「原作のタイトルは聞いたことがありましたが、読んだことはなかったんです。今回お話をいただいて読んだところ、これまで自分が映像化させてもらった少女マンガとはタイプの違う作品で、ぜひやりたいと思いました。『アオハライド』は、今この瞬間をどう生きるかを描く物語です。僕の今までの作品は、少女マンガを含めて、回想録というか、自分の思い出や記憶との向き合い方を描いていました。今回は、今この瞬間の、10代を生きている子たちの物語なんですよね。何よりヒロインの双葉が悩むよりも動くタイプで魅力的だと思いました。自分のキャラ作りを間違えたり、告白するタイミングを間違えたり、これだけ間違えたり失敗するキャラクターはなかなかいないと思うんですが(笑)、そこが愛おしいんですよね。間違えることなんて当たり前じゃんという、生き方を見ているとハッとさせられるんです。普段僕たちは間違えないように、失敗しないようにと思いながら生きています。彼女は全速力で間違っているけど、全然動かない自分たちよりも、前に進んでいる。その彼女の姿は、大人たちにも置き換えられると思いました。原作では恋愛のキュンとする部分もたくさんあるんですけど、僕自身、今この瞬間を生きる双葉たちの姿に感動したことが大きかったです。映像化する上でもそこを描いて、大人の人にも観てもらいたいと思いました。10代だけではなくて、20・30代でも40代、50代など上の世代の人にも楽しんでもらえることを意識しました」
「物語のテーマがライド感ということで、今この瞬間を逃さないようにしていました。その瞬間瞬間のそれぞれのキャラクターの動きや心情に寄り添うため、ステディカムを多用したカメラワークになっています。なかでも双葉の走っている姿が印象的なので、カメラも役者も動いてることを意識しました。本田翼ちゃんにはよく走ってもらいましたね」
「翼ちゃんは、考えてから動くというより、動いてから考えるイメージがあって、じっとしていないところが双葉っぽいと思いました。コロコロ表情が変わるところも似てますね。翼ちゃんには、双葉は自分なりに考えて答えを出す子でみんなが双葉を応援したくなるといいなと、事前に話しました。東出くんは、現場で洸をどう演じるかプランニングしたり、悩んだりしている姿が洸っぽいと思う瞬間がありました。洸は、双葉とは逆で過去に捕われて動き出せない子なんですよね。そういう意味で、洸が抱えている問題は、形を変えてみんなが持っているもので、誰もが彼に重ねられます。そんな洸の視点で双葉を見たときに、目から鱗じゃないけど、自分は傷を抱えて悩んだり動き出せないけど、双葉のようにこれだけ間違えて失敗しまくっても前に進んでいる人がいるんだったら、動いたほうがいいなって思うだろうなって。東出くんにはそういったことを話して、体現してもらいました」
「すごくしてます。自分も『アオハライド』の一員になりたいと思っています(笑)。この作品の友情のシーンが好きですね。損得勘定じゃない感じがすごく良かった。小湊や修子や悠里たちはみんな見返りがほしくて動いているわけじゃなくて、友情を大切にして、友だちの笑顔を大事にしたいという無償の友情感が素敵だなと思って、キュンとしました。僕自身のお気に入りキャラクターは、小湊なんです。いいやつだし、この作品のテーマをさらっと語ったりして。クランクイン前に小湊役の吉沢亮くんにプレッシャーをかけていました。『お前がこの作品を背負うんだぞ』って(笑)」
「5人で朝日を見るシーンは個人的に好きです。みんなが同じ景色を見て、同じ気持ちを共有する。そういう絵を意識しました。朝日といえば、長崎でのシーンが奇跡的でした。もちろんいい朝日を狙ってスケジュールを組むんですけど、撮影中一番いい朝日が撮れたんです。終わったあと、みんなでガッツボーズをしました。青春ということもあって、画面はいつも光にあふれていたいなという思いがあります。天気図を見ながら、スケジュールを組む助監督は大変だと思います。いつも申し訳ないと思っています(笑)」
「未熟な人間がその未熟さを埋めようともがく。それが青春だと思います。僕自身も青春しています。年齢問わず、自分に足りないものを埋めようと必至にもがいている姿はいつだって青春かなって。完成されたものはあまり好きじゃないのかもしれません。未完成だけど、欠けているものを補う姿にエネルギーを感じるし、美しいと思います。自分が作る映画の中でも、そういう人たちを撮るのが楽しいですね」
「やっぱり映画を撮っている瞬間ですね。今回の作品では、特にその感覚が強くて、映画サークルが学園祭に出す映画を撮っているような、10代の人と同じ目線を意識しました。僕をはじめスタッフはみんなそんな感じだったと思います。こういう監督の仕事をしていてありがたいのは、10代のときの自分だったらどうだったかなって、その気持ちになれることですね。大人になったら子育て失敗しないようにとか、仕事を失敗しないようにとか考えるけど、この物語を読んだときに間違えてもいいんだって考えることができて、それだけでもこの映画を撮る価値があるんだって思いました。だからか、現場はすごくやりやすかったです(笑)。スケジュールはタイトでしたが、精神状態は今までで一番楽だったかもしれません。演出やカメラワークが少しぐらい失敗しても、そこにある生の感覚が撮れていればいいんだって、ライブビデオを撮っているような気持ちでした」
「毎日の生活の中で前に踏み出す勇気をもらえるような、そんな作品になっていると思うので、双葉の姿を見て、守りに入っている自分の鎧をはぎ取ってもらえたらいいなと思います。そして、ライブ感を楽しんでもらえたら嬉しいです」
Writing:杉嶋未来
MOVIE
12月13日全国公開
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