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約20年前に発表された魚喃キリコ氏の代表作『南瓜とマヨネーズ』が映画化。もろく壊れやすい日常、切ない恋模様を描いたストーリーは時を経ても愛され続けている。主人公・ツチダの恋人、せいいちを演じた太賀に作品の魅力を聞いた。

当たり前の日常が尊いものだと噛みしめることができる作品です

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――とある恋人の日常をのぞき見しているような生っぽさを感じる映画だ。ツチダが私たちと同じ世界で生きているような錯覚すら覚えるほど。太賀が演じるミュージシャン志望のせいいちもまた、「いるよね、こういう男」と思えるほどリアル。役をつくりあげる上で大切にしたこととは?

「作品によって役づくりは変わってきますが、今作でいえば、臼田(あさ美)さんがずっとツチダでいてくれたことが大きく影響しています。臼田さんの原作を愛する気持ちや情熱が作品の世界観をつくりあげる上で欠かせないものでした。作品に対する思いを共有すること、ツチダである臼田さんと過ごす時間があったからこそ、せいいちでいられたと思います。大切にしたこととしては、ツチダを好きでいる気持ちでしょうか。だんだんすれ違っていくけれど、嫌いになったからではないんです、きっと。せいいちはスランプに陥ってからは外に出ることなく社会と断絶し、狭いアパートの部屋の中だけで生きていました。それが、あることをきっかけに職を探したり、元のバンドメンバーと会ったりすることで世界が広がっていく。それまで、部屋という小さな世界で見ていたツチダと社会に出て視野が広がったなかで見るツチダの存在の大きさが変わっていったことがすれ違う原因になっていったのかなと。ツチダとはケンカをするシーンがほとんどでしたが、相手を思う気持ちは忘れずに演じていました」

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――太賀とせいいちがダブって見えるほど、役にとけこんでいる。太賀のなかにせいいちの要素はあるのだろうか。

「どうなんでしょうか……。共通する部分でいえば、僕は役者で、せいいちはミュージシャンという表現をする仕事をしている点。不確かな仕事ですから、せいいちが抱えている葛藤や迷いというのは共感できるところでした。せいいちを演じるうえでも糸口になった部分かもしれません。役になりきれていたのだとすれば、撮影に入る前に冨永(昌敬)監督をはじめスタッフや共演者と信頼関係つくる時間があったことも大きく影響していると思います。ちょうど1年前の10月に撮影がはじまったのですが、お話をいただいたのがその年の2月くらい。撮影までの間、食事をしながら話し合う機会もあり臼田さんのなかにあるツチダを探すこともできたし、元バンドメンバーたちとも目には見えない信頼を築くことができたので、気持ちをつくることができたんだと思います。みんなの意識が高かったので、自然と士気が高まりました」

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――夢を追いかける男性を支える彼女というのはよくあるシチュエーションだ。一緒に夢に向かって頑張っていたはずが、支える彼女だけが必死になり気づかないうちに押しつけになっていく。これもまた“あるある”なのかもしれない。

「女性に限らず応援してくれる人の存在は心強いですよね。僕も役者をしているので、誰かに求められたり、必要とされたりすることに生きがいを感じます。ただ、お互いに傾倒しすぎるのはよくないのかな。男女間だとその距離感が難しいですよね。ツチダもせいいちの重荷になっているかもしれないとわかっていても、『せいちゃんの歌が聞きたい』と口にしてしまう。それが彼女にとってひとつの愛の形。お互いにもうダメだと気づいているのに一緒にいるしかない。そんなところも愛おしいし、リアルなんだと思います」

――登場人物はどうしようもない男女ばかりだが、みんな人間くさくてそこが魅力的。ちなみに、太賀はどんな女性に惹かれるのだろうか。

「え!? いきなりですか。僕の好みなんて需要があるのかな(笑)。そうだな、相手とではなく自分自身との約束を守れる人でしょうか。これをやるんだと決めたことをやり遂げられる人が素敵だと思います」

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――映画の出演が決まってから原作に触れたという太賀は「僕たちの生活の延長線上にある物語」であり、「共感できるところがいくつもある」と語る。

「登場人物たちの自らの感情のわからなさに立ち止まっている姿に共感しました。人って、自分が思っている以上に自分の気持ちがわからないものだし、この道を進めばいいとわかっているのに別の道を選んで失敗してしまう。常に矛盾を抱えながら生きている人達のドラマだと感じました。原作があると比較されがちですが、原作がもつ核がしっかりとしているので、実写でどう描こうとも本質はゆるがずにその魅力は伝わるのではないかと思っています。映画の予告でも流れていますが、“ありふれた平凡はこわれやすく、なくさないことは奇跡”という、当たり前に感じていることは当たり前ではなく尊いということを噛みしめることができる映画になっていると思います。過去を振り返るときって、たいていイヤなことを思い出すけれど、映画を観終わったあとは、あのときは幸せだったんだなと前向きな過去の振り返りができるはずです」


Writing:岩淵美樹

インフォメーション

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(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

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『南瓜とマヨネーズ』

11月11日(土)公開


ライブハウスで働くツチダ(臼田あさ美)は、ミュージシャン志望の恋人・せいいち(太賀)の生活を支えるため、密かにキャバクラや愛人契約で生活費を稼いでいた。それを知ったせいいちはダラダラと過ごす生活から一変、まじめに働き始める。そんなとき、ツチダの前にかつての恋人・ハギオ(オダギリジョー)が現れて……。

▼公式サイト
http://kabomayo.com/


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