「混沌とした世知辛い世界で常にお互いの愛だけを頼りに生きているエリオットとダレン。その兄弟ふたりの感じは愛おしさもあったし痛々しさもあって。それがとても今のこの時代にもマッチしている部分があったなと思ったし、実はそういう世界って時代背景関係なく今も昔も僕は変わっていないんじゃないかと思っています。形を変えて、言葉を変えて、世の中は混沌とし続けている。そういった中でこの『マーキュリー・ファー』という作品が今ここに存在する意味って、すごくあるなと思いました」
「いや、最初にお話をいただ時はすごく悩みました。というのも、僕はもともと舞台はやらないという感覚でいたので。それは音楽で“生なライブ”というものも経験している自分が、さらに“生な表現”をやることに…2つ抱える責任を持つということに、いまいち勇気が出なかった。でもこれはあの『マーキュリー・ファー』だ、どうしよう、と」
「でもだからこそ生半可な気持ちで“ありがたくやらせていただきます”とは言えなかったので、まずは一度しっかり台本を読ませてほしいとお伝えしました。で、台本を読み、これはすごくいいタイミングだと思った。これまで自分は映像、映画に生きてきて経験を積み重ねてきたという自負がある一方で、自分の中でいろいろ“自分流”が生まれ過ぎているよな、一度そういうのをぶち壊さないといけないと、どこかでずっと思ってたんです。自分の中で自分が思ってきたお芝居というものを一回壊せるいいタイミングが、この『マーキュリー・ファー』という作品であり、ダレンという役なんだと直感でわかったので、そこで改めて“やらせてほしいです”とお返事をしました。お芝居を8歳ぐらいから始めて16年、未知 なことが沢山あると思うんです。ただ自分の中で16年培った信念だったり、理念だったり、自分が信じている芝居というものがあり過ぎるからこそ、新しいものというのを要求するというか、今の自分を“ゼロ”にして新しい“1”を探したい、みたいな感覚は逆にものすごくあります」
「行くならこれしかないって、僕はすごく思えた。だって、戯曲の内容もですし、演出が白井(晃)さんで、エリオット役が(吉沢)亮くん。僕にとってこんなにありがたい場所はないですよ」
「身近な友人が何人も白井さんと舞台を一緒にやっていて、みんな口を揃えて言うんです。白井さんのこと、めちゃくちゃ好きだって。そして、めちゃくちゃしごかれてるよ、とも(笑)。もともと僕は舞台を観るのは好きだったし、白井さんの舞台も拝見していました。そういう時に彼らの言っていたことを思い出すこともあり、どこか自分の中で漠然と“もしやるなら、自分の初舞台は白井さんとぜひご一緒したい”と思っていたところもあったので」
「白井さんには今日の朝、ビジュアル撮影でやっとお会いできました。ちょこちょこお話させていただいたんですけど、すごく物腰の柔らかな白井さんが、僕と亮くんがカメラ前にツーショットで立ったら、そこでディレクション開始。その瞬間、白井さん自身人が変わったように『マーキュリー・ファー』の世界に溶け込んでいく感じがあって、“誰よりも演じていらっしゃるんじゃないか”というのを感じました。ディレクションというよりはもう僕も亮くんも『マーキュリー・ファー』の世界の、ある種、罵声みたいなものをずっと浴びせられるっていう時間だったんですけど、2人で。それはそれはすごく楽しい体験だった。より一層稽古が楽しみになりました」
「はい。稽古はきっと楽なものではないし大変なことばっかりだと思うんですけど、純粋に芝居と向き合うというその時間は何にも代え難い。芝居の稽古は一定期間、定時のスケジュールで拘束される。そうやってひとつのものだけに集中することって、意外と役者として、いや役者だけじゃなく・・・なかなかないんじゃないかとも思います。だから今回この『マーキュリー・ファー』に携わる期間というのは、本当にお芝居というただひとつのことだけに集中できる時間。とっても楽しみ。ま、実際そこで自分がどうなってしまうかは、自分も全く分からないですけどね」
「映画もドラマも“芝居”だけれど、舞台って、映像の芝居よりもよりいろんなものが削られて、その芝居の良さそのものが伝わりやすいというか、生で観るからこそ芝居を非常に間近に感じることができる。そこはちょっと映画館で観る映画と近いところもありますが、舞台はもう本当に目の前で芝居が繰り広げられていて、その世界に観ている人も吸い込まれていくあの感じや他の雑念が全く耳に入ってこない感覚が素晴らしいと思います。あれだけ芝居っていうものだけに集中できる空間にいると、すごく本質的なものを見せられているような気がして。その感覚が学生の時からとても好きで、観劇には今でも本当によく行ってるんですよ」
「自分の中では“最初で最後かな”というくらいの気持ちでのトライです。今まで、役者と音楽を両立する為にどちらも120%両立するんだ!って根詰めて突き進んでいる頃の自分は思い返せば機械のようだったところもあるかもしれない(笑)。そういう時期を越え、今は心の余裕もあって、よりクリエイティブな思考が回る中でこうやって生きてきてる。でもここでさらにそれすらも一回全部取っ払って、芝居だけに、舞台だけに集中するっていう期間を過ごすことを決めたのは、いろんなことを経て自分の中でちゃんとそれができるのは今だと思ったから。素直に挑戦したいと思えたから。で、これがさらに『マーキュリー・ファー』を経てまた“じゃあどうする”ってなった時に始めて決断できることがあるんだと思う。例えば“半年芝居だけに集中できるんだったら、ぜひ舞台をやりたいです”とか」
「自分の中でずっと意識してきたのが、どっちかのイメージが先行するのではなく両方ともしっかりバランスを取りながらやること。やるからには全部手を抜きたくないんだ、全部100でやるんだって。それはもう自分の性格ですね。両方いろんなことをやっている人=僕という存在として見てもらいたいと、ずっと思って生きてきました。それが今少しずつ認められてきているのかなと思えるから…この勝負、できるなって」
「実際、亮くんが居たのもこの舞台をやるって決意した理由のひとつです。今までは『さくら』や『東京リベンジャーズ』など、亮くんに支えてもらってばっかりだったので、今回は亮くんが主人公の兄で、僕は弟役。舞台は初めてなので相変わらず支えてもらうこともいっぱいあるだろうけど、でも作品内の兄弟みたいに、弟として亮くんをしっかり支えられる機会が来たことをとても意気に感じています。これまでの恩返しも込めて、ぜひ一緒にこの舞台をやりたい。やっぱりお互いにとても信頼を置いているし、人としても、役者としても。そのリアルな関係値があるからこそ、僕らはここでエリオットとダレンを演じられるんだと思います」
「本当に内容はとても過激だし、約2時間の中でお客様はいろんな感情になると思いますが、僕は今、この時代も届けるべき内容だと確信している。難しいようで、実は兄弟2人に流れている問題ってすごい単純なことで、愛情だったり…今こそそうしたモノに気づく時代だとも思うので、そこは僕らが生で作ったものをちゃんと届けますので、みなさんもちゃんと生で受け取りに来てくれたら嬉しいなと思います。やるからにはね、やっぱりしっかりぶっ壊したいです。自分自身のなにかを」
Writing:横澤由香/Styling:Shinya Tokita/Hair&Make-up:佐鳥麻子
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