「谷原はどこにでもいるような男だと思います。仲間の輪に入ったときは明るくバカで、率先して言葉を発して指揮を執るけれど、実はすごく情けない。職場と家庭で違う顔を持っていて、その二面性をうまく交わらせることができず、常に悶々としています。周りに流されてなんとなく就職して、なんとなく家庭をもって、なんとなく今に至る。これといった強い信念もなければ、アイデンティティも持っていない男です」
「普通の人間を演じることは難しいですね。普通に見えてもみんな個性があるけれど、その個性を際立たせるとこのドラマでは浮いてしまう。今回は、話し方も難しいんです。台本を読むと、谷原のセリフは語尾に「そうかなー」「◯◯でさー」「◯◯だよねー」のような音引きがつくことが多くて、語尾を言い切らずに濁す喋り方は、谷原がなんとなーく生きている人間だということを象徴しているのかなと解釈しました。監督からも「もう少し柔らかく」と演出を受けることがたまにあります。活字ではすんなり読むことができても、自分の声で表現するのがすごく難しい。セリフの言い方について、勉強する毎日です」
「サスペンスドラマは、監督が視聴者を誘導するためにアングルやカメラワークを細かく考えて、「事実」と「フェイク」をきちんと構築しながら作っていきます。だから自分も、監督の言うことをしっかりと受け止めて、どうやったらついていけるのかをいつも考えています」
「最近はずっと、作品も役者も技術者もすべて監督のものという概念をもって現場に立っています。20代半ばくらいまで『自分はこう』としか考えていなくて、自分がやりたい仕事しかやってこなかったんです。いろいろ勉強しなきゃいけなかった時期に、主演以外の役を経験してこなかった。だから今は、20代で経験すべきだったことを取り戻すために必死です。30代前半くらいまでにいろいろな立ち位置で作品に携わって、たくさんのことを身に着けたいと思っています」
「いいことかどうかはわからないんですけど、すっごい力を抜いてやらせてもらっていて(笑)。アドリブで何を投げても返してくれるのでたくさん遊べますし、今までの作品とはまた違う角度から現場を楽しめています。あと、とにかく仲がいいんですよ。一緒にいて沈黙も気にならないですし、他の人には言えないようなことをサラッと言えたり。個別にはご飯に行ってますけど、スケジュール的に5人だけでご飯に行ったことがないので、必ず実現したいです」
「初日は長野の雪山で、徹ちゃん以外の4人が一緒に入りました。マイナス21度の極寒のなか、スキー場で使用する大きい扇風機で吹雪を作りました。よくあそこまでやったなと思える過酷な現場(笑)。徹ちゃんも合流して約10日間の長野ロケを乗り越えたとき、戦友のような連帯感ができていました。あと、地方ロケの開放感も大きかったと思います」
「谷原は駅のホームで何者かに突き落とされてしまいます。谷原が証言しようとしたことを阻止するためなのか、それともまた別の問題なのかが、どんどん明らかになって、核心に迫っていきます。谷原は、犯人に心当たりがあるけれど、自分の弱みにつながる部分を見せたくないから、隠し続けて自分の首を苦しめる方向に進んでいってしまう。世の中を勝ち組と負け組というわかりやすい価値観で捉えて、なんとなくその場をしのいできたから、ツケが回ってきてしまう。それも含め、ある瞬間、4人の関係性も一気に変わります。それぞれの立場も、自分以外の人を見る目も。なにはともあれ、読者に媚びを売らない湊かなえさんですから、最後の最後までどうなるかわからない。ひとつ言えるのは、どうってことないように見えるシーンがものすごく重要な意味をもってくるので、録画は消さずに見返すと、また違った見え方になってくると思います」
「物事に対して常にクエスチョンを持つこと、誰かの情報だけではなくて自分の経験を大切にすることは変わらないですね。ただ、昔は主観だけで物事を見ていたけれど、30歳になってからは、また一歩、俯瞰でものを見るようになったところはあります。昔は社会から外れた場所が心地良かったけれど、今はもっと社会に溶け込んでいかなきゃいけないと思う自分がいます。それがいいことなのか悪いことなのかはわからないけれど、このままでいいのか、昔のほうが良かったのか。自分の10年間の変化を谷原の10年に重ねて演じています」
Writing:須永貴子/Photo:小林修士(kind inc.)
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