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2020年のカンヌ映画祭では『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞など4冠に輝き、2020年のベネチア国際映画祭では、共同脚本を手がけた『スパイの妻』が銀獅子賞(監督賞)を受賞。そして続く最新作『偶然と想像』は、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞するなど、世界が最も注目する監督のひとりとなった濱口竜介監督。その待望の最新作は、「偶然」をテーマに3つの物語が織りなされる「短編集」で、第2話『扉は開けたままで』に出演するのが、森郁月だ。濱口監督との出会い、独特の演出法、作品のテーマなど、幅広く話を訊いた。

数年後や年を重ねてもう一度観た時に新しい発見がある作品です

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―― 本作への出演が決まった経緯は、濱口監督サイドからのコンタクトだったという。

「ある日突然、濱口竜介短編集のキャスティング担当という方から、濱口監督と会う時間をいただけないかと事務所にメールをいただいて、お会いすることになりました。それがオーディションだったんだと思います。事務所までいらしてくださって、一対一でお話しをしました。オーディションのような会場があったわけではなく、一対一でじっくりお話をする。今思えば、それが濱口監督の選考方法だったんだと思います。どういう人なのかをみた上で、この人と映画を撮ってみたいと思った時にご一緒できるのかなと思いました。声をかけていただいて、とてもうれしかったんですけど、どうして私の名前が上がったのかもわからないまま会うことになって最初は驚きました」

―― 監督とどんな話をしたのか気になるところだ。

「監督は私に会いにわざわざ事務所にいらしてくださったんですけど、とても真摯な方で深く向き合ってくださいました。ここで普通のことを話すのはあまり意味がないのかなと思いました。はじめまして同士の、適度な距離感、ちゃんとコミュニケーションが取れてノリもよくお話しできるレベルのお話をしたところで、それは求められてない気がして。もっと近い距離感で、深い話を求められているんだろうなと感じましたし、そういう話ができなければ、私がいる意味もないだろうと思ったので、はじめましての方だけど、はじめましての方以上に近い距離感で深い話を出来るように意識しました。内容は覚えてないのですが(笑)」

―― 監督がこのときの森の様子を振り返り、「すごく緊張していた」という言葉を残している。

「私の意識したところが、緊張に見えていたんだと思います。緊張ももちろんしていましたけど、初対面の人には決して話さない部分まで話したので、心が落ち着かない状態でした。本音で言えば、もう少し距離を置いて話したい内容でしたし、精神的に安定した状態より逸脱しようと思って話したので、結果的に緊張して見えたんだと思います」

―― そのオーディションを経て、短編集の中の第2話『扉は開けたままで』に森の出演が決まった。演じることになったのは、子育てをしながら大学に通う奈緒という女性。奈緒は、同級生の佐々木から色仕掛けの共謀をもちかけられ、作家で教授の瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。なぜなら、佐々木は、瀬川教授の出席日数が足りなかったため、単位取得を認められず、就職内定は取り消しに。それにより瀬川教授を逆恨みしていたからだ。

「濱口監督の作品を観ていましたし、お仕事ができたらうれしいなと思っていたので、決まった時はとても嬉しかったです。撮影方法が独特だというのも記事で読んでいたので、今までにない体験ができそうだなというのもありましたし、奈緒という役は過去にやったことのない役で挑戦しがいがあると思いました」

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―― 濱口監督の独特だという演出はどんなものなのだろう。

「家では台詞を入れないでくださいと言われました。脚本を読んでもいいけど、覚えるのは相手役の方々と一緒に本読みをしながらやっていきましょうと。何回か読んだら本を伏せて、間違い直しをして、また読む。何度も何度も繰り返しながら台詞を覚えていくという作業で、それは本番に入ってもやっていました。大きな流れは変わらないんですけど、ちょっとした語尾だったり、…(てんてんてん)の数だったり、語順だったり、そういう細かい変更が入るので、その都度みんなで繰り返しました。イメージしたり、想像したりをしましたが、一人一人で何か役作りをすることはなかったです」

―― 何度も台本を読むことによって、役との距離が近づいていくという。

「意識的に台詞を繰り返すことによって、無意識に近づいていく感覚はありました。監督から動きのことで一つ言われたのは、奈緒は二の腕を触るのを癖にするということ。このシーンで二の腕を触ってくださいとは言われないんですけど、二の腕を触るのは癖だから意識的に触るようにしていると、撮影の合間とかに無意識に触っていることがあるんです(笑)。触ってるし、ちゃんと癖になってるねって言われて、意識的にやっていたことがいつの間にか無意識になっているなと思いました。そういうことが本読みを繰り返す中で付け加えられてきました。二の腕を触ることで落ち着く精神状態になっていくんですよね。二の腕を触る人の心理状態にも変わっていく感じはありました」

―― 奈緒と瀬川教授が研究室で小説について話し合うシーンは、本作最大の見どころにして一瞬も目が離せない怒涛の会話劇が展開する。

「研究室のシーンは特にセリフ量が多く大変でした。20分以上あるシーンかと思うのですが、短く分けても3等分くらいの尺を長回しで撮影しました。そして、3日目には全部を通しで撮ったりと、ずっと撮り続けました。最終的にどこをどうつなげたのかもわからないです(笑)。監督を信頼して撮影に入っていたので、私は繰り返し繰り返しやって、いろいろな可能性を探していました。奈緒という役の材料を提出する気持ちで、最終的に監督が編集をして映像になった段階で、奈緒という役が浮き上がるんだろうなと思いました」

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―― 撮影は大変ではあったが、偶然から生まれ瞬間をたくさん味わえて映画的な楽しさが勝っていたと振り返る。

「言葉が詰まったり、つい変更前の昨日の台本を言ってしまったりもありました。でも、リハーサルの本読みの段階から、濱口監督が台詞を間違えるのを気にしなくていいという空気を作ってくださいました。また、他の現場だと同じテイクならカメラの位置を変えても同じことを繰り返すことが大事だったりすると思うんですけど、濱口監督は全然それを求めていない。台詞を徹底的に身体に染み込ませた上で、役者の偶然から生まれたものを大切にされていて、意図的に同じことをむしろやらない方が良いという監督なので、全然違うことが起こったら起こったでラッキーだと。何か偶然から生まれる面白いことがないかなと思っていらっしゃる監督なので、撮影がすごく楽しかったです」

―― 奈緒が瀬川の小説を朗読するシーンは、最初こそ過激さに驚くが、奈緒の声の美しさに聴き入ることとなる。

「最初は読む内容にぎょっとしましたが、慣れていきました(笑)。何度も何度も繰り返すので、作業になって淡々と読めるようになるんです。私は自分の声が好きではないので、教授が美しい声だと言ってくるシーンもうれしかったですし、声の事も大事にされている監督がいいっておっしゃってくださったので、自信になりました。そして、ここでの教授との攻防は笑っちゃいますよね。奈緒が閉めたドアを開ける教授のドアの開け方が面白かったです(笑)」

―― 自身の煩悩や葛藤について教授に明かす奈緒。その奈緒にかける教授の言葉が感動的だ。

「教授の言葉が素晴らしいんです。私も奈緒を通して聞いて救われた気持ちになりました。きっとこの言葉に救われる人はほかにもたくさんいらっしゃると思います」

―― 瀬川教授を演じる渋川清彦、佐々木を演じる甲斐翔真、そして濱口監督。3人の印象も聞いた。

「実際の甲斐さんは話していて楽しい好青年なのですが、性格の悪い佐々木にはまってました(笑)。渋川さんもいつもと違う役どころで、新鮮で、とてもインテリジェンスな役が素敵でした。本読みの合間など、甲斐さんと渋川さんとは雑談はしましたけど、みんな口数が多い方ではなくて(笑)。話はしますが、積極的に喋りたい人が集まっているというわけではなかったです(笑)。でも、お互いしゃべらないで同じ空間にいても気にしないタイプの人たちの集まりだったので、私はとても気が楽でした。監督はとても人間に対しての興味が強い方。探究心が強く、人を見ていますし、話を聞いていますし、不思議に思ったりすると、それは一体どういうことなんですかという問いかけが始まります。人間が好きな方なのかなという印象です」

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―― 作品が完成してから、残りの2作品を純粋に楽しんだと語る。森が感じる本作の魅力とは。

「この作品は、数年後や年を重ねてもう一度観た時に新しい発見があると思います。私も自分が歳を重ねて違う年代のステージに行った時に、また観たいと思います。年齢が変わって経験値が上がって人生のステップを踏めていたとしたら、また違う感想が出てくるのではと思います。撮影は2年ほど前でコロナ禍の前でした。その時と比べると社会情勢も変わっていますし、自分自身も2年前とは変化しているので、完成作品を観た際、感慨深さもありました。自分の作品以外の2作品もとても面白かったです。1話と3話に関しては撮影も別ですし、キャストの方々とお会いする機会もなかったので、観客として楽しみました。自分事として捉えて、自分のことも含めて話したくなる作品だと思います。すべての作品が結末としては良いとは言えないかもしれませんが、軽やかで笑える滑稽さもあって、濱口監督の力はすごいな、と改めて思いました。登場人物達に起こった偶然は、けして最高に良い状態とは言えないけど、だからといってこの映画を観てふさぎこんだり、落ちてしまうという感じが全然なくて、どこか救われた感じだったり、前向きな気持ちにさせてくれるところが、濱口監督の優しさだと思います。出てくる人間みんな欠けている人ばっかりだけど、全てを肯定してくれているから、どの人に感情移入して、どの人に照らし合わせて共感しても、肯定感いうか救われる気持ちにさせてくれると思います。『偶然と想像』というタイトルも素晴らしいですよね。まさに、そんな瞬間がたくさんありますし、それ以外に思いつかないタイトルだと思います」

―― 役者として、監督と組んで得たこととは。

「監督のこの演出方法で全ての映画を作るというのは難しいかもしれませんが、この感覚を大事にしたいと思いました。この方法だったからこそ作られた作品だと思うし、偶然がたくさん生まれて面白い瞬間がたくさんあったので、今回の経験をこれからの仕事でも活かしたいと思います」


Writing:杉嶋未来/Styling:笹谷監子/Hair&Make-up:田村直子

<衣裳協力>
イヤリング:Perlagione/リング:ALESSANDRA DONA

インフォメーション

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(C)2021 NEOPA / fictive

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『偶然と想像』

Bunkamuraル・シネマほかにて公開中


親友が「いま気になっている」と話題にした男が、2年前に別れた元カレだったと気づく「魔法(よりもっと不確か)」。芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨みから彼を陥れようと、女子学生を彼の研究室を訪ねさせる「扉は開けたままで」。仙台で20年ぶりに再会した2人の女性が、高校時代の思い出話に花を咲かせながら、現在の置かれた環境の違いから会話が次第にすれ違っていく「もう一度」。それぞれ「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、異なる3編の物語から構成される。

▼公式サイト
https://guzen-sozo.incline.life/



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