「たくさんの人がいたのでとにかく目立った方がいいとは思ったのですが、ひねったことはせず、シンプルに今の自分を表現しようと挑みました。というのも、オーディションの少し前に1年間参加していた鐘下辰男さんのワークショップが終わり、その集大成ともいえる舞台『ルル』でたくさんのことを学び、自分自身でも成長を感じていたところだったんです。オーディションは1組40人ずつくらいに分かれてのワークショップが中心で、個人でアピールできるのは面談くらい。短い時間のなかで自己紹介をしていくのですが、それにもお題が課せられていて。私のグループは本広さんたちがいらっしゃる机まで1本のロープがある設定で、そこを進みながら自己紹介するというものでした。ロープの設定は人それぞれで、断崖絶壁にかかっているという状況を想定して進んでいく人もいました。私は、ロープと考えずに歩きにくい1本の道と考えてひたすら前を向いて歩くことにしました。本広さんとしっかり顔を合わせて話ができる唯一のチャンスがそこしかなかったので、とにかく本広さんの目を見て、これまでの舞台で経験したこと学んだことを夢中で話しました」
「2次審査の段階で121名もいて、その中で自分をアピールするのって本当に難しかった。グループで行う即興演技も、個人面談も今の自分を最大限出し切ったつもりだけれど、どこまで伝わったのか、見てもらえていたのかわかりませんでした。合格と聞いたときに運もあるのかなってちょっと思ったりもしたけれど、これまで経験してきたことがちゃんと自分の実になっていたんだなと嬉しかったですね」
「まだまだできないことのほうが多いのですが、ようやく自分のなかでやりたい芝居というものが見えてきたんです。最初は何もわからず、セリフを覚えることだけで精いっぱいだったし、監督や演出家に言われたことを一生懸命やるだけ。自分がどう演じたいかをじっくり考えることができなかったんですよね。昨年から参加していた鐘下さんのワークショップとその後の舞台で、ようやくやりたいことや今後の課題が見えてきました。具体的にどんなこと?と言われると難しいのですが、以前よりも目標が明確になってきてもっとこうしたいという欲も出てきたんです。芝居に対するモチベーションが高まっているときに『転校生』のオーディションを受けられたことはラッキーだったなと思っています。また、芝居についてもっと勉強をしたいと思ったときに手にしたのが平田さんの本だったので、巡りあわせみたいなものも感じますね。戯曲や演技論に関する本をたくさん読んで『こういうことを私もやってみたいな』と考えていたところだったので、『転校生』に出演できることは本当に嬉しくって。本は今も手元において繰り返し読んでいます」
「同世代の女の子が21人も集まることってなかなかないことなので面白いですよ。芸歴もバラバラだし、経験してきた芝居も違うので『こういう表現方法があるんだ』と日々、新しい発見ばかり。みんな経験があるといっても何十年もやってきたベテランというわけではないので、新しいことに対する柔軟性や吸収力があり、稽古を重ねるごとに変化していくのも楽しいです。きっと、本番が始まってからも変化していくんじゃないかなと今からワクワクしています。稽古をやってもやっても固まりきらない若さゆえの危うさがプラスのパワーになっていくと思います」
「ある日、転校生がやってくるという主題はありつつ、そのまわりで起きていること、会話が重要というか……。平田さんの独特の世界観があって、演じるのはとても難しいです。会話をしているシーンでは相手のことばかりを見てしまうので、本広さんからは『もっと正面を向いて』とよく注意されています。大きい舞台だとリアルさを追求しすぎると、見ている人に伝わりにくいんだなと学びました。映画やドラマを撮ってきた本広さんらしい演出も見どころのひとつ。同時多発会話って、わかりにくいところもあると思うのですが、今回は細部をスクリーンに映す手法がとられているので、何が起こっているのか理解しやすくなっています。舞台を見るのが初めてという方も楽しめると思います。詳しいストーリーはお話できないのですが、同時に起こる会話ひとつひとつに意味があるし、21人それぞれにドラマがあるので、ぜひ目をはなさず『ここが面白かった』という場面をひとつでもいいので見つけてほしいです」
「まだ自分のことで精いっぱいで、周りの人をちゃんと見れてなくて。もっとそこで起こっていることを感じながら視野を広げて芝居ができるように稽古をつんでいきたいです。舞台は生ものですから、何が起きるか当日までわからないし、お客さんによっても変わってくるのでその場を楽しみながらできたらと思っています」
Writing:岩淵美樹
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