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川端康成の名作『古都』を原作に、小説のその後にスポットを当てて新たな物語が紡がれた映画『古都』で主人公の双子の姉妹・千重子と苗子を演じた松雪泰子。現代に甦った純文学の世界の静謐さ、美しさ、そして力強さを表現した撮影の日々を振り返りながら、作品の魅力を語ってくれた。

いつも思うのは、“ちゃんと役を生きることを全うしたい”ということです

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――まずは…映画『古都』の原典である原作小説を読んだ感想は?

「情景の描写がホントに美しくて。文字で読んでいるんですけど、まるで目の前にスクリーンがあるかのように、もしくは絵画のようにそこに物語の舞台となる京都の風景が浮かんでくるんです。京都の自然の美しさは格別ですよね。そしてもちろん、そこに生きる千重子と苗子の気持ちの美しさ、純粋さがあり…なにか心を洗われるような、すべてが美しく感じられる小説でした」

――映画で描かれるのは、千重子と苗子がそれぞれに家庭を持った20年後の物語。ふたりの娘があの頃の自分たちと同じ年頃になり、同じように自分の将来に思いを馳せて…という、小説の後日譚だ。

「私が今回映画の中でしっかり持って表現しなければいけないなと思ったのは、やはり川端先生が描かれた小説の中に存在している千重子と苗子の生き方です。ふたりの美しくて無垢で純粋な部分は、大人になっても変わらず持っていることだと思うし。それが子を育む中で、苗子だったら力強さや逞しさになっていき、千重子は…もちろん強さはあるんですけど、自分が背負っているモノの重圧の中での苦悩、親の苦悩というモノにつながっていく。そういう時間の積み重ねをきちんと表現したいなって思ってました」

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――京都で代々続く呉服店を切り盛りし、いずれはそのすべてを娘へ…と考えている千重子。多くは語らないけれど、日々の暮らしの中で伝統を引き継ぐ奥ゆかしさと覚悟を感じさせる女性。

「千重子は室町の言葉を使ってのお芝居だったんですけど、京都弁ってちょっとしたニュアンスで非常にこう…含みを持ってしまう言葉ですから、そのアプローチってすごく難しくって。千重子のような無垢な人物が喋る京言葉はどういう表現にすればいいのか、方言指導の先生ともすごく話し合いました。奥ゆかしいからと言ってやさしく言い過ぎると、逆にそれが嫌みになってしまったり、相手を攻撃するニュアンスにもなりかねなくて。そういう意味では京言葉は本心はあくまでも出さず、あくまでもやわらかく表現することで相手を受け入れたり拒絶したりということが自在にできる方言だったので…そこがやっぱりすごいなって思いました。千重子の気持ち、この局面の感情はどのニュアンスで伝えればどう含みなくダイレクトに伝えることができるのかということに、苦心しましたね」

――一方の苗子は、北山杉の里で林業に勤しむ大らかさが印象的で。

「苗子が使っているのは北山弁と言いまして、京言葉でも山のほうの言葉なんです。室町のほうとは言い回しも全然違いますから、両方の言葉を学んでいく過程で自然とそれぞれの人物像というのがつかまえられていった気がします」

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――自然なカタチで形成されていった二役の演じ分け。それぞれの生き様は、鮮明にスクリーンに刻み込まれている。

「千重子は非常に穏やかで、芯のある静かなやさしさを持っています。でもやはり背負っている家のことはとても大きくて、それをどう娘に託していけばいいのかという苦悩は常にあったので、必然的に“静かに耐えていく”という時間が長かったですね。それと、実際に室町で呉服屋さんをされている方の町家をお借りして撮影しましたので、なにかこう…その空間にいるだけでも代々受け継いできた人たちの思いや伝統の重み、京都で生きることを大事にされている思いが伝わってくるようでした。本当の“気持ち”が現場にもたくさんあったんです。
苗子は山の中で北山杉を磨く作業をしているお母さんたちとの撮影で、みなさんホントに明るくておしゃべりで働き者で。杉を磨く手も肉厚で力強いですし、太陽をたくさん浴びて、土をたくさん触って…ホントに杉を大切にして生きている人たちの生命力があふれていました。苗子も大らかで太陽のように力強い包容力を大事に出していければと思いながら演じました」

――本作はハリウッドで研鑽を積んできたYuki Saito監督の日本での商業長編作品第一弾。監督からは初めに出演を依頼する熱烈な手紙が届いたそうだが…。

「アメリカからお戻りになって、これからどうやって日本で監督としてやっていこうかと考えているときに、ある映画で私が演じた姿を観たそうなんです。で、“日本でもこういう作品が創れるのであれば、自分ももっと頑張りたい”って、“松雪さんの姿を見て思った”と書いてらして。それはホントに素直に嬉しく思いました。ですので…私もそんな監督の未来に賛同し、そして一緒になにか生み出せたら素敵だなと思い、出演を決めました」

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――現場はとてもアクティブで、意見交換も活発だったそう。

「監督はすごくオープンで素直な方。そしてポジティブで…作品を創る上ではすごく困難なこともいろいろあったんですけど、そのたびにそれをネガティブに捉えるんじゃなくて、チャンスだとポジティブに進んで行く力強さがあったので、みんなも自然と監督を支えたいって気持ちになれました。ディスカッションもたくさんしましたね。私は特に母親の視点、女性的な視点というところでアイデアを出させてもらったんですけど、そういうところはやはり女性スタッフとは大いに共感できて(笑)。監督は男性ですから“なるほどね”って。やっぱり性が違うと感じ方も全然違って、そこの違いはすごく面白かったですよ。そのあたりは監督もいろいろ考えてらしたようで、編集もあえて女性にお願いしたんだそうです。ある程度の視点は彼女に委ねたい、ということもおっしゃってましたね。とにかく監督自身学びたいと言う姿勢がおありなので、なにかあったらみんなでシェアしてダイレクトに意見を交わしていく、という撮影スタイル。すごくオープンな現場でした」

――タイトな撮影スケジュールの中、決して妥協することなく細部にまでこだわり撮りあげた映画『古都』。その完成は、挑戦的且つ伝統的な“新たな日本映画”の誕生と言えるだろう。

「心理学を勉強したこともあるんですけど、私は役を…人間を分析していくのがすごく楽しいんです。人間って、こうあるべきだとか、それはありえないとかって一切なくて、可能性は自由。まぁ、実際に生きているとままならないことも多いですが、物語の中ではそういうモノを一切飛び越えて、その人物を自由に表現できますからね。どんな時間軸を通って人格が形成されたのか、なぜこの言葉を発し、この行動を取るのか。──すべてをゼロから考えていくお芝居って、この仕事って面白いなぁと思います。そしていつも思うのは、ちゃんと役を生きることを全うしたい、ということ。作品を観てくださる方の中になにかひとつでも残るモノがあって欲しい、なにか響くモノがあったらいいな、と思いながら作品づくりに取り組んでいます」


Writing:横澤由香/Photo:小林修士(kind inc.)

インフォメーション

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MOVIE

『古都』

11月26日(土)より京都先行公開中!12月3日(土)全国公開


“日本の美と精神”を表現することに生涯をかけ、日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した川端康成の傑作『古都』の新たな映画化。
舞台は京都とパリ。時は生き別れになった双子の姉妹、千重子と苗子が最後に会って別れてから20数年後。それぞれに娘が生まれ、すっかり大人の女性になった二人は、新たな葛藤を抱えていた。千重子は代々続く呉服店を娘の舞に継がせるつもりだったが、舞から思わぬ抵抗を受ける。北山杉で林業を営む苗子は絵画を志す娘の結衣を快くパリに送り出したが、結衣が自分の才能に疑問を持ち始めていることに気付く。娘と同じ年の頃、千重子も苗子も人生の岐路に立ち、迷っていた。あの時の自分が下した決断に想いを馳せながら、二人は娘の未来のために何をしてやれるのかを問いかける─。

▼公式サイト
http://koto-movie.jp/

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