「アンジェラ・アキさんが五島の合唱部を訪ねたドキュメンタリーを見て、こういう島で生まれ育った朗らかそうな子たちにもいろんな悩みがあるんだと驚きました。中田永一さんの小説では彼らの生まれ出ずる悩みが描かれていて、より子どもたちの葛藤が迫ってきました。僕自身、徳島の田舎出身でのんびりとした10代を過ごしていたんですけど、そんな悩みがなさそうな中学生にも人には言えない悩みがあったことを思い出しました。この子どもたちと同じように、僕も15歳の頃、自分と向き合うときがあったな、と」
「浸ってましたね(笑)。本当の俺は一体誰が知っているんだろう、見てくれているんだろう、自分の気持ちを理解してくれる人なんて誰もいないんだって、夕焼けを見ながら思ってましたね(笑)。まあ、その年齢なりにいろいろ抱えていたんだなって、今思い返すと愛おしい時間です」
「中学生の子たちから大人が学び、15歳の自分と向き合う話ということ、作品の中でどう居てもらいたいのかということを書きました。柏木は天才的なピアニストですが、心に傷を抱えています。この作品では、大人の代表だけど、一歩前に進めず立ち止まっていて、大人になりきれていない。映画を観る人が、自分と重ねる存在であり、柏木を通して、子どもたちと子どもたちの歌と触れ合い、同じように心が洗われたり、勇気や力をもらったりするといいなと思いました。観客のみなさんには柏木を通して感じることを、映画館から持って帰っていただきたいと思って。新垣さんとは、受け身の芝居や、心を閉ざしている柏木が子どもたちの歌によって変わっていく様のさじ加減を丁寧に話し合いながら作っていきました」
「びっくりするぐらいもらいました。本当はお互いが影響しあって、往復書簡にしたいと思っていたんですけどね(笑)。でも、子どもたちの圧倒的なまでのエネルギー、ひたむきさや真面目さなどから僕ら大人はたくさんのものをもらいました。今回出演いただいた、井川比佐志さんも、本読みのあとに「子どもたちからもらうものがいっぱいあるね」っておっしゃったんです。それを聞いた瞬間、これはそういう映画なんだって実感しました」
「そうなんです。親目線でこの子たちはちゃんと歌えるのかってドキドキしたんですけど(笑)、みんなの歌声は想像を超えて素晴らしかったです。本当に技術うんぬん関係ないんですよね。クランクイン前に取材でコンクールの予選を見せてもらったんですけど、大人には出せない、未完成の体が発する声の美しさを感じて、僕はその合唱を聴いて泣いたんです。そのときだからこそ出せる輝きや美しさなんだと思います」
「クランクアップの日は、僕はいつもなら『お疲れさまー! やったー!』ってひたすら明るい感じなんですけどね(笑)。今回は、達成感はあるけど、寂しくて、別れがたい感じがありました。子どもたちと気持ちがシンクロしたのかもしれない。教育実習とかで教師が感じるものに近かったんだと思います。ひと夏を子どもたちと一緒に過ごすことで、より自分に厳しくなる感覚がありました。自分は彼女たちから見てちゃんとした大人なのか、目指す人物になれているのだろうか。子どもは大人にとって鏡のような存在なんですよね」
「『くちびるに歌を』は今までの中で一番自分と向き合えた作品です。今までの作品では、どちらかというといろんな人の夢やイメージを具現化してきました。でも、今回はリアルなあのころの自分と向き合いながら作ったので、今までの作品の中で一番迷いました。15歳の自分に見られているぞ、それでいいのかって、自問自答していました。常に15歳の自分の視線を感じていて、15歳の自分とともに撮った作品だと言えます。それが今回すごく特別な体験になりました。僕や新垣さん、子どもたち、みんなもそれぞれに悩んで乗り越えながら作った作品なので、いろんな人に届くと嬉しいです」
Writing:杉嶋未来
MOVIE
2015年2月28日(土)より全国ロードショー
長崎県の五島列島の中学校に天才ピアニストだったと噂される臨時教員の柏木がやって来る。合唱部の顧問となった彼女は、冷めた表情で挨拶をし、「ピアノは弾かない」と言い放ち、生徒たちを戸惑わせる。そんな中、彼女は部員たちに"15年後の自分"へ手紙を書く課題を出す。そこには15歳の彼らが抱える悩みと秘密が綴られていた。その手紙はある理由からピアノが弾けなくなっていた柏木の心を動かしてーー。pagetop
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