「ナイーブなテーマの作品ではありますが、僕は藤井(道人)さんのオファーは絶対に断らないと心に決めているんです。藤井さんから『こういう作品にしたい』『こんな役をお願いしたい』というお話さえ聞ければ、たとえどんな台本でも受けようという思いでいます。藤井さんが『映画版では描ききれなかった』という重要な役柄を今回僕に任せてもらえると聞いたときは、嬉しかったのと同時に、これは生半可な気持ちではやれないというか、覚悟を持って、責任を持って、亮という役を全うしたい、という気持ちになりました」
「歳は結構離れているので、友だちと言うより兄弟、兄貴みたいな存在です。藤井さんとは『青の帰り道』(18)でご一緒したんですが、諸事情があって2年間、撮影期間が伸びて。それまでの僕は、映画って撮影して、アフレコして、公開初日を迎えて、舞台挨拶して……って、何気なく皆さんの元に届けられるものだと勝手に思っていたんです。でも実は、映画やドラマが無事に公開・配信されるのはすごく大変なことで、観客の皆さんの元に届けられるのはすごく幸せなことなんだと、『青の帰り道』で実感しました。その2年という年月が、本当に濃かったというのが一番の理由かもしれないですが、僕は藤井さんの人柄や、作品に対する姿勢も好きです。穏やかだけど、胸の奥にはすごく熱いものがあって。『いま自分が撮りたいものはなんだろう?』と考えて、命懸けで作品を作っている、そんな藤井さんの作品も好き。出会ってからもう5年間ぐらいずっと一緒で、ウマも合うんです」
「僕自身、この作品に関わるまで亮と同じで世の中の出来事にあまり興味がなかったのですが、藤井さんからは『政治的な事件を題材とした作品をやるからと言って、新聞を読んだりしなくて良いから』と言われました。亮は、自ら率先して世の中のことや政治に詳しくなっていくわけではなく、公文書改ざんの事件に巻き込まれたことで、否応なく運命を変えられてしまう。憤りを抱える中、記者の松田と出会うことで、いろいろ影響されて成長していく。僕としてもその感覚は大事にしたかった。もともと僕も世の中の出来事や政治にあまり関心がなかったからこそ、亮とリンクして、亮と一緒に学んで素直に演じることが出来た気がします」
「撮影でお借りしたお店で、実際に新聞の折り込み作業の練習をさせていただきました。家に持ち帰って自主練もしたのですが、亮たちはきっと何年もやっている熟練者であるわけで、さすがにそれと同じくらいのレベルでできるようになるのは難しかったです(笑)」
「ドローンを使って撮影したんですが、映像的にもすごく綺麗だし、カッコいいんですよね。よく見ると工夫があって、たしか第4話では亮は長い坂をバイクで下っているんですが、記者の松田と出会って亮に希望の光が見えてからは、同じ坂を今度は上がっているんです」
「きっと過去に演じてきた役柄のイメージもあって、米倉さんには強くてカッコいい女性という印象がありました。でも今回はいつもとは全く違う雰囲気の米倉さんが、松田杏奈としてそこにいた。夢も希望もなく、松田に対しても『なんだこの人?』という態度で接していた亮が、ある出来事がきっかけで松田に尊敬の念を抱くようになるように、どんな時も凛とした姿で現場に佇んでいる米倉さんのことを、僕自身も尊敬のまなざしで見ていました」
「お二方とも、すごく温かくて、包み込んでくれるところがあります。ご本人の人柄と役どころが重なって、一緒にいると肩の力が抜けて素直でいられるというか、そういう空気感を作ってくださったお陰で、ドラマの後半で亮としての感情が僕の中にも自然と湧き上がってきました。前半の亮のままならきっと何かあってもただ悲しんで、見えない誰かに怒りをぶつけるだけだった。でもあの日過ごした温かい時間が亮を支えているんです」
「兄妹役で一度共演しているので、人柄がわかっているからこそ出せた雰囲気というか、きっと『はじめまして』だったらあの亮と繭にはなっていないと思うので。藤井さんはよく『俺は繭みたいな女性がタイプなんだよね』って話してましたけど(笑)、確かに繭の言葉って、ちゃんと心に入ってくるんですよ。繭がただの嫌味ったらしい女の子だったら亮も『うるさいなぁ』って突っぱねたと思うけど(笑)、小野さんがちゃんと愛されるキャラクターに作り上げてくれたからこそ、僕も亮としていられたんだと思います」
「亮が自分から松田に話を聞きに行く場面や、周りの人からいろいろ言われて、モヤモヤだったり、怒りだったり、哀しみだったり、どうにもできない思いを抱えた亮が、ある写真を目にしたことで一気に抑えていた感情が溢れ出す場面のことはすごく印象に残っています。『これで何かが変わるかもしれない』と信じて亮が松田に託す場面にもつながるので……」
「今回、藤井さんが亮を通じて市民の目線を描いた理由の一つには、観てくださった方たちに、より自分事として感じていただけたら……という願いも込められているんです。この国で生まれ、生きている以上、ただ身を任せて日々を過ごすだけで本当にいいのだろうか。僕自身、この作品に出させていただいて、無関心が一番怖いことなんだと知り、他人事じゃなく、自分事として考えたいと思うようになりました。このドラマを観た方たちが、少しでも政治や世の中に向き合うきっかけになったら嬉しいですし、普段はこういうジャンルのドラマは観ないという方でも、僕がこのドラマのなかで全うしたいと思って演じた木下亮の姿を、ぜひ見届けてもらえたら」
「まさか自分の出演作がこんなに早く世界に届く未来があるとは思ってもみなかったのですが、出演する役者の一人としては、全世界に配信されることにワクワクしかありません。観てくださった方々が、このドラマをどんなふうに受け止めて、どんな感情になるのか―。どんな意見でも僕はしっかり聞きたいですし、まずは一人でも多くの方々にこの作品が届いてくれたら幸せです」
Writing:渡邊玲子/Styling:伊藤省吾(sitor)/Hair&Make-up:永瀬多壱(VANITES)
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