「毎回上がって来た台本を読むと、すぐ笑ってしまいます。面白いですし、登場人物みんなにしっかりと血が通い、それぞれがいいことも悪いことも含めいろいろ背負っているので、初めて一緒のシーンを撮る役者さんでも始めからちゃんとその人のキャラクターの背景を感じることができるんです。ほんとに愛くるしい人間ばかり。文字に書かれた台本から立体的にドラマへと立ち上げるには難しさもありますが、やっぱり“台本の良さを損なうことなく面白くしなくちゃ”という使命を感じます。撮影は毎日普通に電車に乗って撮影所へ通勤しています(笑)。この前久しぶりに東京に帰って来たら街の様子もすっかり変わっていて…って感じるくらい、「ちりとてちん」などを制作してくれたNHK大阪制作の空気と京都生活を堪能してますね。ホント、充実しています」
「万吉は町で不孝糖という飴ちゃんを売っているんですけど、ツボも背負って幟を立てて傘を張ってチンチン鳴らして。フル装備で歌舞いてます。やかましいです(笑)。でも彼がなぜ近松門左衛門にまとわりつくのか、そしてどこからきてどこへ向かっていくのかっていうのは、なかなか見えてないんです。それは…ある意味、天使のような存在と言えるかも。なにかしらの理由があって、まったくお芝居が書けないでいる“ちかえもん”…と万吉は呼ぶんですが、なかなか頑張っても器用に生きられない中年作家の運命の歯車をこう…ちょっとね、噛み合すような男というか、背中を押してあげる存在というか。ま、そのやり方はいつも万吉流でめちゃめちゃなんですけど(笑)」
「最初は“劇作家として劇団(大人計画)の主宰もされているので、たぶん鬼のような人なんじゃないかな”と思っていて(笑)、でも撮影が進むに連れて松尾さんのちかえもんがどんどんどんどん可愛く感じて来てます(笑)。元々ちかえもんとしての松尾さんを堪能したいな、と思っていたので、事前の情報は全部シャットアウトしてたんです。テレビで紹介されていたらすぐチャンネルを変えたりもして。なんか、普段の様子やクリエイターとして凄いところを知っちゃうと気軽にちょっかいもかけにくくなっちゃうかな、って(笑)。でも初めてお会いしたときいきなり握手してくださり──ホントの松尾さんはそんなにフランクじゃないそうですけど(笑)、気さくに接してくださったときに“これはいける”と感じました。余計なこと考えずに懐に飛び込ませてもらえばいいや、と」
「今回、初めて鏡を見て芝居の表情を考えてるんです。初めて見る人は特に、僕の顔ってぼーっとしていると怖いらしく。よく言われるんです(笑)。その印象だとちょっと万吉とはイメージが違ってしまうので、なるべくひょうきんなカンジを出していたくて、いつになく表情筋を使ってます。筋肉使い過ぎてアタマが痛くもなりますけどね(笑)。本番ではワンシーンが長かったり台詞が多かったりということも多々ありますし、そこでの掛け合いではやはりいつも以上に集中力が必要になります。ま、僕はひたすら自分の都合で出て来たりいなくなったりしつつ、ちかえもんにややこしい茶々を入れ続ければいいんですけど。おそらく松尾さんの台詞量のほうが相当大変だなって、近くで見ていて感じてます。この間も松尾さんが“この撮影がすべて終わったら、その瞬間に感極まって泣くか、激怒するかどっちかだろうな”とおっしゃってましたから(笑)」
「ネガティブだけどなぜか周囲の共感を呼ぶ愛くるしいちかえもんと、いつもボケっぱなしで明るくてぴょんぴょんしている万吉との関係はもちろん魅力的ですが、周りを取り囲む遊郭の女性たちの芯の強い美しさや艶やかさ、音楽、アニメ、ちかえもんの心の声など、いろんな要素で彩られたコメディ時代劇になっていますので、楽しみポイントはたくさんあると思います。脚本の藤本さんならではの面白い世界の住人になれるのも嬉しいですね。でも面白いが故にいざ動いてみると簡単にはいかないわけで…あたりまえだけど、簡単じゃないからこそ楽しいんです。苦しんで愉しんで。この先の撮影もちかえもんにできる限りちょっかいをかけていこうと思ってます(笑)」
Writing:横澤由香/Photo:小林修士(kind inc.)
TV
1月14日よりNHK総合にて毎週木曜20:00~放送
pagetop
page top