「枠にはまらない豪快さがありながら、民への気遣いも忘れない織田信長という男が、僕はもともと好きでした。『3人の信長』は時代劇ではあるものの、登場人物の話し方も現代とほぼ同じだし、キャラ設定もすごく面白い。とはいえ、誰かと同じ役を演じるのは僕にとっても初めての経験で、現場に入るまでどんな風になるのか全く想像がつかなくて(笑)。TAKAHIROくんはずっと音楽と向き合ってきた方ですし、岡田義徳くんは僕よりも10年長く生きている先輩で。同じ“信長役”といっても、演じる人によって役柄の捉え方や見せ方が『こんなにも違うものなんだ』と驚かされました」
「サウナに入りながら話したり、誰かの部屋に集まって朝までずっと話し込んだりして (笑)。昔から知っている仲間みたいに空き時間もずっと一緒に居たので、柔らかい空気感の中で芝居が出来ました。“いかに観客を欺くか”というのが『3人の信長』の醍醐味でもありました」
「僕自身は、信長の豪快な部分もそうですが、問い詰められて自らの素性を話すシーンで、甲と丙の前では見せない繊細な一面も出せたら……と思いながら演じました。『3人の信長』は、全体的には痛快なエンタテイメントなんですが、時に涙を誘うような場面やサスペンスの要素もあって、観ている人の想像次第で『十人十色』のストーリーが生み出されていくのが面白い。歴史にはもともとロマンと空想がつきものなんです。だって、その時代にタイムスリップして実際に見てきた人は、誰一人としていないわけですから。だからこそ、時代劇をやる時は時代考証もしっかり踏まえつつ、平和な時代を生きている僕らを通して、当時の価値観や生活スタイルを描くことも大事なんじゃないかと思います。せっかくやるなら、いましか出せないような雰囲気も出せたらいいなって」
「何をするにも僕は中途半端が嫌いなんです(笑)。だから今回も相手役の方に、『観客は普段見られないものが見られる瞬間が楽しいんだから、手加減しないで本気でやってくれ!』って、自らお願いしました。その結果、ホントに大変で苦しかったんですけど、それも含めて楽しかったです。そもそも役者って、“笑わせる職業”じゃなくて“笑われる職業”だから、やるからには変顔も全力でやって笑ってもらえたら嬉しいなと思ったんです」
「今は大義も主君もない時代。日本という小さな島国においても、何を指針にしたらいいのかわからなくなっているところもあります。でも、だからこそまずはいろんな人たちの意見を聞いた上で、もう一度自分の経験や知識と照らし合わせて考えたことこそが、自身の拠り所になっているような気がします。みんなが言ってることが必ずしも正解とは限らないし、間違いであるとも限らない。だったら、誰かの言葉を鵜呑みにして後悔するより、自分を信じて後悔するほうがいいじゃないですか」
「小学校も中学校も同じ仲間たちとずっと一緒に育ってきたから、僕には背伸びをする必要がないんです。東京って、隣の部屋に住んでる人の顔も知らないのが普通だったりしますよね。僕はエレベーターで会った人にも普通に挨拶しちゃう方なんですが、都心で暮らす友だちに『顔見知りでも知らないふりをするのが東京のやり方だから』って言われたのがすごく悲しくて(笑)。僕が住んでるところは地域密着型で、良いことをしても、悪いことをしても、すぐに噂が広まるような場所。だからもともと嘘をつくのは苦手で、好きな人には『好き』って率直に伝えるし、嫌いな人にも『俺はお前が嫌いだ』って正直に話します。僕はすぐに信用しちゃうから、いつも騙されてばかりです(笑)」
「“役者”ってそもそも虚像じゃないですか。基本的には素の“市原隼人”の部分が表に出ていることは少なくて、お客さんと触れ合う大部分はほぼ役柄を通じた“フェイク”なわけです。でも、フェイクの中にもリアリティを求めたくなるのが、“役者の性”だと思います。役者の仕事って、なかなか数字で判断できるものではないから、実はすごく難しい。僕は『数字は嘘をつかないから!』という理系の親に厳しく育てられましたが、いまは数字じゃ測れないようなものを追い求めている。だから人から『市原隼人ってこういう役者だよね』って言われても、死んで墓に入るまでは、自分はその評価に納得できない気がします(笑)。いつまでも“未完成”なままでいられるのが、役者の面白さなのかもしれません」
「写真って、僕にとっては“土産話”みたいなものでもあります。僕の友達は地元から外に出る機会が少ないから、僕が海外で撮った写真を見せると、みんなすごく喜んでくれるんです。『僕の目に世界はこんな風に写ってる』って、見てくれる人に向けて発信できるところも写真の魅力の一つ。動画と違ってすべてが決定的瞬間であり、歴史においても絶対に嘘をつかないところが好きです。僕にとっての写真は“時間を止める魔法”。これほど想像力を掻き立てられる存在は他にありません。切り取られた瞬間の前後に、見た人それぞれ違った物語が生まれるところに、写真の面白さがあると思っています」
「『3人の信長』は、肩の力を抜いて楽しめるエンタメ作品です。“時代劇=古い”っていう固定概念に収まらない映画になっているので、老若男女問わずいろんな世代の人に、先入観なく観て欲しい。観終わった瞬間、純粋に“楽しかったな“って思ってもらえるパワーのある作品なので、ぜひとも3人の信長の“命がけの嘘”を紐解きながら、観ていただけたら嬉しいです」
Writing:渡邊玲子
MOVIE
9月20日(金)公開
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