2012年5月10日更新
『ロボジー』『宇宙兄弟』といった話題作に、立て続けに出演している、実力派俳優・濱田岳。彼の主演映画『ポテチ』が、仙台先行上映を経て、いよいよ全国公開される。作品について、撮影が行われた第二の故郷である仙台について、そして近況について、リラックスしたムードで語る。
中村監督と共演するという夢が叶っちゃいました
監督の「今村はバカだから」の一言でもやもやが吹き飛びました
2011年9月、仙台におなじみのチームが集結し、1本の映画がわずか8日間で撮影された。それは、伊坂幸太郎原作、中村義洋監督、濱田岳主演の『ポテチ』。伊坂×中村×濱田といえば、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)を皮切りに、『フィッシュストーリー』(09)、『ゴールンデンスランバー』(10)と、3本の傑作を生み出してきた、言わずもがなのゴールデントリオである。『ゴールデンスランバー』を最後に伊坂氏はしばらく自作の映画化はしないことを明言していたが、東日本大震災により状況が一変。伊坂氏は中村監督に、仙台で映画撮影を相談し、中村監督は「いつか映画化したい」と願っていた短編小説『ポテチ』の撮影を行うことを決意し、濱田に主人公の今村役をオファーした。
「4月に監督と一緒に被災地に行って、いろいろと思うことや考えることがあって……。そのタイミングで、5月にこの映画のオファーをいただきました。伊坂幸太郎×中村義洋の作品はしばらくないのか、寂しいなあと思っていたので、それがまた観られること、そこに自分が出られることが純粋に嬉しいです。それに、仙台で映画を撮れることは、僕にとって特別なイベント。またみんなで仙台に行けることも、素直に嬉しかったです」
今村は、仙台で空き巣を生業にしている青年。彼は、同じ生年月日のプロ野球選手・尾崎に対して、ある複雑な思いを抱いている。日の当たる場所と当たらない場所で、まったく違う人生を歩んでいる2人の人生はある日、奇妙な形で交錯する。
「今村くんは、ドがつくくらいまっすぐで、ピュアな男。それが素敵なところであり、問題を引き起こす原因にもなる。そこが一番大事なところだな、と思いながらやりました。今回、ある台詞の言い方がどうしてもわからなくて監督に相談したら、監督は『んー、(今村は)バカだから』って(笑)。『ああ、そうだった』と。そういえば、監督が以前、『人との付き合いを上手にこなせる人が優秀だとしたら、今村はバカ』と説明してくれていたのを思い出しました。撮影も終盤だったんですけど、胸のつかえというか、もやもやっとしたものが、監督の『バカだから』の一言で吹き飛びました」
中村監督との阿吽の呼吸は今回、共演という形でも発揮されている。なんと、中村監督は原作にも登場する空き巣の“中村親分”役を演じ、濱田と初共演を果たしているのだ。
「以前、他の作品で監督と対談取材を受けたときに、『いつか2人でブルース・ブラザーズみたいなコメディをやれたらいいね』って冗談で言っていたら、今回、夢が叶ってしまいました(笑)。あのシーンは楽しみだったし、実際にやってみても楽しかった。こんな素敵な夢の叶い方はないです。あのシーンは、普段、濱田岳と中村義洋が現場でしているやりとりそのまんまです」
飄々としたような、とぼけたような、風通しの良い温かさに包まれている『ポテチ』。それを形作っているのは、濱田が演じる今村の、独特のテンポで繰り出される台詞回しにある。
「クランクインのシーンが、若葉さん(木村文乃が演じる今村の恋人)の自殺を引き留める回想シーンだったんです。台本の文字の羅列だけ見ると、今村はものすごく気の抜けた男なんですよね。決して相手をおちょくっているわけではないけれど、受け取る側はとってもイライラするようなことを言う。そんな今村らしさが出ているやりとりがファーストシーンだったことが、僕にとってはすごくよかったんだと思います。やってみたら監督が直しナシでOKをくれたので、じゃあ、今回はこんな感じでいいのかなって」
仙台での舞台挨拶には特別な意味と空気があります
全国公開に先駆けて、ロケを行った仙台ではすでに上映が始まっている『ポテチ』。その公開にあわせて、濱田は監督と一緒に劇場を訪れ、舞台挨拶を行った。
「行く劇場がすべて満席だったんですよ。あんなに温かい空気のなかで舞台挨拶ができて、本当に幸せでした。僕自身、『アヒルと鴨のコインロッカー』から周りの環境が変わってきたというか、簡単に言うと顔と名前を覚えてもらえるようになって。今でも『アヒルと鴨』が好きだという方にもたくさん出逢うし、自分のキャリアというものにおいて、やっぱりはずせない作品なんです。そうなると、そのロケ地である仙台という土地も、必然的にはずせないプレイスになる。だから、仙台での舞台挨拶には特別な意味があるし、空気が違う。何を言っても笑ってくれるというか、『また岳ちゃんがヘンなこと言ってるわ』って息子を温かく見守るような、母性を感じます(笑)」
テレビバラエティ番組などでも垣間見える、そのユーモラスでチャーミングな人柄が、仙台市民以外にも徐々に広まりつつあるが、本人は「バラエティは苦手です。緊張しちゃうんですよね……」と、顔を真っ赤にする。「1人でも多くの人に映画を観てもらえたらなって。でも、『アナザースカイ』でアルゼンチンに行けたのはよかったですね! 自力じゃなかなか行けないですから、(行きたいって)言ってみるもんだなって(笑)」
アルゼンチンで本場のタンゴを踊るという貴重な体験ができた濱田。その思い出を、楽しそうに振り返る。
「先生が即興で振りを付けてくれたんですけど、アルゼンチンタンゴって踊りにストーリーがあるんですよ。僕に与えられたストーリーは、男が女をナンパして、女から品定めされて、結局ふられる、という内容。初めて会ったアルゼンチン人が僕を見て思いつくストーリーが、“高嶺の花に挑んでふられる”ってことは、“濱田岳のイメージは万国共通なんだな”って。妙に腑に落ちて、笑っちゃいました」
とはいえ、そのイメージに甘んじることなく、様々な役柄に挑戦していく。来年、公開が予定されている『みなさん、さようなら』では、主人公の13歳から30歳までという年月を演じている。中村義洋監督とはなんと、5度目のタッグとなる。
「中村監督の作品にまた呼んでもらいたいですけど、そのためにはすべての作品で結果を残さないと繋がらない。昔からそうですけど、どの作品でも一生懸命やるのは一緒です」
Writing:須永貴子 (C)2007 伊坂幸太郎/新潮社 (C)2012「ポテチ」製作委員会
『ポテチ』
2012年4月7日(土)より仙台先行公開
5月12日(土)より全国公開
原作:伊坂幸太郎、脚本・監督:中村義洋
出演:濱田岳、木村文乃、大森南朋、石田えり、ほか
▼公式サイトhttp://potechi-movie.jp/
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