「監督が、カメラや照明など全てやるんです。初めて現場に行った時にビックリして、「監督が全部やるんですか?」って聞いたら、「そうだよ」ってさらりとおっしゃって(笑)。アシスタントさんもいらっしゃいますが、監督が基本すべての作業を担当されているので、1日に撮れるのは1シーンが限界でした。監督は1シーンごとにこだわりを持たれていたので、細かい部分を修正したり、当日話し合いながら撮影をしました」
「ワンカット長回しが多い作品でしたが、監督は映像の光にすごくこだわっていて、お芝居のリズムが少しでも崩れるとNGでした。お話自体大きな起伏があるわけではない、何気ない日常のシーンがメインとなる中、だからこそ隅々まで見えてしまうところがあると。方言もそうですけど、キャラクター同士のテンポ感など、監督がとにかくこだわっていらして、こんなにテイクを重ねたことがないというぐらいやりました。3月に撮影したものを9月に再撮したこともあります(笑)。私の撮影は昨年の3月と9月と10月だったんですけど、高杉(真宙)さんと清水(尋也)さんはその前の年の3月からやっていたみたいで。そう思うと2年かかっているんです。一ヶ月で撮るつもりが2年かかってしまったっておっしゃっていました(笑)」
「言葉稽古はクランクイン前から始め、映画の撮影中もクランクアップの前日までやっていました。監督は、私たちに本当の京都の子になってほしいと思っていたんだと思います。そうじゃないとどこかでばれてしまう、と。方言指導の方が京都の方で、その先生によると、東京の人は言葉が走っていて、すごく早口みたいです。また、これは京都弁のイントネーションだけど、もうちょっと伸ばすよねとか言葉と言葉の間にあるコンマ何秒の間がとても難しくて、京都の人じゃないとわからない感覚だなって思いました。そういうところを指摘されても、私自身は実感がないので、回数を重ねるしかなかった。でも、言葉稽古を重ねて、撮影していくうち、今のはちょっと言葉が走ってしまったなとか、自分でもわかるようになっていきました」
「原作があると映像化する上でアレンジをすることが多いと思うんですけど、今作では監督の思い入れが強く、原作をそのまま映像化したかったんだと思います。台本の最後にも原作が入っていて、それを見ながらこの角度のこのポーズでこの顔をしてほしいというリクエストがあり、それがとても難しくて。原作のタナカ先生も主人公も、そして監督も男性で、男性から見た女の子像がとても神聖なイメージなんです。女子からしたら現実味がない女子像なんですけど(笑)、そこのギャップがとても難しかったです。生身の人間が演じる上でのリアル感や現実味が出てしまうところを、監督は極限までなくしたかったんだと思います。監督がイメージするみこと像から一歩でも、指爪ぐらいでも出たらアウトになってしまう。でも、私は私が演じる以上、私らしさを出したいと思っていました。私の癖も混じったみことを見せたいと思ったんですけど、最初は枠から出るのが怖くて、出ないように、出ないように意識していて。このままだと私でなくてもいいんじゃない?って思い始めたとき、「よし、じゃあ、ギリギリ出るか、出ないかのラインで攻めてみよう!」と決心して、私らしいみことをやってみようと思いました」
「昨年3月に撮ったシーンはだいだい上手くいかなくて(笑)、すごくテイクを重ねたんです。バトミントンをやっていたみことが、赤田くんのいる教室に羽を取りに行くシーンは3月に撮ったんですけど、再撮になって9月に撮り直し。英単語を覚えている赤田くんに「何個おぼえたん?」って話しかけて、「まだ1個」って返事が返ってきたら笑うシーンなんですけど、監督はその笑う間もすごく厳しくて、一回わけがわからなくなったんですけど(笑)、受け身じゃなくて攻めの姿勢になったら上手くいきました。あと、青もみじが茂る道を「赤田くーん」って駆け寄っていって会話をするシーンも。特にこのふたつは気持ち良くできて印象に残っています」
「監督や赤田くん役の高杉さん、方言指導の方とリハーサルやディスカッションを重ねて撮影に挑んだので、一緒に作品を作らせてもらえてるように日々感じられて、とても楽しかったです。製作する人、演じる人って分けられる感じではなくて、一緒に作っている感じをすごく味わえて、新鮮な体験でした。監督がすごくチーム感を大事にされていて、人数も少なかったので、みんなで撮影後にご飯を食べに行ったのも楽しかったです。高杉さんも私も漫画、アニメが好きなので、そういう話を熱烈に語り(笑)、私が好きなものを高杉さんに勧めたり、監督に勧めたり。高杉さんも私も、二人ともオタク同士だけど読んでいるジャンルが違うので、みんなで本屋さんに行って、監督に「これは絶対読むべきです」って熱く語りました(笑)。趣味の話であんなに盛り上がれたことが今まであまりなくて、すごく楽しかったなあ。それに混じってお芝居の話を聞けたこと、自分で話したこともとても貴重でした。私はお芝居の話を人にしたことがなかったんですけど、お芝居について自分以外の人の考えを知れたことが大きいです。それはみことを演じる上でも発見が多くて。自分がお芝居ってこうだって思っていたものがそうじゃなかった。自分が考えていた、お芝居の概念を破らないとみこと役はできませんでしたから。破るまではすごく悩んだけど、破るきっかけをしつこく演出する監督が与えてくれて(笑)、気付かざるを得なかったです。それだけ時間をかけてやらせてもらえたので、こういう演出もあるんだって。作品自体は大きな起伏がなくてとりとめのない話だと思いますが、私にとっては衝撃的というか、すごく大きな作品になりました」
「もともと和柄やお抹茶が好きなので、京都も大好きでした。この作品で京都に一ヶ月半ぐらい行っていたんですけど、撮影自体はとてもゆったりとしたスケジュールだったので、京都の街をよく歩いていました。古い町並みが残っていて、ゆったりとした空気が京都らしさだなって、ますます好きになりました。ちょうど撮影時の去年は本厄だったので、八坂神社は有名だし、ちょうど京都にいたので厄払いもしました。9月ぐらいだったのであと少しで今年が終わるなって思いながら(笑)。お寺にも行ったし、すごく充実していました。最近も撮影で京都に行く機会が多いんですけど、そうそう、これこれって。京都のこの時間の流れに帰ってきたなあって」
「「わろてんか」の役も京都弁で、京都好きな私としてはとっても幸せなこと。また、この映画でやったことがいきていると実感中です。京都の言葉もですが、『逆光の頃』で撮影に行った場所にまた行ったりしていて、すべての経験がつながっていると感じます。あのときは大変だったけど、みっちりやっておいて良かったなあって(笑)。これからの長い撮影で壁にぶつかったりするかもしれませんが、今はただ何も考えず、やるだけやってみようと思っています」
Writing:杉嶋未来
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