「中前監督とご一緒するのが2度目になります。以前、“映画をやろうよ”っておしゃってくださって、今回健一の役を僕にあてがきしてくださったんです。役者にとってあてがきはすごく嬉しくて、贅沢な経験です。さらに今どき珍しい完全オリジナルで貴重な作品なんです」
「実は、僕はがっつりのコメディ自体は初めてなんです。「ガチバン」シリーズはコメディ要素は強いですが、コメディというテイではやっていなかったので(笑)、コメディを撮っている感覚はありませんでした。『全開の唄』は、脚本の段階からコメディとして読みました。本を読んで純粋に面白いと思いましたね。フラットな状態で見て笑えて面白くて、ちょっと落ち込んでいる時に見たら元気になれる。そういう作品は素敵ですよね。と同時に、不安を感じたんです。芝居としてコメディが一番難しいと言いますし、どうしたらいいんだろうって悩みました。でも、普段通りでいいんだなって。健一を普通に演じていたら面白くなるに違いない、周りがかき回してくれるんじゃないかなって思ったんです」
「御殿場にある練習場で一ヶ月ぐらい練習しました。毎日は通えないので、初日から午前と午後の部の練習どちらも出たのですが、午前中のはじめのほうで練習がきつすぎて戻してしまいました(苦笑)。きついというレベルを超えていて、体がビックリしてしまったんだと思います。最初から自転車に乗せられて、ずっと車輪をこぎ続けないといけないので、足にきましたし、怪我もいっぱいしました。役的に怪我があったほうがリアルでいいなとは思ったんですけど、やっぱり痛かったですね(笑)」
「先生がアジア1位の方で、めちゃくちゃ厳しいんです。“競輪の人間を育てるつもりでやるから”って言われて、ずっとぼろくそ言われていました。先生は僕とママチャリで並走するんですけど、これまたすごい速いんですよ(笑)。なんだかいろいろ悔しくなって、負けるか!っていう気持ちになりました。あと、ライバル役の遠藤雄弥くんも一緒に練習をしたんですけど、彼の存在も大きかったです。遠藤くんは映画『シャカリキ!』ですでに自転車の経験があったので、乗り方もキレイだし、上手いんです。本人には言っていませんが、心の中で負けるもんか!ってライバル視していましたね。そういう気持ちがあったから頑張れたんだと思います」
「もちろんどの作品も全力で取り組んでますが、出ないシーンが2シーンぐらいしかなくて、演じる側としては嬉しいですが、さすがに…(苦笑)。自転車のシーンの練習や撮影の疲れもあって、廊下をただ走るシーンで肉離れを起こしてしまったことも。とにかくきつすぎて、記憶がないシーンがありました(笑)。極限状態で撮ったからだと思うんですけど、記憶を失った作品は初めてですね。それぐらい全開で頑張りました。今振り返ると、辛かったけど、楽しかった。そういう現場が大好きなんです」
「役に入り切っていて、その場で出てきたことを言っているシーンもあります。喋ったことすべてが、健一として正解になるんです。それは監督が「全開の唄」をベースにしつつ、僕にあてがきしてくださっているからなんですよね。監督が僕のことを考えて、演じやすいように書いてくださっていたので、役自体は僕自身とは離れているんですけど、寄りやすかったです。演出された記憶はなくて、自然と体が動いていきました」
「演技をしていると、覚醒する瞬間があるんです。一瞬何もなくなって役と自分だけになるんですけど、その瞬間が気持ち良くて。そこにいけたらベストで、これまで何回か経験していますが、この作品はフルでそんな感じでした。意識がなくても撮れるぐらいですからね(笑)。『全開の唄』は、僕にとって特別な1本ですし、大好きな作品です。スタッフキャストみんなが家族みたいに仲良くなって、みんなで映画を1本撮ろうという熱い気持ちにも心を押してもらいました。改めてお芝居の楽しさを感じたし、限界も感じた作品です。今はまた限界値が上がっていると思うので、続編があったらぜひまたやらせていただきたいですね」
Writing:杉嶋未来
MOVIE
10月3日(土)より新宿バルト9ほか全国順次ロードショー
pagetop
page top