「作品によって役づくりは変わってきますが、今作でいえば、臼田(あさ美)さんがずっとツチダでいてくれたことが大きく影響しています。臼田さんの原作を愛する気持ちや情熱が作品の世界観をつくりあげる上で欠かせないものでした。作品に対する思いを共有すること、ツチダである臼田さんと過ごす時間があったからこそ、せいいちでいられたと思います。大切にしたこととしては、ツチダを好きでいる気持ちでしょうか。だんだんすれ違っていくけれど、嫌いになったからではないんです、きっと。せいいちはスランプに陥ってからは外に出ることなく社会と断絶し、狭いアパートの部屋の中だけで生きていました。それが、あることをきっかけに職を探したり、元のバンドメンバーと会ったりすることで世界が広がっていく。それまで、部屋という小さな世界で見ていたツチダと社会に出て視野が広がったなかで見るツチダの存在の大きさが変わっていったことがすれ違う原因になっていったのかなと。ツチダとはケンカをするシーンがほとんどでしたが、相手を思う気持ちは忘れずに演じていました」
「どうなんでしょうか……。共通する部分でいえば、僕は役者で、せいいちはミュージシャンという表現をする仕事をしている点。不確かな仕事ですから、せいいちが抱えている葛藤や迷いというのは共感できるところでした。せいいちを演じるうえでも糸口になった部分かもしれません。役になりきれていたのだとすれば、撮影に入る前に冨永(昌敬)監督をはじめスタッフや共演者と信頼関係つくる時間があったことも大きく影響していると思います。ちょうど1年前の10月に撮影がはじまったのですが、お話をいただいたのがその年の2月くらい。撮影までの間、食事をしながら話し合う機会もあり臼田さんのなかにあるツチダを探すこともできたし、元バンドメンバーたちとも目には見えない信頼を築くことができたので、気持ちをつくることができたんだと思います。みんなの意識が高かったので、自然と士気が高まりました」
「女性に限らず応援してくれる人の存在は心強いですよね。僕も役者をしているので、誰かに求められたり、必要とされたりすることに生きがいを感じます。ただ、お互いに傾倒しすぎるのはよくないのかな。男女間だとその距離感が難しいですよね。ツチダもせいいちの重荷になっているかもしれないとわかっていても、『せいちゃんの歌が聞きたい』と口にしてしまう。それが彼女にとってひとつの愛の形。お互いにもうダメだと気づいているのに一緒にいるしかない。そんなところも愛おしいし、リアルなんだと思います」
「え!? いきなりですか。僕の好みなんて需要があるのかな(笑)。そうだな、相手とではなく自分自身との約束を守れる人でしょうか。これをやるんだと決めたことをやり遂げられる人が素敵だと思います」
「登場人物たちの自らの感情のわからなさに立ち止まっている姿に共感しました。人って、自分が思っている以上に自分の気持ちがわからないものだし、この道を進めばいいとわかっているのに別の道を選んで失敗してしまう。常に矛盾を抱えながら生きている人達のドラマだと感じました。原作があると比較されがちですが、原作がもつ核がしっかりとしているので、実写でどう描こうとも本質はゆるがずにその魅力は伝わるのではないかと思っています。映画の予告でも流れていますが、“ありふれた平凡はこわれやすく、なくさないことは奇跡”という、当たり前に感じていることは当たり前ではなく尊いということを噛みしめることができる映画になっていると思います。過去を振り返るときって、たいていイヤなことを思い出すけれど、映画を観終わったあとは、あのときは幸せだったんだなと前向きな過去の振り返りができるはずです」
Writing:岩淵美樹
MOVIE
11月11日(土)公開
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