「情景の描写がホントに美しくて。文字で読んでいるんですけど、まるで目の前にスクリーンがあるかのように、もしくは絵画のようにそこに物語の舞台となる京都の風景が浮かんでくるんです。京都の自然の美しさは格別ですよね。そしてもちろん、そこに生きる千重子と苗子の気持ちの美しさ、純粋さがあり…なにか心を洗われるような、すべてが美しく感じられる小説でした」
「私が今回映画の中でしっかり持って表現しなければいけないなと思ったのは、やはり川端先生が描かれた小説の中に存在している千重子と苗子の生き方です。ふたりの美しくて無垢で純粋な部分は、大人になっても変わらず持っていることだと思うし。それが子を育む中で、苗子だったら力強さや逞しさになっていき、千重子は…もちろん強さはあるんですけど、自分が背負っているモノの重圧の中での苦悩、親の苦悩というモノにつながっていく。そういう時間の積み重ねをきちんと表現したいなって思ってました」
「千重子は室町の言葉を使ってのお芝居だったんですけど、京都弁ってちょっとしたニュアンスで非常にこう…含みを持ってしまう言葉ですから、そのアプローチってすごく難しくって。千重子のような無垢な人物が喋る京言葉はどういう表現にすればいいのか、方言指導の先生ともすごく話し合いました。奥ゆかしいからと言ってやさしく言い過ぎると、逆にそれが嫌みになってしまったり、相手を攻撃するニュアンスにもなりかねなくて。そういう意味では京言葉は本心はあくまでも出さず、あくまでもやわらかく表現することで相手を受け入れたり拒絶したりということが自在にできる方言だったので…そこがやっぱりすごいなって思いました。千重子の気持ち、この局面の感情はどのニュアンスで伝えればどう含みなくダイレクトに伝えることができるのかということに、苦心しましたね」
「苗子が使っているのは北山弁と言いまして、京言葉でも山のほうの言葉なんです。室町のほうとは言い回しも全然違いますから、両方の言葉を学んでいく過程で自然とそれぞれの人物像というのがつかまえられていった気がします」
「千重子は非常に穏やかで、芯のある静かなやさしさを持っています。でもやはり背負っている家のことはとても大きくて、それをどう娘に託していけばいいのかという苦悩は常にあったので、必然的に“静かに耐えていく”という時間が長かったですね。それと、実際に室町で呉服屋さんをされている方の町家をお借りして撮影しましたので、なにかこう…その空間にいるだけでも代々受け継いできた人たちの思いや伝統の重み、京都で生きることを大事にされている思いが伝わってくるようでした。本当の“気持ち”が現場にもたくさんあったんです。
苗子は山の中で北山杉を磨く作業をしているお母さんたちとの撮影で、みなさんホントに明るくておしゃべりで働き者で。杉を磨く手も肉厚で力強いですし、太陽をたくさん浴びて、土をたくさん触って…ホントに杉を大切にして生きている人たちの生命力があふれていました。苗子も大らかで太陽のように力強い包容力を大事に出していければと思いながら演じました」
「アメリカからお戻りになって、これからどうやって日本で監督としてやっていこうかと考えているときに、ある映画で私が演じた姿を観たそうなんです。で、“日本でもこういう作品が創れるのであれば、自分ももっと頑張りたい”って、“松雪さんの姿を見て思った”と書いてらして。それはホントに素直に嬉しく思いました。ですので…私もそんな監督の未来に賛同し、そして一緒になにか生み出せたら素敵だなと思い、出演を決めました」
「監督はすごくオープンで素直な方。そしてポジティブで…作品を創る上ではすごく困難なこともいろいろあったんですけど、そのたびにそれをネガティブに捉えるんじゃなくて、チャンスだとポジティブに進んで行く力強さがあったので、みんなも自然と監督を支えたいって気持ちになれました。ディスカッションもたくさんしましたね。私は特に母親の視点、女性的な視点というところでアイデアを出させてもらったんですけど、そういうところはやはり女性スタッフとは大いに共感できて(笑)。監督は男性ですから“なるほどね”って。やっぱり性が違うと感じ方も全然違って、そこの違いはすごく面白かったですよ。そのあたりは監督もいろいろ考えてらしたようで、編集もあえて女性にお願いしたんだそうです。ある程度の視点は彼女に委ねたい、ということもおっしゃってましたね。とにかく監督自身学びたいと言う姿勢がおありなので、なにかあったらみんなでシェアしてダイレクトに意見を交わしていく、という撮影スタイル。すごくオープンな現場でした」
「心理学を勉強したこともあるんですけど、私は役を…人間を分析していくのがすごく楽しいんです。人間って、こうあるべきだとか、それはありえないとかって一切なくて、可能性は自由。まぁ、実際に生きているとままならないことも多いですが、物語の中ではそういうモノを一切飛び越えて、その人物を自由に表現できますからね。どんな時間軸を通って人格が形成されたのか、なぜこの言葉を発し、この行動を取るのか。──すべてをゼロから考えていくお芝居って、この仕事って面白いなぁと思います。そしていつも思うのは、ちゃんと役を生きることを全うしたい、ということ。作品を観てくださる方の中になにかひとつでも残るモノがあって欲しい、なにか響くモノがあったらいいな、と思いながら作品づくりに取り組んでいます」
Writing:横澤由香/Photo:小林修士(kind inc.)
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11月26日(土)より京都先行公開中!12月3日(土)全国公開
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