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2013年11月22日更新
梶原一騎・辻なおき原作の絶大な人気を誇るコミック、アニメであり、実在のプロレスラーとしても日本中を席巻した「タイガーマスク」の実写映画が現在全国公開中。本作のメガホンを取ったのは現在30歳の俊英・落合賢だ。長編デビュー作となる本作への想いと、撮影秘話を存分に明かしてくれた。
これまで監督した作品の中で一番印象深い作品
スクリーンでタイガーマスクの誕生を目撃していただけたら
── 撮影から2年の月日を経て、ついに公開へと漕ぎつけた本作。現在の率直な思いをこう語る。
「映画監督を目指して12歳の頃から映画を作ってきたので、自分が監督した作品がこうして全国公開されたのは感無量です。ただ、自分の夢が叶ったという実感よりも、やっとスタートラインに立つことができたという緊張と興奮の方が大きいです。僕にとって映画は、子供の頃、身長を刻むために柱につけた印のようなもの。その中でも『タイガーマスク』は一番印象深く、思い出に残る作品です。長編デビュー作にも関わらず、日本を代表するヒーローであり、漫画、アニメ、プロレスなど幅広い分野で人々を魅了してきた『タイガーマスク』を監督するという責任感とプレッシャーは果てしないものでした。原作から設定を変更したところもあったので原作ファンの皆さんに根底を流れるテーマが同じだと共感できるよう、乗り越えなければいけない壁が多かった。それだけに、完成した時の達成感は今までに味わったことのないほど大きなものでした」
── 梶原作品との出合いは「あしたのジョー」。幼い頃、プロレスファンの兄は幼い落合にタイガーマスクを見ては技をかけてきたという。落合にとってタイガーマスクは文字通り、体に刻みこまれた存在となった。自身の思い入れも深い作品である本作に関わるきっかけは、自身の行動力とさまざまなめぐり合わせによって生まれた。
「大学院を卒業する前に長編映画『サマー47』というロードムービーの脚本を書きまして、そのパイロット版の短編映画を自費で制作したんです。そのDVDと脚本と自分のプロフィールを無駄に大きく目立つ封筒に入れて、 日本の映像会社50社に「社長宛」でアメリカから郵送しました。相手にされないだろうと思っていましたが反響が予想より遥かによくて、最終的にはセディックインターナショナルの中沢敏明社長にお会いすることができたんです。当初はその長編映画をプロデュースしていただく予定だったんですが、諸々の事情で延期になってしまって。その際、中沢社長が原作権を持っている作品からご紹介いただいた一つが『タイガーマスク』でした。父が梶原先生のファンで兄がプロレスファンだったので昔からなじみはありましたが、それよりも日本を代表するヒーロー作品をぜひ実写化したいという一心で、実写における世界観や構想を書いた企画書を書きました。アメリカではアート系の作品を撮っていた監督が特撮映画の監督に抜擢されることが頻繁にありますが、日本では絶対にないこと。しかも僕のような無名の監督が長編を撮らせていただけるというだけでも奇跡なのに、誰もが知る有名作品の実写化で監督をするチャンスをくださった中沢社長には本当に感謝しています」
── 主人公である伊達直人をウエンツ瑛士が演じるという意外なキャスティングに驚いた人も多いはず。メインキャラクターを演じたキャストたちは落合にどのように映っているのだろう。
「伊達直人はちびっ子ハウスにいる時の顔、虎の穴の時の顔、ルリ子といる時、タイガーマスクとして戦う時など多面性を持ったヒーローです。ウエンツさんは役者よりもバラエティでのイメージが強い方かもしれませんが、僕が今まで一緒にお仕事をしてきた役者さんの中でも一番と言って過言ではないくらいお芝居に関して真剣な、素晴らしい役者さんです。テレビで観る“チャラいウエンツさん”のイメージと、初めてお会いしたときに垣間見た真剣な表情のギャップに僕は強く魅かれました。実際、ウエンツさんは伊達直人の複雑な心情の変化を見事に演じきったと思います。感情的な表現もそうですが、長い撮影の中で台詞をトチッてNGを出す事は一度もなかったですし、技術的な部分も素晴らしかったのでいろんな意味でウエンツさんに助けられました。ヒロインの夏菜さんは、本当に素敵な女優さんでポジティブなオーラが溢れんばかりに輝いていて。過酷な撮影の中でも夏菜さんのシーンは、現場は不思議と笑顔に包まれていました。哀川さんは現場の兄貴的存在で、さまざまな局面でキャストやスタッフを盛り上げリードしていただきました。哀川さんのように、キャリアのあるベテランに役者さんがもたらす影響力は非常に大きく、劇中でも現場でもその存在感は圧倒的でしたね」
── 撮影にあたって大切にした点を尋ねると、日本のヒーロー像にちなんだあるこだわりを明かしてくれた。
「なにより僕が意識したのは、日本生粋のヒーローを描くという点です。例えば、アメコミのヒーローと日本のヒーローの大きな違いは、変装と変身です。スーパーマンやバットマンはもともと強く、自分の正体を隠すために変装をして悪と戦います。一方、仮面ライダーや戦隊ものなど日本のヒーローは、変身をして悪と戦います。だからこそ今回の実写版『タイガーマスク』は、マスクを装着して変身をすることでヒーローになるという設定に大きく変更したんです」
── 「製作中“楽”だった日は一日もありませんが、やり甲斐のある日々を過ごせたおかげで毎日が楽しかったし、幸運でした」と撮影時を振り返るが、作品に対する強いこだわりはその過酷な現場の様子からも感じることができる。
「虎の穴での撮影は宇都宮の採石場で行ったのですが、地上の入り口から車で五分くらい進んだ洞窟での撮影だったので肉体的にも負担の大きいものでした。真冬の撮影だったので、尋常じゃないくらい寒いですし、早朝、日が出る前に洞窟に入り、暗くなった深夜に洞窟を出るので、撮影期間中は日を浴びる事はありませんでしたね。そのうえ採石場だったために粉塵がひどくて、スタッフもキャストも喉をやられてしまう人続出という状況の中での撮影でした。そんな中、虎の穴でレッスンをしている子役の子ども達が、元気に駆け回っていたのは唯一の救いでしたね。撮影の終わりは卒業していく生徒達を送り出すような、うれしくも寂しい感覚になりました。子どもたちも『もっと撮影したい』と非常に残念がっていましたが、撮影最終日に一人ひとりから手紙をもらったのは今回の映画制作の中でも一番うれしかった出来事の一つです」
── 完成直前には本作実写化の企画者であり原作者の実弟でもある、真樹日佐夫さん逝去という悲しみもあった。映画化にあたり、二人はどのような会話を交わしたのか。
「この作品を監督させていただくにあたり、脚本を持って真樹先生の道場にごあいさつに行ったのを今でも鮮明に覚えています。梶原先生の数ある作品の中でも『タイガーマスク』は、真樹先生にとっても非常に思い入れのある作品だとはお聞きしていて、さまざまなアドバイスをいただきました。特に印象的だったのは『伊達直人は孤独なゆえに愛に溢れた男』なんだということです。だからこそ、子供達やルリ子のために戦い続けるんだ、と。なにより真樹先生が、梶原先生やタイガーマスクのさまざまなエピソードを熱く語ってくださったことに感動しました。ご出演の際に『頼んだぞ!楽しみにしてるからな』と握手をしていただいたことは、一生忘れないです。完成した作品を真樹先生にご覧いただけないことは残念でしょうがないですが、先生が天国でこの作品を見て微笑んでいてくれることを心から祈っています」
── 劇中、伊達直人がミスターXに戦う理由を問われる印象的なシーンが登場する。落合にとって映画を撮るその理由とは……?
「12歳の頃から数えればもう18年続けていますが、僕にとって映画制作は呼吸する事に近いと思っています。アイディアを吸って映画を吐くというように、ごく自然な行いです。呼吸のようだからあまり意識しないですし、続けていて疲れない。そして、僕が生きていく過程で必要な行いなんだと思います」
── 最後に読者へメッセージをこう寄せた。
「日本を代表するヒーローである『タイガーマスク』の実写版を監督させていただいた事を非常に光栄に思っています。初監督作品という事で、未熟な部分も多々あるかもしれませんが、魂を込めて一所懸命に作らせていただいた作品です。ヒーローの誕生秘話が主軸の構成になってますので原作を知らなくても、十二分に楽しめる作品になっています。ぜひ劇場の大きなスクリーンで、『タイガーマスク』の誕生を目撃していただければうれしいです」
Writing:林田真季
『タイガーマスク』
絶賛公開中!
梶原一騎・辻なおき原作の人気コミックを初実写化。
児童養護施設「ちびっこハウス」で暮らす少年・伊達直人はミスターXに天性の素質を見出され、最強の闘士となるべく虎の穴で特訓の日々を送ることに。10年後、たくましく成長した直人は同期生の仲間とともにタイガーマスクの候補に選ばれる。しかし自分以外が敵だという虎の穴の方針に疑問を感じ始めていた直人は、そんな矢先、ちびっこハウスの幼なじみ・ルリ子と再会を果たす。己の信念と熱い闘志はそのままに、現代に生まれ変わったタイガーマスク。その誕生の瞬間を目撃せよ。
(C)2013「タイガーマスク」製作委員会
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