「葛飾北斎という世界的アーティストの青年期から老年期までが描かれるということで、壮大なテーマだなと思いました。北斎は田中泯さん演じる晩年のイメージはありますが、若い頃の情報があまり残されていないので、最初はあまりイメージできなかったんです。その中で、どうやって青年期の北斎を組み立てていこうかなと考えました」
「北斎は、今でいうアーティストですよね。文学的なセンスも持っているけど、すごく計算されて描かれている絵もあるので、理系的な思考を持っている人だなと感じます。一方で、いくら才能豊かとはいえ、90年の生涯で3万点以上の絵を描けるぐらいモチベーションの高い人なので、野心的な部分も持っているのではと想像しました。当時の有名小説家たちの本の挿絵も描いたことからも知名度をあげていて、本当にすごい方だと思います。アーティスト、芸術家の鏡だと感じています。僕が演じた北斎には、そういう野心家っぽい雰囲気や力強さ出ているかもしれません」
「これまでの時代劇では、殺陣を学んだり、動き方、歩き方、物の持ち方など、それぞれの時代のルールに沿って作り上げていましたが、本作では北斎が浮世絵師であることから、全てが、当時の所作どおりではないだろうと思いました。制限された時代に生きる表現者であった北斎は当時の環境に対して反骨精神を持って生きていたのだと思いますし、制限があるという環境だからこそ、自分らしく輝く人だとも感じました。本作の北斎像は、橋本一監督とも話し合って作り上げていったのですが、当時の所作にこだわるあまりアーティストとしての自由な雰囲気が消えてしまうのはもったいないということから、昔の人達も、足を組んだり、寝転がることもあったのだろうと考えました。演じるにあたっては、あまりかたくなりすぎないように、所作の美しさを感じる面と、北斎らしい動きを意識して、この映画ならではの北斎像を描けたらと思い、撮影に臨みました」
「青年期から晩年まで、生涯通して絵師として自分の信念を貫き通し、描き続けたというその生き様がカッコいいなと感じます。一つのことを長く続けるというのはとても難しいことだと思いますし、特に若い頃は苦悩や挫折を味わい、順風満帆な人生ではなかった人なので、周囲から「力入り過ぎじゃない?」と思われることもあったのではないかと思うんです。人は誰しもつねに自分の感情をうまくコントロールできるわけではないと思うのですが、北斎にもそういう人間らしい部分があったらいいなと思いながら演じていました」
「本当にカッコいい方でした。僕は是枝裕和監督の作品が好きでよく観ているのですが、特に阿部さんが主演をされていた映画『海よりもまだ深く』が好きなんです。本作で共演させていただき、ようやくお会いすることができて、とても嬉しかったです。北斎は世界中の誰もが知っているスター絵師で、僕も演じるにあたってはプレッシャーを感じていたのですが、そういうときにも阿部さんが相談に乗ってくださり、北斎漫画や他の北斎作品についての感想や、いろいろなお話ができて嬉しかったです。共演シーンで特に印象に残っているのは、蔦屋さんの部屋で地図を広げて2人で話をするシーンです。阿部さんは役作りでかなり痩せられていたのですが、これだけのベテランの方でも、そういう肉体的なアプローチをされているというところにすごく感動しましたし、改めて尊敬しました」
「撮影期間中はほぼお会いする機会がなく、あまりお話させていただくことができなかったんです。でも、撮影を終えてから、取材などでお会いしてお話させていただく機会が増えました。泯さんが手作りされたお味噌をいただいたり、泯さんが育てた野菜もいただいたのですが、それをキッカケに僕もお味噌作りを初めたんです(笑)すごく影響を受けています。泯さんが演じる北斎は、とてつもない説得力があって、一緒に同じ人物を演じさせていただくことができ、本当に嬉しかったですし、心強くもありました。泯さんご自身もフランスなどでダンスの公演をされていて、世界的ダンサーとして有名な方。特にフランスの方からの北斎人気が凄いそうで、それを実際に肌で感じている方だからこそ、より演技や役柄へのアプローチの深みを感じました」
「キャストも豪華な方々が揃っていますし、映像に迫力があって、ものすごい力強さを感じる作品でした。北斎が生涯絵師として生き続けたというところにも夢をもらえると思います。夢を持っていても、どこかで諦めてしまったり、状況によっては諦めることが必要になるときもあると思うんです。それでも、北斎は何があっても諦めずにずっと一つのことを貫いているので、きっと背中を押してもらえるような作品になっているのではないのかと思います。ぜひたくさんの方に観てもらいたいです」
「僕はいろいろな役柄に挑戦することを目標として、俳優をやらせていただいていますが、それが去年、強制的に止められてしまったような感覚でした。先の見えない状況がずっと続いているような状態です。今は色々な物事の価値観や環境が変わってきていますよね。以前までは、こういうものが良い、こういうものが好まれない、とジャッジすることができたと思うのですが、今はそういった価値観がまったく新しいものにリニューアルされているというか。だから、僕もより様々なことにチャレンジしていくべきだと感じています。もちろん、自分のペースで、ではありますが、リスタートするような気分というか、今までの自分を捨てて新しくスタートするんだというぐらいの気持ちでチャレンジしていきたいです。もし失敗することがあったとしても、拍手を送れるような世の中になれば誰しもがいろいろなことにチャレンジしやすい環境になるし、可能性が広がっていくのではないかなと思っています」
Writing:makie enomoto/Photo:笹森健一/Styling:長瀬哲朗(UM)/Hair&Make-up:佐鳥麻子
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