「この作品は急に決まって、『モンゴルに行きますか?』、『はい、行きたいです』という感じでした(笑)。僕自身、ロードムービーが好きなのと、合作映画というところに魅力を感じました」
「タケシは女遊びが激しくて、酔っ払って毎日自堕落な生活を送っていました。そんなときに祖父の娘を探しに、モンゴルに行くことになりました。そしていろいろな経験をして帰ってきます。そんなタケシを見て、最初は物質主義だと感じました。いいものが揃っていたら幸せなのか。いや、そうではないということに、旅をして気づきます。その過程が、とてもいいと思いました。人と人との繋がりの中で生まれたものが尊いんだなって」
「KENTARO監督は、フランスやイギリスなど、ヨーロッパで育っていて、とてもユニークで頭のいい方です。そして、ものすごく面白い方(笑)。監督はいろんな作品を古いものから新しいものまでたくさん見ているから、好きなものが盛り込まれていて、そこも魅力です。監督から言われたのは、コマーシャル映画みたいなことはやめて欲しい、ということ。僕はその言葉を、自然でいることが世界共通の芝居だということを言いたいのかなと解釈しました。実際、台本のセリフ自体ほぼなかったですし、役を演じる上での準備はほぼしなかったです。一つしたと言えるのは、僕は当時、まだ英語の勉強をしていなかったので、基本的な文法を学んだことぐらい。役作りについて、意識的にこうしようっていうのはあまりなくて、流れに身をまかせる感じでした。僕としては、ドキュメンタリーを撮っているような感覚でしたね。自分自身はとにかく自然体でいることが大事だと感じました。それを意識したというか、実際、僕は熱演という言葉がハマるような、そういう感じの俳優じゃなかったよねって、冷静に考えたりしました。そうやって、自分を見つめ直せて、この作品は僕の中で特別になった感じがします」
「『誰も知らない』という作品でデビューしたとき、演技ができない状態でキャスティングされました。その場で即興で動いてって言われて、動きを指示されていたんですけど、今回もそれに似ていて、タバコ吸ってみてとか、馬乳を飲んでみてとか、カメラ脇で監督が僕に指示を出すんです。それがとても楽しくて、自分はこういうのが好きなんだって改めて感じました。『誰も知らない』のときの感覚を、今も忘れていないものなんですよね。もちろんこういう作品ばかりではないですし、セリフを覚えて演技をすることもできないといけないのですが、久しぶりにこういう感覚を感じられて、ほっとしました」
「ものを作る上で、どうしても色々なことを固めてしまうことが多いですが、KENTARO監督は思い切りやって、壊していくタイプでした。僕が狼に追いかけられるシーンは、監督のテンションが上がってしまって、クレーン車に乗って、カメラを自分で回すよって言い始めたり(笑)。さらに葉巻を吸い出して、すごい大御所の現場に来てるみたいな感じでした(笑)。バイクを爆発させるシーンでは、「すごいだろう」って。少年のような人で、とても面白い方なんです。撮影中、ずっと2人で悪さをしているみたいな感覚でした(笑)」
「モンゴルに到着した日に携帯を落とし、画面を割ってしまって、使えない状態になってしまったんです。だけど、ゲルに着いた瞬間、全員圏外になったので、どっちにしろ使えなかったのですが(笑)。孤独の度数の最大が10だとしたら、その時点で孤独4ぐらいなんです。いや5ぐらいかな。食べ物はラム肉が9割と、選択肢が本当にないので、孤独7ぐらいに増えました。そして、ゲルで自分が日本から持ってきた食料がネズミに食べられてしまって、そばでパリパリ食べている音も聞こえるし怖いんですよね。そこでもう孤独100になりました(笑)。10をいきなり超えちゃうんです。監督の一人でいなさいというアドバイスは、チリ人やフランス人、オーストラリア人、モンゴル人のスタッフとやっていく上で、きっと僕の意識を握りたかったんですよね。一緒に映画を作る仲間として組んでいる感じというか。でも、そういうのは関係なく、僕は監督が大好きだったので、自然と一緒にいました」
「アムラからは、刺激しかもらってないです。アムラはモンゴルで大スターで、撮影中、シェフを現場に呼んでくれたり、すごい方なんです。フライパンにラムの味が染み付いていて、全部ラムの味だったんですけど(笑)。アムラからもらったカルチャーショックもたくさんありましたね。プレーリードッグをいきなり食べたり(笑)。お芝居もあまり大げさに表現せず、表情から何かを想像させるお芝居をされる方でとても魅力的だと思いました」
「出産シーンは感動してしまって、こういうことが本当にあるんだって、衝撃を感じました。でも、モンゴルの人は、その演技を見て、『その演技面白いね』って笑うんです(笑)。モンゴルにはない表現だったんでしょうね。でも監督がそれでいいって言ったから、僕もそれでいいと思ったし、映像を見てもそう思いました。このシーンで流した涙は、自然に出てきたので、やっぱりずっと僕自身、自然体でいたんだと思います」
「一昨年の映画祭では、英語でスピーチさせてもらったりして、楽しい時間を過ごせました。受賞もすごくに嬉しかったです。ドイツの観客の皆さんが、こちらがびっくりするぐらい、笑ってくれたんです。馬乳が苦手で、僕が美味しくないって顔に出してるシーンはで爆笑でした。ドイツ人を爆笑させられたことが、結構嬉しくて(笑)。監督はヨーロッパに住んでいるから、ヨーロッパの人のツボをわかっていて、ポンポンと攻めていって、ドカーンと笑わせるんです」
「たくさんあるんですけど、動物のシーンは印象的ですね。朝起きて、テントから出たら、ヤギの群れがいて感動しました。あと、崖をアムラと馬で登っていくシーンがあり、乗馬の練習をしていて良かったなと思いました。そのときアムラに馬を何頭持っているか聞いたら、200頭と言われて、次元が違うと思いました(笑)。都会に染まった人間が、こういうパワーがある人に、いろいろと教わっていくんだろうなって。人に大きな刺激を与えるのは、やっぱり人や自然だと感じました。難しい作品ではないので、軽い気持ちで、タケシの“ニューノーマル”を見てもらいたいです。今は特に海外とか旅行にいけないので、映画でトリップして欲しいなって思います。自然を感じて、景色を見ているだけで、自分の視野が広がるような感覚を得られ、心が洗われると思います」
「僕は20代のとき、舞台もできる俳優になりたい、テレビドラマもやりたい、メジャー映画にもインディペンデントにも出たいって、すごく欲張りだったので、色々なことをやりすぎて、『あれ、自分は何が好きだったっけ?』とわからなくなった時期があったんです。そんなときにこの作品と出会いました。監督は一刀両断してくださる方だったし、センスもあってご一緒する中で、先ほどの即興の話と同じ感じですけど、「そうだ、自分はこういう作品が好きだったんだ」って再発見することができました。いろんなことを肉付けしてしまって引き算ができなくなってしまっていたときに、こういうのが好きだったっていうのに気づけたこと。それが本当に大きいです」
Writing:杉嶋未来
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