「台本をいただいて、脚本家の佃さんの経歴を見たときに、自分より年下の方だということにまず驚きました。登場人物の心情がとてもリアルだったので、もしかしたら当事者の方なのかなと思ったりもしたのですが、そうではないと聞いて、人の心の痛みを繊細にすくいとることが出来る方なんだなと思いました。今回のテーマとなっている8050問題について、恥ずかしながら知らなかったんです。実際にこういったケースが各地で起こっていると聞き、痛ましく感じましたし、いち子という役をより一層誠実に演じたいと思いました。そのために、資料となる映像や書籍を手当たり次第に集めて、納得がいくまで勉強をしたのですが、それだけではどうしても生身の感情を知ることが出来ないと感じ、当事者の方と話をする機会も作っていただきました」
「台本を読んでいく中で、セリフがとても秀逸だと思いました。言葉の選び方が本当に的確で、説明的ではないのに登場人物の心情がちゃんと伝わってくるんです。この役をぜひ演じたいと思いました。でも、私はいち子のような体験をしたことがないですし、18年間心を閉ざし続けながら生きていくって一体どういうことなんだろうと、なかなか想像の範疇を超えることができず、自分に落とし込んで演じるのは難しかったです。印象的なセリフはたくさんありますが、『ひきこもりって、家の中にひきこもることじゃなくて、自分の心の中にこもってしまうこと』というセリフは心に残っています。そこにいち子が気づけたというのも、大きな成長ですし、たった数時間の話ながら、この数時間がいち子の人生において本当に大きな出来事だったと思うんですよね」
「宮沢さんとは初共演でしたが、最後まで目と目を合わせてお芝居はしていないんですよね。劇中はチャット形式のナレーションで会話をしていて、撮影が始まる前にその声録りをしたんですが、そこでも隣にいるのに顔を合わせずにセリフのやりとりをしていました(笑)。涼という役はいち子と違ってどちらかというと攻撃的な面もあるんですが、とても繊細で透明感のある声をされている宮沢さんが演じると、その攻撃的な中にも苦しさだったり、素直になれない葛藤がにじみ出ていて、すごく素敵だなと思いました」
「原田さんとも、今回初めてご一緒させていただきました。ずっと憧れていた方だったので、お母さん役が原田さんだと聞いたときは思わず飛び跳ねました(笑)。『愛を乞う人』を観たときに、役や作品に対する原田さんの熱量みたいなものが、画面越しに伝わってきて、とても衝撃を受けたのを覚えています。それからずっと私にとって原田さんとの共演はひとつの目標でもありました。原田さんと顔を合わせてお芝居したのはワンシーンだけだったのですが、優しい目をされていて、原田さんの顔を見るだけで自然と涙が溢れていったのを覚えています。全て包み込まれるような、そんな感覚があって、お芝居の中ですけど、とても素敵な時間が過ごせたなって思います」
「撮影はたった4日間でかなり凝縮した現場だったんですが、撮影現場に入るのがとても久しぶりだったということも相まって、私自身もずっと追い詰められているような気持ちでした。特に中盤は重いシーンが続いていたこともあり、現場への緊張と不安で、全然寝れなくなってしまって、、、(笑)。ご飯もろくに喉を通らず、振り返ると、わたしもいち子と同じようにギリギリの精神状態でしたね」
「とても難しかったです。最初は喋り方一つにしても、いち子をどう演じたらいいのかわからなくて、本当に手探りの状態でした。ただ撮影に入る前に、監督とたくさん話をする機会を作っていただいたり、実際に当事者の方に会ったり、リハーサルの時間を組んでいただいたりしました。リハーサルの時は、いち子の声のトーンや話すスピードなどいろんなパターンを試しました。そういう時間をいただけたのがとてもありがたくて、私1人じゃなくて、みんなでいち子というキャラクターを作っている感覚がありました。衣装やメイクもそうですし、部屋はどういう風にするのかとか、そういうこと一つとっても、自分だけじゃなく、みんなでいち子というキャラクターを作っているということが、演じていて心強かったですし、すごくいい現場だったと思います」
「どういうふうに感じていただけるかは、本当に受け取る方の自由だと思うので、私がこういうふうに見てくださいって言ってしまうのは作品の幅を狭めてしまう気がして、なかなか言葉にしにくいのですが、私が演じていく中で、ひきこもりの方々って一体どういう人たちなんだろうということを考えたんです。罪を犯してしまう人だとか、ものすごく怠惰な生活をしている人だとか、親のすねをかじっていつまでも家にいて働かないとか、そういうイメージを持っている方がもしかしたらいらっしゃるかもしれません。ひきこもりの方々について調べて、実際にお会いしたり、お話を伺ったりという過程を持っていく中、ものすごく繊細で優しい方たちだということを感じました。日々人と接する中で、どこか鈍感になっていくことってありますよね。それは自分を守るためであったり、相手の出方だったり、自分が相手にとってどれだけの影響を与えてしまうんだろうっていうことに対して、ある程度鈍感にならないと人とコミュニケーションをとれないということもあると思うんです。でも、ひきこもりの当事者の方々は、一つ一つの事柄に対してすごく繊細に反応してしまう方々なんだなっていうのを感じて、そういった面もきちんと表現したいと思いました。また、ただセンセーショナルなものを扱っているというだけの作品ではなく、1人の人間の成長物語として、ラストは少しでも光が見えるようなドラマになったらいいなと思っています」
「子供っぽいんですけど、ベビーパウダーの香りがすごく好きなんです。柔軟剤とか、ボディソープなど、ベビーパウダーの香りを探してしまうんですけど、それって何なんだろうなって思ったときに、おばあちゃんの家で、お風呂上がりにベビーパウダーをはたいてもらっていたんですよね(笑)。その頃の記憶があって、童心に帰るじゃないですけど、ベビーパウダーの香りを嗅ぐとすごく落ち着くんです。それは記憶と結びついているからだと思います」
「こういったご時世だということではなく、昨年は元々お休みを頂いていたんです。休みの日でも、手元に台本があるとどうしてもその作品のことで頭がいっぱいになってしまうので、そういったことから完全に開放されたお休みは久しぶりでした。映画を観たり、本を読んだり、やりたかったことをたくさんできて、とても良い時間を過ごせたなって思います。完全にお芝居から離れられたというのも大きかったのかもしれません。お芝居することは楽しいですし、やりがいも感じているのですが、それと同時に苦しいこともたくさんあるので、少し距離を置くことで、いろんなことがリセットされた気がします。それに、久しぶりに撮影現場に行ったときに、こうやってお芝居できることって本当に幸せなことなんだなって改めて思ったんですよね。そんなふうに感じられたことが、とても良かったなって思います」
Writing:杉嶋未来/Styling:早川すみれ/Hair&Make-up:石川奈緒記
・ワンピース:il
・イヤリング:carat a
TV
3月19日(金)22:00~
NHK総合
pagetop
page top