「SABU監督の作品を見てきて、抽象的なものを表現するのが得意で観客を引き込むパワーがあると感じていました。監督ならではの映像トリックというか、マジックがあるんですよね。監督の頭の中はどうなっているんだろうと不思議に思っていました。今回、ご一緒させていただいてまず驚いたのが、全てのシーンに対して絵コンテがあったことです。僕ら俳優には配られなかったのですが、美術さんなどスタッフさんには映画1本分全ての絵コンテが配られ、監督の頭のなかにある明確なヴィジョンをチームとして共有することができていました。頭の中で描いている画を具体的に示してくださるので目指すところにブレがなくなり、演じている僕らも心強かったです。明確な画はありつつも、監督のイメージに僕らを押し込むのではなくのびのびと芝居をさせてくれました。脚本も監督が書かれていて、言葉のチョイスも独特で、僕の好きな空気感でした。シリアスでショッキングな場面もあるのですが、クスっと笑えるシーンもあり、その絶妙なバランスも監督ならでは。とてもいい雰囲気で、初めてなのに気負わず演じることができました」
「同い年ですし、3回目となると安心感がありました。石井さんには溌剌としていて健康的なイメージがあったので、玻璃をどういう風に演じるのか実はあまり想像できませんでした。しかし、ファーストシーンで対面したときにそこには玻璃がいて、彼女の役に対する覚悟を感じました。この作品ではなるべく余計なものを削ぎ落として自然体でありたいと僕は考えていたのですが、石井さんも同じような思いで臨んでいたようでうれしかったですね。セリフはあるけれど、ふたりの会話やその場の雰囲気、その瞬間に起きることを楽しんで演じられたと思います」
「確かに今まではマンガ原作の作品も多く、“学校イチのモテ男”とかわかりやすい設定でキャラクターづくりもしやすかったんですよね。清澄はというと……。これといって特徴があるわけでもなく、ひと言で説明しにくい男の子。友だちがいないわけでもないし、自分らしくいられる場所が学校のなかにあって、現状に満足している。何が普通かの定義は難しいけれど、普通の男の子なんです。同級生にいたよね、っていう。主人公らしくないけれど、この作品ではどこにでもいる男の子であることに意味があると思うんです。これといって長けたものはないけれど、いじめにあっていた女の子・玻璃を救いたい、守りたいと一生懸命に頑張る姿が見せられたらいいのかなと考えていました。ヒーローの話というよりは、ヒーローになりたかった男の子の話であり、その泥臭さがカッコよく見えたらいいですね」
「1本の映画ですが、後半は新たな映画がはじまるといってもいいほど。後半に向かって見えない危険が感じられるのもSABU監督らしい手法で、観客を引き込んでいくと思います。清澄と玻璃のかみ合わない会話や、松井愛莉さんと清原果耶さんが演じた尾崎姉妹のクセのあるキャラクターなど学校でのありふれた日常が描かれているからこそ、衝撃的なシーンがいきてくるんだと思います」
「実は初日から大変で。トイレに閉じ込められた玻璃を助けようと、個室の壁によじのぼって会話をするシーンからでした。最初は足元に台を置いてもらっていたので壁にしがみつく体勢はラクでしたが、必死な感じを演じることに違和感があり最終的には台を使わずに本当に壁にしがみつくことに。両ワキで自分の体を支えるので、痛くて痛くて。終わったあとにワキを見たら内出血したのか青くなっていました。川のシーンも実際にもぐって撮影をしたので怖かったです。後半は本当に怒涛でした。恐怖心もありましたが、そこで起こっているリアルと向き合い、つくり込むのではなく自然に清澄としていること、それを撮ってもらうことを意識していました。ケガすることなく無事にクランクアップを迎えられたことにホッとしています」
「先ほどもお話しましたが、ヒーローになりたかった男の子のストーリーでもあります。俺はヒーローだ!と宣言すればなれるものではないけれど、玻璃にとって清澄がヒーローだったように、自分が誰かのヒーローになっているかもしれないんですよね。そして、自分のために自分を変えることは難しいけれど、大切な人がいることで自分を奮い立たせることができると思うんです。映画を見終わったあとに、自分にとってそういう存在は誰だろうと考えてもらえたら。ショッキングなシーンもありますが、最後まで目を背けずに見ていただけたらうれしいです。(北村)匠海くんとの息の合ったシーンも見逃さないでください。相当ふたりで練習しましたから」
Writing:岩淵美樹
MOVIE
4月9日(金)公開
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