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2014年7月30日更新
「5万回斬られた男」の異名を持つ、日本一の斬られ役・福本清三を主演に迎えた『太秦ライムライト』。チャップリンの『ライムライト』をモチーフに、時代劇の聖地・太秦で斬られてきた男の人生を主軸にした時代劇に人生を捧げる人たちの物語となっている。
何度斬られても、妬まず、怒らず、愚痴らず、立ち上がる。
一途に努力を重ね続ける福本さんの生き様に触れてもらいたい。
── 落合が映画『太秦ライムライト』のオファーを受けたのは2年前のことだった。
「初めて打診を頂いた時、チャップリンの『ライムライト』と『福本清三』の二本柱を主軸にした作品だと言われ、この企画の持つ圧倒的な魅力に引っ張られました。チャップリンは、大学で映画史を勉強しているときに大好きになりました。特に「ライムライト」は人生で見た映画の中で一番好きな作品のうちの一つでもあります。一方福本さんについては、僕が初めて知ったのは『ラストサムライ』。その当時、“大部屋の俳優がハリウッドデビューした”というニュースを見た事を覚えています。この作品の企画書をいただいた後、すぐにリサーチを始め、彼の著書を二冊読みました。そこで福本さんの生き方や考え方に更に魅了され、ぜひこの企画に関わりたいと思いました。また、この作品はチャップリンと福本清三というだけでなく、和洋折衷の共同制作による作品でもあります。福本さんを代表とする京都のキャストやスタッフ、チャップリンの『ライムライト』をモチーフに書かれた脚本、ロス在住のプロデューサーと監督、アメリカ人のカメラマン、日本人のベテラン編集者、国際的に活躍する日本人作曲家、ロスのサウンドデザイナー……など、様々な文化背景を持った関係者によって出来た作品です。日本の文化や伝統といったものを海外に発信していくという意義にも僕は強い魅力を感じました」
── とはいえ時代物というジャンルは落合にとって初挑戦。作品に取り組むにあたり、その準備として日本映画や時代劇作品とどのように距離をつめていったのか。
「振り返ってみると、僕が一番時代劇に触れていた時期は幼少の頃かもしれません。祖父母のいる実家のテレビで、西村晃さんの『水戸黄門』や松方弘樹さんの『遠山の金さん』、松平健さんの『暴れん坊将軍』を見て育ちました。また、生まれて初めて見た実写の映画は、父に連れていってもらった『天と地と』だったのを今でも覚えています。10代になると、ハリウッド映画に魅了されていたので時代劇を含めて邦画を見る機会はほとんどありませんでした。しかし、高校を卒業して渡米した後、アメリカ人の学生によく日本映画や文化について語られることがあり、自分も日本人としてもっと日本について知らなければと思ったのをきっかけに、20代は邦画を意識的に多く観るようにしました。この作品に取り組むにあたっては、まず東映時代劇の名作を見ることから始めました。なかでも『大菩薩峠』、『宮本武蔵』シリーズ、『柳生一族の陰謀』や『十三人の刺客』などの東映時代劇の名作は今まで自分が知らなかったのが恥ずかしいと思ったほど素晴らしい作品です。時を超えて語り継がれる作品だけあって、どの作品も色褪せず、迫力満点で、学ぶことが多かったです」
── 名作とよばれる時代劇作品に触れるだけではなく、一生徒として京都で行われた殺陣教室にも参加したそう。
「自分が『太秦ライムライト』の監督ということは明かさずに、殺陣教室に参加し、福本先生に直々に殺陣を教えて頂きました。福本先生から丁寧かつ的確なご指導を頂いたのを昨日のことの様に覚えています。特に印象的だったのが、剣道と殺陣は違うということ。斬られて死んだことを観客に伝えるためには、役者も本当に痛い思いをしなければいけない時もある。ただ、この作品は純粋な時代劇ではなく、時代劇に人生を捧げる人達の物語。ですから、この作品を監督する上で一番役立ったのは、撮影前に一ヶ月間京都で過ごし、撮影所を回りながらスタッフやキャストの話を聞く事でした」
── 主人公・香美山と主演・福本清三さん。一見、両者の生き様には多くの共通点があるように写るが、落合曰く「むしろ全く違う」とのこと。福本さんの人物についてこう語る。
「香美山と福本さんは、共通点の方が少ないくらい全く違う二人だと思います。おそらく香美山は、一般の方がテレビやスクリーンを通してイメージする福本さんの人間像かもしれません。孤独な香美山と違い、福本さんは奥様やお子様がいらっしゃり、人柄は朗らかで優しく、後輩や撮影所の皆から慕われる方です。ユーモアのセンスもあって、昔の撮影所のお話などをされると本当に活き活きとされて、何時間も語ってしまうくらい話好きな方でした。逆に、共通点をあげるとすれば、55年間という長いキャリアで弛まない努力と、謙虚な性格というところだけかもしれません」
── 実際に撮影現場ではどんな演出を心がけたのかを伺ってみると、福本さんの人柄と役者としての生き様がにじみ出るエピソードも。
「福本さんは斬られ役として主役を引き立てるというのが体に染み付いているので、撮影現場でも自分が主役ではないかのように振る舞われておりました。リハーサルの際もフレームの端っこの方に自然と行ってしまったり、他の役者と被らないように人の前に立たないようにするなど、長年培ってきた名傍役としての技が滲みでてしまっていました。この作品では主役として真ん中に立ってもらうように演出したことも。現場ではこのように終始謙虚な姿勢だった福本さんですがスクリーンでの圧倒的な存在感は素晴らしかったと思います。特に映画の終盤で、香美山率いる剣会の面々が威風堂々と撮影所内を歩いていくシーンは、福本さんの主役としてのどっしりとした存在感の証明になったと思います。福本さんを演出させて頂く上でもう一つ感じたことは、日常的な台詞でも、時代劇の特徴的な台詞の言い回しになっていることがありました。福本さんが肩の力を抜いて、自然と話せる現場を作るよう心がけました」
── 本作には福本さんをはじめ、日本映画の一時代を担ってきた名俳優が多く出演。特に印象深いキャストとは?
「やはり『遠山の金さん』をはじめ数々の名作にご出演されている松方さんとお仕事をさせて頂けたというのは、夢のような経験でした。ただ、監督として松方さんに演出をするという事自体恐れ多くて、実際に松方さんに何を言えばいいのか……と撮影前は真剣に悩んでいました。しかし、松方さんは、若輩で未熟な僕でも一人前の監督として扱って頂き、良い作品を作るために情熱を持って接して頂きました。撮影中やその後にもお話をさせていただく機会があり、“刀は力を入れず、脱力した方が早く振れる”など、殺陣やお芝居のことをはじめ、撮影所の黄金時代の様子やお父様との思い出など貴重なお話をお聞き出来たことは、一生の宝物となっています。松方さんはじめ、栗塚さん、萬田さん、本田さんなどもそうしでしたが、ベテランの人ほど腰が低く、年齢や経験は関係なく、良い作品を作るためにクリエイティブなディスカッションを楽しまれていたような気がします。初日の緊張は嘘のように、撮影を終えてみると僕の取り越し苦労で終える事が出来ました」
── 劇中、夕日をバックにした美しい殺陣のシーン。まさに日本の芸術といっても過言ではない殺陣の撮影現場はどのような雰囲気だったのだろうか?
「この作品の殺陣で、ベテランの斬られ役に囲まれながら一際輝いていたのは、山本千尋さんです。中国武術の世界チャンピオンであった彼女は、今回初めて日本の殺陣に挑戦したにも関わらず、天賦の才を発揮していました。福本さんも山本さんも、お芝居のシーンはとても緊張していましたが、殺陣のシーンとなるとリラックスして、とても活き活きと刀を通して語り合っていました。この作品の成功の一番の理由は、キャスティングにあるのだと思います。福本さんと山本さんのお二人の絶妙な阿吽の呼吸は、夕日のシーンの撮影の時に感じました。あの瞬間を撮影出来るのは、15?20分という限られた時間で、ミスが許されない状況。しかし二人の呼吸や間が完全にマッチしていたからこそ、あのシーンをスムーズに撮りきることが出来ました」
── この作品を通して監督が描きたかったものとは?
「『5万回斬られた男』という異名を持つ福本さんですが、裏を返せば5万回立ち上がって来た男でもあります。倒されても倒されても、愚痴をこぼさず、憎まず、立ち上がり、ただひたすら努力をしてきた福本さんの生き方を、一人でも多くの人に知って頂きたいと切に願っています。『どこかで誰かが見ていてくれる』という言葉は、いつも身を以て実感しますが、努力をしていても、ズルをしたり、サボっていても、どこかで必ず見られています。僕自身、今後50年、60年、誠意を持って作品を創り続けていき、いつか福本さんの様になりたいと思いました。作品が完成し、たくさんの方々にこの作品を見て頂いて改めて思いますが、この作品は監督としての自分の力量を遥かに凌ぐ作品になったと思っております。それは、一重に福本さんを始めとするキャストの皆さん、そして京都の伝統的な撮影を守り続けてきたスタッフの方々がいたからこそ、ここまでの作品になりました」
── 本作で初めて時代劇に触れ「すっかり魅了されてしまった」と語った落合。最後に次回作の展望と、監督にとって映画を撮り続ける原動力について聞いてみた。
「12才の頃から映画を創り続けていますが、僕にとって映画とは“居場所”です。たとえ現実世界にどんな事が起こっていても、映画を見ている二時間だけはその世界に浸り、自分の居場所を見つけることが出来るという理由から魅了されてきた気がします。おそらく僕自身が“居場所”というものをいつも探していたのかもしれません。日本で生まれ育ち、19才で渡米して以来、現在までアメリカで過ごしました。すると日本に戻ったときに違和感を感じる自分もいたし、自分が少し日本人と違うような扱いを受けた気がします。簡単に言うと、帰国子女の分類に入ったというか。だから、日本が好きで自分を日本人だと思うにも関わらず、外国人扱いされ、定住しているアメリカでも、外国人扱いされるという環境の中で、僕が作る映画の主人公は、共通して自分の“居場所”を探し求めている気がします。『タイガーマスク』の伊達直人も『太秦ライムライト』の香美山も失われた自分の“居場所”を求める人生の旅が作品のテーマになっています。“居場所”とは、物理的な場所のときもあれば、精神的に安らげる環境や寄り添う誰かであったりと様々ですが、物語の最後に自分の居場所や役目、運命といったものを見つけることが僕の映画のテーマとなっています。 長編三作品目も『忍者THE MONSTER』という時代劇です。忍者禁止令が公布された架空の江戸時代を背景にした忍者活劇で、モンスターが山の神として崇められている山々を通り抜けなければならない姫のご一行の物語です。アクションやCGも作品の売りとなっていますが、忍者禁止令によって失われた自分の「居場所」を探し求める忍者のヒューマンドラマだと僕は思っています。公開まではまだ暫くかかりそうですが、本作で学んだ事を活かして、今の自分が持てるもの全てを注ぎ込んだ力作ですので、楽しみにしていて下さい」
Writing:長嶺葉月
祝!ファンタジア国際映画祭2冠
『太秦ライムライト』
絶賛公開中!
50年以上にわたり斬られ役として活躍してきた名優・福本清三が初主演を務めることでも話題となった本作。舞台は数多くの時代劇を送り出してきた京都・太秦。斬られ役一筋の大部屋俳優・香美山は時代劇が衰退し、苦境に立たされている。そんなとき香美山の前に、駆け出し女優・伊賀さつき(山本千尋)が殺陣の稽古を求めて現れる。香美山はさつきに往年の“太秦城のお姫様”の面影を感じとり、またさつきは斬られ役として生きる香美山の志や生き方にひかれていく。指導のかいもありさつきはテレビ出演のチャンスをつかみ京都を旅立ち、一方で香美山は年齢に勝てず人知れず引退のときを迎える。月日が経ち、スター女優となったさつきは京都での時代劇大作の出演が決まり、京都へ戻ってくるが香美山の姿はそこになかった……。
(C) ELEVEN ARTS / TOTTEMO BENRI THEATRE COMPANY
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