「そのことは、撮影が終わってから知りました。こういうところでも僕は中村監督と繋がっているんだな、中村監督との繋がりが他の仕事に繋がっているんだな、と思いました」
「台本が一冊の面白い読み物になっていました。小説を読んでいるときのように、情景が浮かんで、ワクワクする感覚がありました。そして、水川あさみさんが“恐妻”を演じると想像したときに、1人の客としてテンションが上がりました。これは間違いなく面白い映画になるから参加したいと思いました。でも1つだけ、ちょっとしたがっかりしたことがあったんです。主演映画と聞いて胸踊らない俳優はいないわけですが、いざ蓋を開けてみたら『俺の役はこれか……』と。せっかくならカッコいい役で主演したいですからね(笑)」
「冷静に自分を振り返ると、人はいいところと悪いとこがあって当然だと思うんですね。僕のダメな部分は豪太と一緒ではないけれど、わからなくはない。『俺はそこまでしないけど、お前の気持ちもわかるよ』という、男同士が飲み会で傷を舐めあう感覚でのキャラクターへのアプローチは新しい経験でしたし、楽しかったです。僕が彼を褒めてあげないと、誰も褒めてくれない状況だったので、頭のなかで豪太とディスカッションしながら、僕が彼を好きになっていくイメージした」
「あのときは甘酸っぱくてかわいいカップルだったんですけど、今回の夫婦にはその成れの果て感があってすごく楽しかったです。行定さんにはとても言えないですけど(笑)。水川さんはあのときも今回も、台本に対して誠実な方。こんな台本こそ、ふざけてやっちゃダメなんです。水川さんが誠実に台本に向き合うだけでコメディになるから、共演する女優さんとして、ものすごく頼もしかったです。水川さんご自身は、雨が降っていても水川さんの周りだけは晴れているような、太陽のような人。そんな人が現場にいてくれることは、一番目に名前が出る僕としてはとても心強かったです。監督は豪太と同じでヘラヘラしたえびす顔(笑)。2人が温かい空気を作ってくれたので、僕は現場で何一つ気を遣う必要はなかったです。娘・アキ役のちせちゃんも、僕と水川さんのことを普段から『パパ』『ママ』と呼んでくれて、自然と家族にしてくれました。ちせちゃんも助けてくれたので、いよいよ何もしていないです僕は(笑)」
「どんな球でも取る責任はあるので、そこが唯一の仕事のチャンスではありました。どんな名投手もキャッチャーがいなければ試合には勝てないので、水川さんの素晴らしい球を一球たりとも取りこぼしてはなるものかという枷を、勝手に自分に付けていました」
「監督の実体験の面白さが詰まっているものなので、台本に忠実に。現場で感じたものを出すのも大事ですけど、リアルには敵わないですから。ほぼ順撮りでスケジュールを組んでくれたので、日に日にチカちゃんのフラストレーションが溜まっていくから、同じ「死ね」でも毎日違うんです。僕はほとんど台詞がないので、水川さんのテンションに対して『あー』とか『うー』とかゴニョゴニョ反応していました。振り切ったコメディだったら、あれだけ畳み掛けられたら『過呼吸になる』という選択肢もあるわけです。でもこの映画は、そういうコメディではなくて。豪太は、いくら被弾してもヘラヘラしているゾンビのような気持ち悪さのある人物なので、一球一球ちゃんと受けながら、リアクションを微妙に変えていかないといけない。そこが難しさであり、楽しさでした。水川さんは大量の台詞を覚えるのが本当に大変だったと思います。僕は撮影が終わったら夜は高松の居酒屋を楽しむことができるくらいの台詞量だったので、それもまた水川さんの怒りの芝居のエネルギー源になったかもしれないです(笑)」
「ネタバレにすらならないと思うので言うんですけど、僕のなかではあの表情には裏話があって。監督に、『一緒に旅をしてくれたチカちゃんが、豪太のことでノイローゼ気味になるほどつらい思いをしているのに、なぜこの男は最後に泣くんですか?』と。ト書きに『泣く』とあるけれど、僕の読みの浅さなのか、豪太が泣く理由がわからなかったんです。涙は得意なほうではないので、やはり準備をするために理解をしたくて。すると監督から『泣いて、家族を抱きしめて、この危機的状況を有耶無耶にしようとしている』と言われて『なんじゃそりゃ!』と(笑)。しかもマジックアワーで一発撮りをすることになったので、1回しかできない状況だったので、僕的にはかなりハードルの高いシーンでした。コンプライアンスなんかくそくらえという気持ちで、有耶無耶にするために必死で2人を掴んだら、チカちゃんにまあまあ本気で殴られました(笑)」
「二枚目の役が来ませんねえ(笑)。『働かざる者たち』のサラリーマンも、すごく流されている男ですし。普通の人の日常を描いた、落語の人情噺みたいなノリが好きではあります。長屋の壁の向こう側を覗き見している感覚の作品が。この映画もまさにそうですよね。『喜劇』と銘打ったことにみんなの自信が表れていると思いますし、『喜劇』と付く以上は見る人を選んじゃいけないと思います。実際に、誰が見ても面白い作品になっているので、コロナで疲れた気持ちのリハビリに使ってほしい。久々の映画館でとりあえずこの喜劇を見て、『次はもっといい映画を見よう』と思ってくれたら本望です。男性は豪太と傷の舐めあいをすればいいし、女性はぜひ豪太に罵声を浴びせてください(笑)」
Writing:須永貴子
MOVIE
9月11日(金)公開
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