片桐はいり「大森の友人から、映画のポスターを看板にしてぶら下げて宣伝している人を見たという話を聞いて。それが『くそガキの告白』の上映時に、自らサンドイッチマンになりチラシを配っていた鈴木監督でした。大森に映画館があることを知らない友人がいたことにも驚き、JR大森駅に映画の看板を出すことに使命を感じました。これだ!というきっかけをくださったのが、鈴木監督です(笑)。それが今のアトレ大森ともぎりさんのコラボにつながるわけです」
鈴木太一「チラシ、配りまくっていましたね。配らずにはいられないという気持ちでした(笑)」
片桐「瀬田監督とは、『片桐はいり4倍速』という作品のメイキングを撮影していただいたのですが、その時、映画好きな私は本編以外、特にメイキングには興味がなくて(笑)」
瀬田なつき「私も人見知り全開であまりお話することができませんでした」
片桐「でも、その後、横浜のジャック&ベティの「未来の巨匠たち」という特集上映で瀬田監督の映画が上映されていると聞き、観に行ってみたら、とても素晴らしくて一気にファンになってしまいました」
瀬田「いつかご一緒したい、はいりさんのいろいろな顔を見たいという思いで、『片桐はいり4倍速』の企画を出していたので、『もぎりさん』でご一緒できたのは夢のようでした」
片桐「鈴木監督に35mmの話を入れて欲しいとお願いしました。今、映写機を残している映画館はとても少なくなっています。キネカ大森も今後どうなるのかわかりません。そんなこともあり、ぜひお願いしたいと伝えました」
鈴木「今回は前回より30秒ほど短い2分という尺になっています。作っていると、あれも入れたい、これも入れたいという気持ちになるのですが、『もぎりさん』は先付けムービーなので、余計なものは入れないということを心がけています」
片桐「瀬田監督にも、劇場に幽霊が出るという話をしました。映画館や劇場には、幽霊がいないとダメなんですよ、なんて話をして」
瀬田「それがきっかけで生まれたのが、第10話の『もぎりさん、さようなら』ですね。古いチケットを持って劇場にやってくる女の子のお話です」
片桐「今日のような一挙上映で観るのは、それはそれでおもしろさはあると思いました。でも、『もぎりさん』は4コマ漫画のようなもの。10分くらいになってもいいかなとは思うけれど、基本的には、そこは考えずにこのままの形でずっとやっていけたらなぁと思っています」
鈴木「はいりさんがもぎりをやっているというのは知られていることですが、それが映画になって映画館で上映されていることってちょっとおかしいですよね。映画の前にはいりさんが出てきて、その映像を観るだけで気持ちがやわらぐ、ほっこりできるという魅力があると思います」
瀬田「キネカ大森で、チケットをもぎって働く、もぎりさんの日常という、どちらかというと、地味な設定ですが、逆にとても自由で、些細なことがもぎりさんを通すと、すごくスリリングに見えるのが、魅力だと思います。それと、映画館に来た人が、普段は気にしない、上映する側についても、興味を持ってもらえたら」
鈴木「単に、映画館っていいところですよね~っていうCMではなくて、各監督がやりたいことを尊重してもらいつつ作らせてもらっているので、ショートフィルムとしても味わい深いです。そしてなんといっても、はいりさんありき。アイコン的存在は欠かせません」
瀬田「はいりさんは存在そのものが魅力的ですしおもしろくて。動きなども、次々に提案してくださって、次に何をするのか想像つかないんです。さらに、シナリオの打ち合わせにも、ロケハンにも、参加してくれるのが、本作の特徴です。はいりさんであり、はいりさんではない、もぎりさんという役を、はいりさんに相談しながら、みんなで一緒に作っていくという」
片桐「モデルは私なので、役作りとかはないんです。家でメイクしてこのままの服装で劇場に来るので。もちろんセリフは覚えなければいけないのですが、もぎりさんは朝何を食べているのかとか、何が好きなのかとか、具体的なことは考えないようにしています。前作の大九(明子)監督とは、もしかしたらもぎりさん自体がこの世の人ではないのかもという話をしたこともありました。もぎりさんだけ、制服を着ているというのも何か意味があるのかも、とか。私がモデルだけど、私本人ではない。ちょっと不思議な感じですね」
片桐「親に連れて行ってもらったのはディズニー作品。学校で『星の王子さま』を観る会もありました。でも自分の意思で初めて行った映画は中学一年の時の『ジョーズ』です。それから大学に入るまで怖くて海に入れませんでした(笑)」
鈴木「僕は『E.T.』です。最初はやっぱりベタですけど、今は名作になっている作品ってすごく流行ったものだったりしますよね」
瀬田「監督っぽくないと言われるのですが、やっぱり最初の記憶は『ドラえもん』です」
片桐「いいじゃない『ドラえもん』。子供向けの映画ってパワーが違う。『アンパンマン』とかもすごいもの。子供の観たい!というエネルギーが伝わってくるというか。上映後のポップコーンの散らばり方を見て、凄さを感じずにはいられません」
鈴木「最初はフラットに観て、ストーリーを楽しんでほしいです。そこから、監督は誰かな、他にどんな作品を作っているのかなと、もぎりさんを通して興味を持ってもらえたら嬉しいです。もちろん、役者さんも。わかりやすくポップな『もぎりさん』という作品で、映画っていいなっていうのを少しでも感じてほしいと思います」
瀬田「映画館に来たら『もぎりさん』が、予告に混じって不意打ちのように観れる。ちょっとした、おまけのような感じで楽しんでほしいです。他の映画館やDVDでは見られない、映画館だけのおまけって素敵だと思います」
片桐「もぎりという仕事や存在を知らない人が多く、風前の灯のような存在でもあります。頼まれてもいないのに、私の矜持としてトークショー前に必ずもぎりをやるのですが、もぎりをしてお客様と上映前に触れ合うことにより、どんな方が観に来ているのか、どういう映画が好きなのか、そんなことがなんとなくわかるんですよね。アナログだけどそういう触れ合いが楽しいんです」
鈴木「そうそう。映画館はどんどん効率が良くなっていて。ネットで予約ができてとても便利ではあるのですが、対面してもぎる、この無駄なことかもしれないけど映画的なことではあると思うんです」
片桐「便利なものが主流になったとしても、残してほしいとは思っています。失くす必要はないかなと。これはこれ、それはそれで取っておいて!という気持ちです。私個人的には、もぎりや昔ながらの映画館は、生きている間は置いておいてもらいたいです」
瀬田「スタッフ、キャストもそういう想いを持った人たちが集まっている作品なので、本当に現場が楽しいんです」
片桐「完全に部活です(笑)」
瀬田「みんな映画が本当に大好きで、効率とか気にせず、妥協とかしない人たちですから」
片桐「部活を通して、“またやるの?”なんて前の監督が遊びに来てくれる、『もぎりさん』ってそんな作品です。そういう“会”を、どんどんやっていきたいと思っています」
鈴木「僕らが作っていて楽しいということが、観ている人に伝わることを信じたいと思っています」
Writing:タナカシノブ
キネカ大森先付ショートムービー
キネカ大森にて先行上映後、テアトル系劇場などでも公開予定
pagetop
page top