2012年4月24日更新
俳優、柳楽優弥が初めての舞台に挑戦する。作品は、村上春樹の原作『海辺のカフカ』(02年刊行)。08年に舞台化された際のフランク・ギャラティの脚本を、蜷川幸雄が演出する。主人公の少年カフカを演じる柳楽に、稽古3日目の心境を聞いた。
自分にできることは一生懸命やることだけ
本番までに、蜷川さんには思い切りしごいでほしい
14歳で映画『誰も知らない』でデビューしてから8年。映画を中心に活躍してきた柳楽優弥が、22歳にして初めてとなる舞台『海辺のカフカ』に出演する。
「だいぶ前から舞台のことは意識していました。先輩や同い年くらいの俳優さんが、けっこう出演されている状況を見て、『俺も出てみたいな』って。でも、正直、怖さのほうが勝っていたので、そのままやらずにきてしまいました」
“怖さ”とはやはり、台本を丸々一冊覚えるという未知の作業に対するものだという。映画の撮影現場の場合、俳優はその日撮影するシーンを覚えれば支障がない。
「でも、舞台は分厚い台本を全部覚えなきゃいけないじゃないですか。『俺、できるかな?』っていう不安はかなりありました」
本作のオファーが柳楽の元に届いたのは1年前。折しも、映画だけでなく、いろいろなジャンルの仕事に挑戦してみたいと思っていた彼にとって、申し分のない座組とタイミングだった。
「原作が村上春樹さん、演出が蜷川幸雄さんで、僕が主人公のカフカ役。僕にはもったいない贅沢な話をいただけて、本当に嬉しかったです」
原作の『海辺のカフカ』は、世界的な大ベストセラーとなった長編小説だ。村上春樹の原作が日本人演出家によって舞台化されるのは史上初ということもあり、演劇界のみならず、文学界や映画界からも注目を集めている。
柳楽は届いた脚本と原作を熟読し、今年3月の初稽古に備えた。「自分にできることは台詞を覚えることだけ」と腹をくくり、初日の稽古にはすべての台詞を完全に頭に入れて臨んだ。
「台本の読み方は、映画のときと同じようにやったつもりです。『これは舞台だ』という意識の違いはあるけれど、だからといって準備の仕方をどう変えたらいいかはわからないので。舞台と映画は違うんだな、と実感したのは初日の稽古でした。まず、座り稽古で、台本の読み合わせをしたんですけど、蜷川さんから『声が小さくてイライラする』と指摘されました。舞台稽古に必要な声の大きさとか、やっぱりわからないんで、ああ、そっか、と。これから本番に向けて稽古が本格的になっていくんですけど、蜷川さんには思いっきりしごいてほしいです」
この作品は、自分にとって演技の強化合宿です
『海辺のカフカ』の主人公は、少年カフカ。彼は自分の分身ともいえるカラス(柿澤勇人)に導かれて、「世界でもっともタフな15歳になる」ことを決意し、15歳の誕生日に家を出る。その後、様々な人との出逢いを重ねる中で、父親にかけられた“呪い”に向き合うことになる。一方、東京に暮らす猫と会話ができる不思議な老人ナカタさん(木場勝巳)は迷い猫の捜索のために、四国へ向かう。カフカとナカタさんのパラレルストーリーは、いつしかシンクロし……。
「村上春樹さんの小説は声に出すと淡々としてしまうし、突拍子もない変化があるわけではないから舞台にするのが難しい、と蜷川さんがおっしゃっていて。確かに、ホン読みのときに台本をそのまま読んだら、映画にするのも難しいんじゃないかと思うくらい淡々としていました。映画なら小声で台詞を言えるけれど、舞台は声を張らないといけない。いったいどうやったらカフカという役柄を舞台で表現できるのか、正直言って、今の僕にはわかりません。例えば、カフカは内に秘めたものをもっているけれど、秘めたままじゃ観客には伝わらないですよね。でも、どうやったら伝わるのかがわからない。そういうことを、舞台ではどう表現するのか、どこまでがありで、どこからがナシなのかを、体験しながら学びたい。失礼に聞こえるかもしれないけれど、今回の作品は、演技の強化合宿に臨む気持ちでいます。22歳の僕には足りない部分がたくさんあるから、この舞台を経験して、最終的に成長できたらいいなと思います」
初舞台を前に、意欲と覚悟を見せる柳楽。観客の前で芝居をするという体験も初めてだが、そこに関しては「想像もつかないです」と苦笑いを見せる。
「藤原竜也さんにアドバイスを受けたくて、『下谷万年町物語』を見学しに行きました。そんなに具体的に話せる時間はなかったんですけど、『自分があの舞台に立ったらどんな気持ちになるんだろう?』『緊張すんのかな?』という想像ばかりしてしまいました。ただの素人ですね(笑)」
俳優という仕事を始めた頃の緊張感やとまどい、怖さ、期待といったフレッシュな感覚を改めて味わっているのだろう。
「もう、出たとこ勝負かなって。意地でもビビらないようにしますし、準備もしますけど、お客さんの前に立ってビビったらビビっただなって(笑)」
舞台初出演にして初主演。座長としてどんなカンパニーを作り上げるか、ということに関してはとても考えが回らない様子。
「周りの方がすごい役者さんばかりですから、心強くもあり、緊張してしまいそうでもあり……。そんな状況で、座長なんていう意識をもつのは今の自分には早いと思うし、カフカのことを考えればいいのかな、と思っています。とにかく一生懸命やって、全部終わったあとに『座長だったね』と思ってもらえるように頑張ります」
柳楽優弥の初舞台は、後にも先にも今回限り。俳優としての成長を賭けて、彼はこんなメッセージを送ってくれた。
「初舞台なので、自分にできるのは一生懸命やることだけ。我慢せず、遠慮せず、やりたいことを全部やるつもりで頑張るので、ぜひ、劇場に足を運んでもらえたら嬉しいです」
Writing:須永貴子
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