「初めてドラマ版の台本を読ませていただいたときのことは、今でも鮮明に覚えています。『面白いな』と感じたと同時に『難しいな』と一度は躊躇したんですが、次の瞬間なぜかすごくワクワクしてきて、すぐに手を挙げさせていただきました。原作がないオリジナル作品なので、自分でもいろいろと挑戦できる作品になると思ったんです。10人いれば10通りの甘利田が作れるわけですから、衣装合わせも徹底的にこだわらせていただいて。ランニングの透け具合やパンツのフィット感、それこそメガネもいろんな種類を試して、時計やネクタイといった小物も、スタッフの私物を借りたりしました。もちろん芝居に対しても、自然体で淡々とやっていくほうがいいのか、漫画のようにオーバーにわかりやすく見せる方がいいのか、綾部監督とクランクインの前日まで延々話し合いました。ある意味、遊園地のアトラクションの一つみたいな感覚ですよね。『次はどこに行ってみようかな?』って思えるような(笑)、『給食ワンダーランド』を生み出すような感覚で、皆で作り上げていきました。正直、ドラマ版であらゆることをやりつくした感があったので、最初に『劇場版』をやると聞いたときは『これ以上、何をやればいいんだろう?』って、一瞬悩んだりもしたんです(笑)。でも、いざ劇場版の撮影に入る前には『もう一つギアを上げていきますね!』『さらに新しいことに挑戦してみましょう!』って、綾部監督に伝えさせていただきました。ドラマ版の撮影を通じて、そんな信頼関係を築けたこと自体が奇跡だし、素晴らしい撮影環境だったなって、いま改めて感じています」
「隣の教室で先に甘利田の“心の声”を録ったあとに、実際に給食を食べるシーンを撮ったんです。ますば自分の頭の中で『ここはこれくらいのタイミングで、こんな風に食べて』って、いろいろシミュレーションをしてから撮影に入ることもあって、やっているうちにどんどん楽しくなっちゃって(笑)。足を後ろにピンと高く上げるシーンも、事前に綾部監督から『こういう風にやってほしい』と言われたわけではなくて、自分で勝手にやり始めたこと。あのシーンは行儀や食育といった視点すべてを通り越して、ある種、甘利田と神野ゴウだけの『パラレルワールド』だと思って、思い切りやらせていだきました(笑)。撮影中は、神野の神々しい姿にやられて自然と涙が流れてきたり、『給食愛』を見られた恥ずかしさに必死で耐えようとしていたら、自然と『ラマーズ法』の呼吸が出てきたり(笑)。給食を食べる前に『校歌』に合わせて甘利田がノリノリで踊る場面も、作品の中でのお決まりの見どころの一つになればいいなと思って、実は毎回少しずつ自分なりに細かくアレンジしました。実はあまりにも熱が入りすぎちゃって、カットされているシーンもあったりするんですけどね(笑)」
「デビュー作の『リリイ・シュシュのすべて』の撮影時は、僕も本当にいろんなスタッフ・キャストの方々に可愛がっていただいて、現場に行くのが楽しみでしょうがなかった。だから僕の中には、映画というのはどこか家族みたいに近い距離感で、一緒に作り上げていくものだっていう感覚が残っているんですよね。それこそ当時はみんなでプロデューサーさんの家に泊まりに行ったりしてましたから。もちろん芝居は芝居でしっかり見てくださって、2日丸まる潰して僕が64テイクも重ねても(笑)、『もう一回やってみようか!』って、言っていただけたのも大きいです。
そもそも映画というのは無くても生きていけるエンターテインメントであるからこそ、誰かにやらされて作るものではなく、みんなが作りたいから作るものであるべきだと僕は思います。だからなるべく自分からも提案したり、やりたいことをいろいろ試してみたりできる場であってほしいんです。みんなが横一列に並んで、一緒に物事を作り上げていく感覚が何より大切で、もし誰か一人でもポテンシャルが落ちていたり、いつもと違う動きをするだけで、明確に絵に出ますから。それは役者でも監督でも、制作側であっても、技術スタッフでも、誰であってもみんな同じです。そんな何か一つでも違うだけで絵に出てしまうような環境こそが、僕はベストだと思うんですよね。かつて僕自身がそうであったように、子どもたちが通いたくて仕方ない場所の延長線上に、仕事の現場があってほしいと思っています。
実際、『おいしい給食』の撮影チームには、生徒たちに対しても常に同じ目線で、『いま目の前にあるこの時間を無駄にせず、自分たちが成長する場として参加してほしい』『作品を作って誰かに観ていただけることの喜びを感じて欲しい』「『それを目指して沢山の人たちが、どれだけ一生懸命努力をしているかを知って欲しい」「それと同時に、そのチームの一員として中に入って欲しい」という共通した思いがありました。それこそみんなで一緒に校歌や芝居の練習もしましたし、丁寧に一つ一つ作り上げていく様子が、涙が出るほど微笑ましくて。
自分にとっては『リリイ・シュシュのすべて』を超えられる作品はなかなかないと思っていたんですが、『おいしい給食』の現場では、その感覚を思い出す瞬間が沢山ありました。自主映画さながらドラマや映画が大好きな人たちが集まって作った作品なので、まさに自分自身の原点に戻ったような感覚があるんですよね。僕自身も『もっと綾部監督を喜ばせたい!』という思いがあったからこそ、あれだけ振り切った芝居ができたんだと思います。だからまたいつか、綾部真哉監督×市原隼人のタッグが組めたらいいなと思っています」
「初号試写が終わるやいなや、『おい、大志どこにいる?』って、彼のもとに駆け寄って『お前、よかったぞ~!』って思わずハグしてしまいました。スクリーンに映しされた神野ゴウの表情を観た瞬間、鳥肌が立ってしまって……。『あぁ、本当に頑張ったなぁ』って、もはや完全に親心で観てましたね(笑)」
「芝居と、写真と、あとは……イチゴ(笑)。実はいま次の作品の役柄に合わせて減量している最中なんですが、今朝どうしてもイチゴが食べたくなっちゃって……。我慢できずに食べたらめちゃくちゃ甘くて『やっぱり自分はイチゴが好きだなぁ』って改めて思いました(笑)」
「『劇場版 おいしい給食 Final Battle』では、普段絶対に表に出さない心の声まで、全て甘利田のナレーションを通してお伝えしているので、既に『ドラマ版』からご覧になっている方はもちろん、今回初めて観るという方でもきっと楽しめる作品になっていると思います。ドラマ版の視聴者の方たちが、僕が歌う『校歌』を真似してノリノリで歌っている動画をSNSでアップしてくださったりしているのを見て、『やってきて本当に良かったな』と、作品を生み出すことの醍醐味や喜びを、改めて教えていただきました。『おいしい給食』という作品の中には、誰しもが一度は食べたことのある『給食』という、ポップな題材を扱いながら、給食センターがどんな思いで、いかに栄養バランスを考えてしっかり作ってくれているのか、といったような歴史的な背景も含めて、いろいろな学びが入っています。まさに世代を越えて、親子で楽しみながら見ていただける、笑って泣ける、愛すべき作品になったことを、とても嬉しく思っています」
Writing:渡邊玲子
MOVIE
3月6日(金)公開
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