2012年6月28日更新
型破りな検視官・倉石義男の活躍を描いた人気ドラマ「臨場」シリーズが、映画『臨場 劇場版』となり、劇場公開される。約2年ぶりに倉石を演じた内野聖陽が語るのは、役柄と作品への想い。そこからは代表作への誠実な愛情が伝わってきた。
脚本作りから本番直前まで、監督と話し合い続けた
── 2010年のドラマ「臨場 続章」から2年。「もう一度、倉石が見たい」という内外の声が『臨場 劇場版』の企画へと繋がった。内野聖陽は当初、「不安もあった」という。
「『臨場』は、死者の声を根こそぎ拾う、縁の下の力持ち的な存在の検視官の物語。派手なアクションがあるわけでもなく、映画的にどうなのかなという不安もありました。でも、脚本が徐々に磨かれ、プロデューサーさんや作家さんの“想い”が形になるにつれて、改めてもう一度、倉石という男を徹底的に、情熱をもって演じたいと思いました」
── “想い”という点では、内野のそれも相当なものだった。テレビドラマのときと同様に、自身の意見や想いを脚本づくりの段階からぶつけていった。
「倉石の生き様がストーリーにどれだけ影響を与えるのかを考えて、こういう台詞があったらいいんじゃないか、こういうシチュエーションではこんなことが起きたらいいんじゃないかって話し合いましたね。テレビドラマから、倉石はストーリーの最後に被害者遺族や犯人に言葉を投げかけてきましたが、それが押しつけや、お涙頂戴の説教にしたくなかった。今回も作家さんを交えた場で、僭越ながら、いろいろ提言させていただきました」
── 映画のクライマックスで、倉石は連続殺人犯に言葉を投げかける。撮影が始まる直前まで、それをどう表現するかについて、監督との話し合いは続いたという。
「映画冒頭の殺人犯は想像を絶する酷い男です。そんな男にどんな言葉を投げかけたらいいのか、少々悩みました。監督さんが『今回はラッシュを観たほうがいいんじゃないか』と提案してくださったおかげで、犯人像を知ることができましたね。脚本から僕がイメージした犯人像とはかなり違っていたので、倉石の対応も当初のものからかなり変化したと思います。結局、言葉は無しの平手打ち一発に落ち着いたんですけどね。(※ここでいう殺人犯とはストーリーの中の本当の犯人とは違います。)」
倉石と犯人が対峙するシーンはスケジューリングされたのは、撮影期間の終盤。内野は倉石を演じて物語を体験していくことで、徐々に倉石の細胞が作られ、倉石の思考になった。そして、クライマックスへの気持ちをつくっていった。
2年ぶりに演じて変化した、倉石という人物像
── 内野にとって“当たり役”となった倉石を、約2年ぶりに演じるにあたり、「焼き直しはしたくなかった」という挑戦の意識もあった。
「倉石という男に惚れているので、自分が理想とする倉石に徹底的に近づけたいという想いはありました。2年経って、演じる内野も多少は大人になっていることを期待しながら(笑)、倉石の年齢設定も多少上げて、今までとは違ったニュアンスを芝居に込めたつもりです。もちろん、倉石の魅力はより濃厚に出したいなと思いながら」
── 内野は『臨場』を“コンフリクト”という表現がぴったりの“衝突劇”と表現する。それは、検視官という立場で捜査に協力するだけでなく、衝突を恐れずに人の心にまで入っていく倉石のスタンスが成立させる、『臨場』シリーズ独特の世界観だ。
「僕は以前、倉石をアグレッシブで好戦的な人間だと思っていました。自分の領域を越えて、捜査一課まで乗り込んで、相手にとって迷惑きわまりない行動をとる男ですからね。でも、彼は『言わざるを得ないから言っている』だけなんだなと。自分の検視の見立てが間違っていれば、捜査が間違った方向に進んでしまう。そうならないために、彼は疲れた体にムチ打ってでも捜査本部に乱入するのではないかなと。好きでやってるんじゃないんだコイツは、と(笑)。だから今回は倉石の持つスーパーマン性より、普通の人間の持つ感覚を大事にして演じましたし、僕はそこに倉石の魅力を感じました」
── 倉石とぶつかるのは警視庁刑事部捜査一課の立原(高嶋政伸)。本作では、神奈川県警刑事部捜査一課管理官の仲根(段田安則)とも衝突し、さらには立原と仲根の間でも、静かな火花がぶつかり合う。
「捜査一課の花形と、日陰者の検視官のぶつかり合いから何かが生まれるところがこの作品の面白さの一つだと思うんです。2クールの連ドラでチームワークが出来上がっているから現場にはスッと入れるけれど、そこで馴れ合いが出ないよう、敢えて確執ある二人の溝を意識して、現場に臨みました。もちろん、カットがかかったらゆるーく仲良くやってますよ(笑)」
── 2年前に起きた無差別通り魔事件が発端となり、その事件に関わった様々な人々の人生や想いが重層的に織りなす重厚な2時間は、観客をテレビドラマとはまた違う体験に誘ってくれるだろう。
「今の日本に生きる人にとって、他人事とは思えない作品になっているんじゃないでしょうか。死から始まるお話なので、ハッピーエンドにはなりえないですが、投げかけるもの、突きつけるものが非常に強い。ぜひ映画館で映像の迫力と共に味わってほしいなと思います」
── その重厚な世界のなかで、息抜きになる倉石の行動がある。それは、野菜の丸かじり。映画ではなんと、巨大なカブを生でガリガリ!
「テレビではキュウリをかじることが多かったけれど、別に倉石のトレードマークはキュウリじゃないぞということで、そこも定番を崩したかったんです。季節が冬だから根菜だろうというところから始まって、捜査会議室の端っこで、何をカリカリ食ってたらムカつくか?ってことも重要だったかな。いろいろな変遷の後に、結果、カブになりました。カブを生でかじったのは人生で初めてです(笑)」
こんな些細なところにまで、内野の“想い”は込められている。
Writing:須永貴子
『臨場 劇場版』
2012年6月30日(土)より、丸の内TOEIほか全国ロードショー
原作:横山秀夫、監督:橋本一
出演:内野聖陽、松下由樹、渡辺大、平山浩行、高嶋政伸、ほか
(C)2012「臨場 劇場版」製作委員会
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