ヒメ女はその中の一人ミズヲに魅かれ、命を助ける。
ヒメ女の王国は栄え、各国からの略奪品が運び込まれている。あるとき、ミズヲは異国の都市で掘り出した巨大な鐘を、ヒメ女のもとへ持ち帰るが……。
決して覗いてはならなかった「パンドラの鐘」に記された、王国滅亡の秘密とは?
そして、古代の閃光の中に浮かび上がった<未来>の行方とは……?

▼公式サイト
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/22_pandora/


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