「プロデューサーから企画の提案を受けたのは去年の6月頃で、出来れば年内には撮影したいという、かなりタイトなスケジュールでした。でも韓国のオリジナル版を観せてもらったらすごく面白くて。いままで僕があまりやっていないテイストの作品だったこともあって、『是非やりたいです』とお伝えしました。オリジナルでは塁役の男性が明香里役の女性よりもかなり年上の設定なんですが、日本版では年下の設定にしたいなぁと思った時に横浜流星くんの顔がパッと浮かびました。『でもさすがにこのタイミングじゃ、横浜くんは無理だよなぁ』と思っていたら、なんと横浜くんのスケジュールも奇跡的に合って(笑)。キャスティングって、決まらない時はなかなか決まらないのに、決まる時はこんなにもとんとん拍子に行くものなんですよね。その時点ですべて上手くいくような予兆がありました」
「これまで恋愛映画を多くやってはいますけど、こう見えて僕は大の格闘技好きなんです(笑)。横浜くんが極真空手の世界チャンピオンだったことももちろん知っていたので、『いつか横浜くんで本格的なアクション映画が撮れたらいいな』って、実はずっと狙っていて。だから今回はラブシーンと同じくらい、アクションシーンにも力が入っているんです」
「アクションシーンって、普通は技術的に足りない部分を編集で補ってカッコよく見せたりすることもよくあるのですが、横浜くんの場合、格闘技のポテンシャルというかスペックが高すぎて。全編吹き替えなしで本人がやっています。最初の練習風景を見た瞬間『これはもう、本人が全部やれちゃうな』と悟りました。撮影では上半身裸になるので、クランクイン前にも記録写真を撮っておいたんですが、横浜くんは撮影までに10キロ近くパンプアップしてきていて、その役者魂もすごかった。もし許されるなら、ビフォーアフターを皆さんにもお見せしたいくらいです(笑)」
「『僕等がいた』は、自分の監督人生においてまさにターニングポイントというべき作品で。あの映画がヒットしたことで、いろんな企画のオファーをいただけるようになりました。吉高さんには『僕等がいた』の撮影時に本当に助けてもらったし、その後も主演作を沢山重ねられてきているので何の心配もありませんでした。むしろ今回は、横浜くんが出してくるものを、吉高さんがどんな風に受け止めるのか楽しみにしていたんです。横浜くん本人もずっとやりたかったアクションが出来るということもあって、すごくモチベーションが高かった分、気負いすぎてしまう時もあったんですが、そこを吉高さんが年上の包容力でほぐしながらもリードしてくれて、すごく頼もしかったです(笑)。横浜くんが吉高さんによって引き上げられていく部分も感じられて、二人のお芝居のコンビネーションが現場でうまくいきました」
「吉高さんは今回目が見えない役どころだったので、あえてベストなアングルから少しずらした部分もあるんです。『本当はこの位置から撮りたいんだけど、そこにカメラが入ると塁と目線が合ってるように見えちゃうから、違う位置に入ろうか』といったような足枷が、今回はむしろ良い方向に働きました。『僕等がいた』の時とは、また一味違った吉高さんの魅力が引き出せたんじゃないかなと。一方、横浜くんの場合は、憂いを帯びた表情が素敵なので、映画の中でもそこをうまく見せたいなと思っているうちに、なぜか女優さんを撮っているような錯覚に陥っていることに気付いて、自分でも驚きました(笑)。もともと僕はアンニュイな部分に興味をそそられるタイプで、美しさとか儚さとか切なさとか、笑った後のちょっとした真顔とか、何かを見つめるときの視線とか、陰りがあるけど美しく見える瞬間だったりとかを、撮影中に探ることが多いんです。『横浜くんの場合はどのアングルが一番素敵に見えるかな?』って、普段僕が女優さんを撮る時のようにずっと探っていたような気がします。カッコいいので、どんどん撮りたくなっちゃうんですよね(笑)」
「実は、塁のヘアスタイルは、目が見えるか見えないかのギリギリのところで、かなり厳密に微調整しています。明香里と付き合い出してから、ほんのちょっと前髪が上がってるんですよ! 絶妙な前髪の長さを現場で調整しながらやっていたので、ヘアメイクさんには相当苦労をかけちゃったんですけどね(笑)」
「実はタイトルを『きみの瞳(め)が問いかけている』にしたことで、自分の中で『この映画はこうするべきだ』という道筋が見えて、全体像を掴めた感じがしたんです。『目の見えない明香里が塁を見つめている』というのがポイントになっているので、塁が見つめ返した時に感じたことを、観客の皆さんにも共有してもらえたらいいなと思っていて。そういった意味では、今回はエンディングから逆算して作ったようなところもあります。“光の象徴”である明香里と“影の象徴”であるはずの塁が、物語が進むにつれて徐々に反転してくるのも見どころの一つかもしれません」
「もともと僕はミュージックビデオを作っていたこともあって、ある種、ビジュアル以上に、音やセリフの微妙な上げ下げについても、実はすごくこだわっているんです。表情のお芝居よりもむしろ声のお芝居の方をディスカッションしながら微調整したりはするんですけど、今回はあまり自分を出さない塁のキャラクターの低めのトーンが、横浜くんの声にピッタリだなと思っていて。吉高さんとの声の対比もすごく気持ちよかったです」
「最初にOKが出たと聞いた時は『うわぁ、本当にBTSが!』って、ただただ驚きました。デモ音源がとても良かったので、エンディングだけではなく、別のシーンにも使わせて欲しいとお願いしたんです。同じ曲でも途中で聴くのとエンドロールで聴くのとでは全然違って聴こえるはずなので、ぜひ楽しみにしていてください!」
「町田さん、いいですよね。パブリックイメージ的には明るいキャラクターの人が怖い役をやると、得体の知れなさが増すというか。町田さんとも『塁に接する時は物腰が柔らかい方が逆に怖いよね』という話をしていたんです。上手く反転して良かったです(笑)」
「コメディリリーフ的な立ち回りなんですけど、やべさんご本人もすごく格闘技が好きでキックボクシングの経験もあったので、トレーニングシーンは基本的に全部アドリブでやってもらいました。試合中のセコンドのかけ声も全部お任せだったんですが、すごく臨場感がありますよね」
「岩井俊二さんがカメラマンの篠田昇さんと一緒に組まれていた頃の作品の光の捉え方を、参考にさせてもらっているところがすごくあります。観客は物語のどこに心を動かされるかというと、人が人を好きになる瞬間とかだと思うんです。じゃあ、それをどんな表情で捉えるのかと考えたときに、僕は『なるべく自然光がいいなぁ』と思っているので、その光の捉え方にはものすごく気を遣っていますね。特に今回は塁が寡黙な役どころで、タイトルが『きみの瞳(め)が問いかけている』ということもあって、見つめられたときに言葉にはしないけど、キャラクターの心がどんな反応をしたのかっていうのは、すべて瞳に出るんです。僕の作品にクローズアップが多いのは、『微細な表情の動きを目で表現したい』という気持ちが強いからかもしれないです」
「原作が何巻にも及ぶ少女漫画の場合『どこをどう切り取るか』から考える必要がありますが、リメイクの場合は『どこを深掘りしていこうか』とか『どんなふうにアレンジしようか』といったところから出発出来たからこそ、思う存分格闘シーンに集中することができました(笑)。横浜くんは僕が要求したことが全部できてしまうので、試合のシーンに思わず見入ってしまい、カットをかけ忘れてしまったことすらありました。彼は決して『できないです』とは言わない人だけど、本当は相当キツかったはず。相手もプロでちゃんと距離感がわかっているので、本気でやってくれているんです。まさにライブのような感覚で撮れたので、撮影中はずっとワクワクしっぱなしでした」
Writing:渡邊玲子
MOVIE
10月23日(金)公開
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