服部彩加「最初は、『私でいいのかな』という不安でいっぱいでした。でも、脚本を読ませていただくと、『監督はどうして私のことを知っているんだろう?』と思うくらい、果穂と私に共通点がたくさんあったんです。クラシックバレエから他のダンスに転向するところなどは自分の境遇にそっくりで、「この役をやりたい、いや、やらなくては」という気持ちになりました」
服部「『タッチ』の朝倉南ちゃんに憧れていたので、やりたかったのは新体操だったのに、なぜかクラシックバレエを習い始めてしまって(笑)。中学生の頃に『やっぱり違う…』と新体操に切り替えましたが、始めるタイミングとしては身体的な面でちょっと遅かった。私はアクロバティックで、パッションに溢れた、激しいダンスが好きなので、大学で競技ダンスに切り替えました。バレエのように静かで優雅なダンスよりも、観る人が単純に『凄い!』と思えるダンスをやりたかったんです」
小柳友「企画書を読んだときは、コンテンポラリーダンスとドラムをかけ合わせたパフォーマンスがどうなるのか、想像できませんでした。実際にそれをやられているダンサーの北川結さんとドラマーの守道健太郎さんのパフォーマンスを映像で拝見して、『これはかっこいい!』と。脚本を読んでみると、『これは面白くなるな』と思いましたが、『面白くするためには相当頑張らないといけないな』と(苦笑)。非常に大きなプレッシャーのもと、10年ぶりに本格的にドラムを叩きました」
小柳「2人のパフォーマンスに関しては、北川さんと守道さんがつくったものを、僕らが練習して、踏襲していきました」
服部「コンテンポラリーダンスを踊るのは初めてでした。今まで経験してきたどんなダンスも“型”があったのに、北川さんからは『型を作るな』と言われて、戸惑ってしまったことも。最終的にたどり着いたのは『なんでもいい』という境地。自分の出せる力すべてを使って思い切り踊ろうという気持ちに切り替えてからは、のびのび踊ることができました」
小柳「僕はまったく踊れないので、本当に尊敬します。今まさに取り組んでいる舞台の稽古で、10秒くらいのダンスを覚えるのに四苦八苦しているくらい踊れないので(苦笑)。服部さんは、北川さんがお手本を見せると、パッとできちゃうんです。感動します」
服部「私、小柳さんがいないときにドラムを勝手に叩かせてもらったんです。ダンスも手足をバラバラに動かすからできるかなと思ったんですけど、まったくできませんでした(笑)」
小柳「叩いてたんだ! 全然知らなかった(笑)」
小柳「服部さんの第一印象は無口でシャイな方。ドラムとダンスのリハーサルが最初からすごく楽しくて、『これだ!』という手応えがありました。彼女の透明感や純粋無垢な一面を映画のなかに出すために、自分も努力しなければと思わせてくれました」
服部「小柳さんは人見知りをする私に対して、明るく接してくださり、演技初心者の私にプチ演技講座もしてくださる優しい先輩でした。初めてなのにお芝居で感情を表現できたのは、小柳さんがうまく引き出してくださったから。尊敬しています」
小柳「どうなんだろう…。どう思います?」
服部「いきなりラブではなかったと思います。でも、伊藤さんが叩くドラムの音を聴いた瞬間に、自覚していたかは別として、気持ちを持っていかれていたとは思います。その後、どこで好きになったかと言われると、明確なタイミングはわかりません。ドラムとダンスを通じて一緒に時間を過ごすうちに、音とダンスが共鳴するように、好きになっていたんだと思います」
小柳「伊藤は絶対に、彼女の才能には一目惚れをしていると思います。セッションをして、彼女の悩みや本心を知っていくにつれて、自分も心を開き、恋愛感情へと変わっていった。そういう意味では、一目惚れだったのかもしれないですね」
小柳「この仕事をしていて、『本当に自分が必要とされているのかな』と思うことはあるので、伊藤の気持ちはすんなり理解できました。ドラムはリズム隊なので、その場にいなくても、リズムマシーンや録音があれば、果穂ちゃんは練習ができる。自分が果穂ちゃんに必要とされていないと不安になってしまったんですよね」
服部「果穂のなかでは、録音だろうが生音だろうが、伊藤さんの音に変わりはなかったのですが、自分のやりたい踊りに没頭しすぎてしまって、細かいことに気遣いができていなかったとは思います」
小柳「自分のドラムを必要とされたい伊藤と、まっすぐに突き進んでいる果穂ちゃん。表現者として、どちらの気持ちもわかります」
服部「2ヵ月前からずっと練習をしてきたので、最後は踊りたくて仕方がなかった。最終日だったので『倒れてもいい』くらいの気持ちでやりました。残念だったのは、本番ではカットを割ったので、通しで踊れなかったこと。できることなら、最初から最後まで一気に踊りたかったです(笑)」
小柳「僕は公園のシーンが印象に残っています。2人の距離感が近づいているのが伝わってくるし、人前で初めてパフォーマンスをやろうとしたけれど、うまくできないところがなんだか好きです」
服部「この作品を撮り終えたときに、今までにはない“全力を出し切った達成感”があったんです。これからも、ダンスやお芝居など、チャンスをいただけたらいろいろなことに挑戦していきたいので、そのときどきで、魂を燃やしていきたいです」
小柳「僕はやはり、目の前の作品です。芝居をしているときが一番楽しいですし、毎回、すべての役に魂を注ぎながら打ち込んでいます。この作品にぶつかって学んだのは、夢との向き合い方。僕が演じた伊藤は一度夢をあきらめましたが、果穂ちゃんと出会ったことで、かつて自分が思い描いていたものとは違う形で、また夢を見ることができました。この映画は、夢を追いかけている人はもちろん、夢をなくしてしまった人、夢の見方がわからない人など、いろいろな人に見てもらえたらなと思います」
Writing:須永貴子
MOVIE
3月31日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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