「“新しい『血の婚礼』になる”と言われたのがとても印象に残っています。私は最初、以前の翻訳版を読んでいたのですが、新訳の台本をいただいた時、現代の表現というか、もちろん普段ではあまり使わないような言葉もいろいろ出てくるのですが、今の人たちにわかりやすい言葉が並んでいるのを見て、“新しい”というイメージが確かに伝わってきました。でも、文字だけを見ていても正直、全ては掴めないんだろうなって。実際に稽古が始まって、これをみんなで演じるとなった時に初めていろいろなことがわかるのかもしれない。そんな物語だと思いました」
「詩的な表現もふんだんで、普通に会話すべきところでも詩のような言葉遣いが随所に出てくるので…それを例えば舞台ではストレートに話すのか、それとも歌うのか。一体どういう形で伝えていくんだろうって、ひとつひとつ、とても気になります。その中でも私が演じる花嫁は、人によって見せる顔が違うんですよね。父に対する姿、女中と一緒にいる姿、花婿に対してもレオナルドに対しても…“どれが本当のあなたなの!? ”って思うくらい(笑)、場面場面で違っていて。友達みたいな感覚で一番自分の本当の姿を見せられるのは女中だから彼女に対してはずけずけ行けるんだけれど、大人に対してはきちんとした話し方をするし、でもどれも嘘じゃないっていうのも多分真実で。だからすごく難しいキャラクターだなと思っています。一番印象的なのは愛を熱烈に語る場面。そこはやはり国が違うからなのかもしれないし、時代の違いもあるのかもしれないのですが、情熱とか愛の伝え方とかが私の人生の中に全くなかった種類の言葉たちなので(笑)、それをどういう風に言うのが正解なのか?と、考えるだけですごくドキドキします」
「自分自身がどういう風に稽古中に変わっていくのかなとか、どれだけ心身を削られていくのかとか、今はまだその中に入っていないので(取材当時)、そういう体験そのものが面白そうだなと思っています。セット、衣装、音楽が入るとどうなるのかなというのも想像したり、今はまだちょっと離れたところから自分を見ていられる分、純粋に全部が楽しみ。だからこそ、稽古前からあまりいろいろ考えないようにはしています。作り込み過ぎちゃうと見えなくなってしまうので、“楽しみだな”くらいの感じで留めています(笑)」
「撮っていただいた写真はどれもとても素敵なんですけど、本当に大変な撮影だったんです。“初めまして。よろしくお願いします”とご挨拶した5分後にはひとつの椅子に3人で座っていました。木村さん、須賀くん、私…と次々に重なって、座っていく。初めましての日にいきなり全体重を預ける事なんてなかなかないぞって思いました(笑)。そういう複雑な撮影をしつつ、みんなおしゃべりでフランクで、“あ、3人とも似た感性の持ち主だなぁ”と私は感じました。撮り終わって起き上がる時にもパッと手を差し出してくれて、私もなんの躊躇もなくその手を取って立ち上がる、というようなことが、出会って数十分の間にできるようになっていましたし。私は現場でよく喋る方なんですが、木村さん、私よりも喋るんですよ(笑)。その木村さんがボケ担当で、私と須賀さんがそこに突っ込む関係性もその1日で成り立ってた感じがして、私自身、こんなに人に馴染むのにスピード感があったのが初めてかもしれないっていうくらいでした」
「今回、お話は重いし、ふたりに取り合われて…と、いろいろ複雑な関係性ではありますが、私はまだまだ舞台の経験がないですし、お二人はたくさん場数を踏まれているので、頼りにしていきたいなと思っています。稽古で悩んだりしたことも素直に聞いたりできるだろうなって。俳優同士仲良くなればいいっていう話ではないけれど、自分はそんなに役を引きずるタイプではないですし、花嫁にとって近い人たちと仲が良いことが作品にも活かせる、と思っています。良いチームになるんじゃないかな」
「難しいですよね、本当に。花婿から逃げたからレオナルドのことを選んだのかって言えば、きっとそうではないし。花婿は本当に大きな愛を持っていて、とにかく花嫁のことが大好きなんだろうなってことが伝わるんです。一方、レオナルドとの関係は本当に面白いなと。絶対的な愛があるから一緒にいたいはずなのに、ずっと突っぱねあっている。本当に愛の形もいろいろ、ですよね。外に向けてもハッキリ見える大きな情熱と、内にある大きな情熱との対比。どちらも選べればいいんですけどね。現代の生き方だったらきっとこういうことにはならないんだろうな。男性らしく、女性らしくを求められ従っていくこの世界では、私みたいな自分勝手な生き方をしていたら、もうそこにはいられないなってことも思いましたし(笑)、花嫁も“女は結婚したらこうだ”という決められた生き方が合わない子なんだろうな。だから今花婿を愛しているのは事実なんだろうけど、結婚をしてしまったらもう私はここから出られないということに対してのフラストレーションとかも強くて。すごい時代だったというのを感じます」
「本当に、良いご縁があったら今後もやっていきたいという感覚です。私、舞台をやる前は“同じお芝居を何度もやり続けるのは無理だろうな”と思っていたのですが、でもやってみると全然そうではなかった。同じ人と同じ場所で同じことをやるからと言って、本当に、全てが同じことにはならない。周りの方たちの言うことを理解して、その日その時のお芝居で返していくのが舞台。でも私は最初、稽古でやってきたセリフの出し方とか間とかブレスの取り方とか、自分が練習してきたことを本番でも全部そのままそっくりやることが正解だと思っていたんですけど、前回の舞台である先輩から“舞台はチャレンジできるから面白いんだよ”って言われたんです。“チャレンジした結果20〜30点の出来になってしまうこともあるかもしれないけれど、もしかしたらチャンレンジしたことで100点以上になる場合もあるから”って。それを聞いたとき“確かにそうかもしれない”そして“それって面白いな”と思いました。実際、公演も後半に入って行った頃から、自分の中でここは高い音で言うって決めていたところをちょっと低い音でやってみたりしたんです。そうしたら、声を出しやすい日とか、逆に全然声が出なくなってしまった日とか、そういう体験がいろいろあって。“これがチャレンジなんだ。そしてそれを生で何回もできるのが舞台の面白いところなんだ”と大いに楽しみました。それが、実際自分でやってみて肌で感じて面白かった舞台の醍醐味。やるべきことをやった上で、今日の自分のテーマとしてこういう風にやってみようと決めて試すのって楽しいんだ、決められたことをやることが全てではないんだと知ることができました!」
「難しい作品であることには間違いないけれど、丁寧に掘り下げていくと、誰かが誰かを愛しているという、“愛”が主題として見えてくる。私自身、ここまで強力な愛を持って何かに接することがこの先あるだろうか、と思うくらいに愛が燃えています。私の中の最大級の愛は、この当時のこの場所に行ったらもうこれっぽっちしかいないんじゃないかって本当に思うくらい(笑)、この愛の話は壮大だなと思います。稽古も本番も、愛ってなんなんだろうって、自分自身に問いかけていく時間になるでしょうね。観る方も、このタイミングだとこの人、今の気持ちだったらこの人…と、誰に感情移入するのかも自分の持っている人生の背景で絶対に視点が変わってくると思います。すごいですよ。なので、来ないとわからないって言うのが正直な感想です(笑)。まだ観劇経験がないという方も、まずは一歩、とにかく劇場へ来ていただけたら素晴らしい体験ができるのは間違いないと思います。また、もともと作品としての『血の婚礼』が好きな方にもこれまでとまた全く別の『血の婚礼』を、新しく生まれたこの作品をぜひ観に来ていただいて、あれこれ考えていただけたなら嬉しいです」
Writing:横澤由香
STAGE
[東京公演] 9月15日(木)~10月2日(日)Bunkamuraシアターコクーン
[大阪公演] 10月15日(土)~10月16日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
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