「多くの人に愛されている作品に映画から参加できることがとても嬉しかったです。最初、刑事役と言うことで、アクションシーンをイメージしていたのですが、リカとの完全な心理戦でしたね(笑)。完成したものを拝見したらリカがすごいことをやっていて、リカとアクションで対峙しても(奥山)次郎は勝てなかったと思いました(笑)」
「次郎の芝居は静の動きが多く、考えることや感じることがメインでしたので、次郎と同じように僕自身もリカの世界に迷い込んでいるような感覚で現場にいました。次郎は、常に逡巡している役で、罪を犯したリカを許せるのか、許せないのか。そこに向き合い続け、どれだけ悩めるのかが僕の中では勝負でした。作品中、リカが犯してしまった罪もたくさん描かれていて、次郎も罪自体はリカが償うべきだと思っていますが、リカ自身を責め続けることができなかった。僕自身の感情も常にぐらぐらしていて、リカを救ってあげたくて仕方なかったですし、罪は恨んでも、リカのことは恨めなかったです」
「答えを出してしまうと、次郎ではなくなってしまうので、疑問を常に自分の中に問いかけていました。リカと言う女性は純愛を貫く女性であり、サイコパスと呼ばれ、罪を犯してしまうんですけど、その一つ一つがなぜ起こったのか。リカの人格形成は、どのようなものが積み重なってできていったのか、なぜ周りと歯車がずれ、リカと言うモンスターを生み出してしまったのかを考えていました。リカの存在は特異的に思えますが、極めて普遍的な人間の本質なんです。生々しく人間くさい。社会の中で、自制心を持ちながら、いろんな職業の看板を背負ったり、立ち位置などをわきまえて、人と人が触れ合うんですけど、全てを取っ払って、人生において一瞬の選択を間違えてしまったら、誰しもがリカのようになってしまうかもしれない。理解を超えたサイコパスであり、リカの愛は重くて偏った感情に見えてしまうんですけど、リカ自身が幼少期から大人になるまで、人格形成していく上で何があったのかも描かれているので、改めて人生は、自分だけではなく周りの環境や周囲の人間、時代などに大きく左右される恐ろしさも感じました」
「人を好きになったら抱きしめたいとか、何か怒りを抱えたときに想像もしなかったことを想像してしまうとか、誰もが瞬発的な思いに突き動かされたりしますが、自制心や理性で抑えます。でも、リカはそうじゃない。人間本来の姿だから、それらを取っ払って突き進んでしまいます。僕自身も、人間の本来の衝動を感じることはあるので理解はできる部分もありましたが、リカは常識と非常識を同じぐらい持っている人間なので、その非常識的な部分の中で共感できないこともありました」
「初号の観賞後、リカ役の高岡早紀さんや監督たちと、いろんな楽しみ方がある作品だよね、という話ですごく盛り上がりました。この作品は、顔を手で塞いでしまうような恐怖や不安を感じさせるシーンもありますが、指の隙間から見たくもなる。そんな人の性を刺激すると思います。悲鳴をあげる方、声をあげて笑う方、リカを自分の代弁者だと思って、気持ちよく劇場を去る方もいるかもしれない(笑)。僕自身、こういう作品は好きです。心理戦も好きですし、本当にいろんな楽しみ方がある作品なんです。悲しみととらえるか、コメディーととらえるか、サイコパスととらえるか、純愛ととらえるか。お客様が自分自身を確認できる作品だと思います。この作品はノージャンルで、リカを見に行こうっという感覚でご覧いただきたいです」
「どの作品も大切で比べられないですが、『リリイ・シュシュのすべて』は映画の原体験として鮮明に記憶に残っています。14歳当時に体験した撮影風景を覚えていて、『あれこそが映画だ』という思いで今も映画に携わっています。いろんなスタッフ・キャストの方々に可愛がっていただき、現場に行くのが楽しみでしょうがなかったです。この時代は、大胆でもあったし、繊細でもあって、全てが情熱的でした。プロデューサーの家に泊まりに行ったり…、監督が父で、プロデューサーが母のような感覚でした。そういう経験もあって、僕にとって映画は家族みたいに近い距離感で、共に作り上げていくものという感覚が残っています。僕にとって青春でしたし、『リリィ・シュシュのすべて』の映画作りの姿勢をこれからも追い求めてしまうと思います」
「『ヤクザと家族』もまさに家族のような関係性をみんなで築いて作ったので、生涯忘れられない作品だと思っています。感情的にも肉体的にもリアルにぶつかりあった作品で、ものすごく楽しかったんですが、最後のほうは少し後悔しました(笑)。苦しすぎてセリフが言えなくなったりしましたから(笑)。でも映画の根源ってここなんだろうなって感じたんですよね。僕は小さい頃から映画が好きで、なんで映画を見るんだろう、なんでドラマを見るんだろうと考えた時に、実際に経験できない感情を味わえたり、普段見ることができない人の表情や景色だったりを見られるのが映画だと思ったんです。まず作り手の僕らがその世界に入って、普段味わえない感情を追求し続けること。そうやって、常に映画を見て下さるお客様のことを考えているんです。ここまでやればお客様は楽しんでくださるかな、と。結局は虚像なんですけども、中身のない虚像にはしたくない。芝居なんだけど、ドキュメントでありたいと思っています。だから、今回の『リカ』も高岡さん演じるリカを心から愛そうとずっと思いながら演じました」
「20年は長いようであっという間でした。20年でいろいろなものが変わりましたよね。映画の作り方も、人との関わり方も変化して寂しいなって思うことがありますが、その反面、今でしかできないこともたくさんあると思うんです。SNSのあり方が最初はいいのか悪いのか分からなくて、正直今でもわかりません。僕は芝居で表現しなきゃいけないところを、言葉を発信してしまっていいのだろうか、その分芝居の力が減ってしまうんじゃないだろうか、やめたほうがいいんじゃないかと考える時もありますが、でも、やっぱり自分の言葉をストレートに出せる場所はどこにもないので、必要だと思ったりも。今のこの状況がいつまで続くか分からないですが、マスクを外して人の顔を見ながら、これからも映画を作りたいですね。監督やプロデューサー、役者陣、制作スタッフら作り手の人間性が出るのが、総合芸術である映画だと思っているので、いつかまた昔みたいにみんなでお酒を飲みながら、笑いながら、映画の現場に居たいです」
Writing:杉嶋未来/Photo:笹森健一
MOVIE
6月18日(金)公開
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