「広瀬監督はもともと是枝監督の作品に監督助手という責任ある立場で関わってこられた方、という話は聞いていました。僕自身、そういった繋がりに興奮しましたし、台本を読んで共感できる点もいくつかあったので、ぜひシンイチ役をやりたいと思いました。現場では大変なこともありましたが、この作品で広瀬監督とご一緒出来て本当に良かったと感じています」
「シンイチと全く同じ悩みを抱えていた、というわけではないのですが、器用に立ち回れない感じがどこか自分と似ているような気がしました。でも、誰でもみんな悩みません?自分なりに頑張ってはみるものの、現実社会では決してみんながリア充なわけではないじゃないですか。周りから期待される物事に対して、逃げたり応えたりするのも、この作品の一つのテーマだと思っていて。「自分はこういう人間なんだ」という確固たるものが見つかるまでは、誰しも自分だけが悩んでいると思い込んでしまうものなんです」
「アイデンティティって、他人と関わることによって見つかっていくものだったりもすると思っています。シンイチの場合、最初はすべてを諦めかけていたんですが、小林薫さん演じる哲郎さんに引っ張ってもらうことで、徐々に存在意義を感じられるようになってきて、少しずつ自信をつけていく。真っ暗なトンネルの中を、ゆっくり歩いていけるようになるような感覚なんです」
「今回はたまたま是枝さんに関わりのある作品ということもあってお話しするんですが、僕自身はあまり過去のことを話しても仕方がないと思っています。是枝さんの作品でデビューできたことに対しては、感謝の気持ちしかなくて。カンヌ国際映画祭で最年少で主演男優賞を受賞できたこと自体はとても良いニュースだし、本当に有り難いこと。でも、その後は意外と大変でしたっていうだけで(笑)。広瀬監督が僕を想像して脚本を書いたら、筆が進んだと話されていた通り、そこが今回のキャスティング理由の一つでもあると思うし、自分のパブリックなイメージが役柄に説得力を持たせることにつながるなら、それもうまく利用したいなとは思っています」
「いや、多分そういうことじゃないと思うんですよね。よく「俳優同士で話して現場に挑みました」みたいな話を耳にしたりもするんですが、結局全てを決めるのは監督だと僕は思っています。舞台だとまた状況が違うのかもしれないですが、映画の場合、俳優だけで演技プランを決めてしまうのは、監督に対して失礼な気がして。薫さんとは以前大河ドラマで1年近く一緒にお芝居をやらせていただいたこともあって、現場に薫さんが居てくださるだけで十分心強かった。具体的に「このシーンはこういう風にしよう」みたいなやり取りを現場ですることはなかったです」
「3週間近く千葉でロケをしていたこともあり、撮影中は日頃からみんなで食事に行く機会も多くて。気づいたら自然とそれぞれのキャラクターに近い雰囲気になっていました。薫さんも(鈴木)常吉さんもお子さんがいらっしゃるので、それぞれの家族のかたちについて話すことも割と多かったような気がします。とはいえ、普段はそんなに堅苦しい話はしないのですが(笑)」
「子育てって、本当に難しい。でも今回この映画を撮ったことで、相手が追い詰められるほど過度な期待はしないようにしよう、とは思いました。とはいえ、口で言うのは簡単ですけど、これから年齢を重ねていけば反抗期を迎えることもあるだろうし、もし娘に彼氏が出来て結婚するとか言われたら、まだ自分でもどうなるかわからない(笑)。でもきっと、本人の自立のタイミングを一つの目安として、遠くから応援してあげることも大事なんだろうなと思います」
「僕にとっては是枝監督のお弟子さんというだけで既に信頼がおけるのですが、広瀬監督の目には嘘がないと感じられましたし、迷いながらも監督の中にしっかりとビジョンがあるところにも信頼が持てました。みんなからよく兄弟のようだと言われるんです。広瀬監督はこんなに顔が濃くはないんですけど、似ていると言われるのは嬉しいですね(笑)」
「広瀬監督にとってはそうなのかもしれないですけど、僕自身は是枝監督からの自立は遠い昔に終わっていると思っています。監督は作品を企画して自分から動かせるけど、俳優はあくまでも選ばれる立場で、いろんな方に選んでもらえるように頑張らないといけないので。実際僕も『誰も知らない』の後は、「もうカンヌ獲っちゃったからね」って、全然お声がかからなくなってしまった時期もありました。そういう意味では、選ばれる側としては、いろんな監督とご一緒できるのが一番嬉しいことです」
「なるべくバランス良くやっていけたらいいですね。もともと『誰も知らない』を撮影していた頃から、テレビドラマにも出演していたし、CMをやらせていただいたりもしていたので、僕を形作っているのは決して「インディペンデント系」だけではないんです。割と初期の頃からいろんなジャンルの仕事が出来ていたことは、すごくラッキーだなと思います。たまには黄色い声援も欲しいし(笑)。だからメジャーの作品にも出たいし、作家性の強い作品もどちらもできるような俳優でありたいと思っています。海外だとそういう俳優も多いじゃないですか。「インディペンデント作品にしか出ない」というようなスタンスだと、正直勿体ないと思っちゃう。それぞれにまったく違った面白さがあると思いますし、なんといっても基本的に僕は監督から言われたことを忠実にやりたいタイプなので、監督の演出次第で芝居がガラッと変わってしまう。だから周りの人から「良かったよ」って言っていただけている作品は、あくまで監督の演出ありきというということなんです」
「別に「キャーッ」だけじゃなくて、男声の「ウォ~」でも良いんですけど、やっぱりお客さんから声をかけてもらえると気持ちが上がります。うちわに「柳楽優弥」ってデコってもらえるのも嬉しいです!『夜明け』の完成披露試写会の客席にも「柳楽優弥」と書かれたボードがあるのが目に入って、元気をもらいました。全然テイストが違うシリアスな作品でも、あえてそうやって応援してくださるそのギャップが面白いというか」
「今回の作品でより一層強く感じるようになりました。最近は『ゆとりですがなにか』や『銀魂』といった作品を通じて僕のことを知って応援してくださるようになった方もいて。そういう方たちからしてみれば「カンヌ?」「賞なんて獲ってたの?」という感じだと思います。それは僕にとって、いい具合にバランスが取れてきたということでもあり、とても感謝すべきこと。それこそ『誰も知らない』の頃からずっと応援してくださっている方たちは、僕の山あり谷ありの人生を見てきてくださっているので、きっと大汗をかくほどご心配をかけてしまった時期も多分あると思います。でもだからこそ、そういう方たちに対して失礼な作品を作りたくないなというプライドはあります。僕自身の過去と役柄を重ね合わせて観られた時に、変に悲しくなられてしまっても嫌だから(笑)。そういう時こそもっと頑張って、ちゃんと成長している姿を見せたい。俳優という職業は、応援してくださる方あっての仕事でもあると思うので」
「パーティーの会場で最初はよそよそしい雰囲気だったフランス人の方が、「是枝監督の『Nobody Knows』に出ていた子だよ」と紹介された途端に「お~!」って一気に盛り上がってくださって。まるで親戚の子を見るような目つきに一瞬にして変わったのを目の当たりにして「あぁ、『誰も知らない』に出演していて本当に良かったな」としみじみ思えました。僕自身は賞を獲ったことに満足せずに、常に次を目指していかないといけないと思っているんですが、コミュニケーションの場で受賞したことが強みになるのは、ものすごくラッキーなことなんだなと改めて思いました」
「決して分かりやすい作品というわけではありませんが、きっと良いタイミングでこの映画と出会ってもらえた人には、しっかりと寄り添える作品になっていると思います。血のつながりに関わらず、親子の関係をテーマに描いた作品ではあるのですが、広瀬監督自身「いろんな人から見た視点を大事にしたい」と話されていたこともあり、意外と恋愛っぽく見る方もいるようです。夫婦とかカップルの間でしか見せないような無防備な顔を相手にさらけ出す瞬間もあったりします。木工所というシチュエーションも相まって、常にどこか緊迫感があるんです。僕の演じる姿を見て「悩んだり葛藤したりしているのは自分だけじゃない」って思っていただけたら嬉しいです」
Writing:渡邊玲子
MOVIE
1月18日(金)公開
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