「ちょうど先日オリエンテーションがあって、舞台上のセットを見学させていただきました。去年の夏に行われた来日公演版を客席から観てはいたんですが、台本を読んだ上でセットに触れたり登ったりすると目線も変わるし、『ここでこうするのか!』とか『うわ、結構高いな!』みたいな感じで、いちいち興奮しちゃって(笑)、純粋に『早くこの舞台に立ちたい!』っていう気持ちがめちゃくちゃ高まりました」
「いま上演中(取材時)の「シーズン1」は、僕はあえて観ていません。最初に虹郎くんと一緒に稽古をするって聞いたときは、正直不安な部分もありました。でも今は“虹郎トニー”を『あぁ、いい役者だな』って、純粋に見られている気がします。確かに同じ役ではあるんですが、演出家の方々がそれぞれの役者に合った“トニー像”を作ろうとしてくださっているのが伝わってきて、ものすごくありがたい。僕が“森崎ウィン”として生きる上でも日々発見があるように、“トニー”として生きる時も、千秋楽まですべて違うステージになるんじゃないかと思っています」
「歴史の勉強もしつつ『ウエスト・サイド・ストーリー』の世界に触れていくと、60年以上再演され続けている理由が、徐々にわかってきたような感じがします。『彼らは社会と戦っていたんだろうか』とか『これを今、僕がやってちゃんと伝わるんだろうか』って悩んだりもするんですが、やるからにはちゃんと“トニー”として全うしたい。舞台を観に来てくださった人たちが、日常に戻った後も何気なくセリフの一篇が頭に浮かぶくらいの余韻を残せたらいいなと思っているんですよね」
「本番では1950年代に作られた曲をオーケストラの生演奏で歌うんですが、『時代を超えて愛され続ける名曲って、こういうもののことを言うんだな』って、日々レッスンしながら感じています。きっと現代風にガチガチにアレンジしても超カッコよくなりそうな名曲の数々を、心の底から『僕、これ好き!』『いい曲!!』って思いながら歌えるのって、本当に幸せなことですよね。言葉にできない感情が溢れてきて、胸がキューンってなるようなメロディばかりです」
「稽古を始める前は『Tonight』に惹かれていたんですが、いまは『One Hand,One Heart』が『Tonight』を超えました! この曲は本当にやばいです。本番中にも『はぁ~、これ好き!』って言っちゃうかもしれない(笑)。今はまだストーリーを背負わずに、純粋に楽曲と向き合いながら歌っている段階なんですが、これから物語の中でどう表現するかを追求していく時に、さらに曲が進化する過程が味わえるかと思うと、今からワクワクします」
「生演奏をバックに演じるのは絶対めちゃくちゃ楽しいと思います。映画やドラマを撮影する時って、音楽は編集で後付けされるもの。でも僕の場合、普段音楽をやっているからだと思うんですが、もし撮影現場でも実際に曲が流れていたら、100パーセント芝居が変わる気がするんですよね。今はまだ脳みそを使った稽古が多いんですけど、僕は身体で覚えるタイプなので、振り付けの練習も早くやりたくてウズウズしてます(笑)。ミュージカルは音楽が導いてくれることもあると思うから、曲に身を任せて乗っかっていきたいです」
「僕が“森崎ウィン”の曲を歌えば確実に盛り上げることは出来るんですが、でも今回の舞台でいくらそれをそのままやっても、決して“トニー”にはならないんですよね。もしも僕が“ウィン”のまま歌ってしまったら、この世界観が壊れてしまうから。だから今回僕は、これまでの自分を超えて、新しい“森崎ウィン”を見つけたいっていう思いもあります。まさに今、エンターテイナーとしての壁を越える時が訪れているような気がしていて。これまで通りにやって『いいね!』って褒めてもらっても、もうそれだけじゃ満足できなくなってきている自分がいる。もちろん良いものにできるように最大限の努力はしますが、最近映画『キャッツ』の日本語吹替えもやらせていただいて、『うわ、ここまでしないと声が乗らないんだ!』っていうのもわかったし、自分の表現の幅が広がっているのが実感できている。だから極端な言い方をすれば、『全然ダメだったね』っていう評価でも、今は構わないと思っています」
「絶対、糧にしてみせます!僕が今回のオーディションを受けたのも、今後も世界でチャレンジしていきたいという強い思いがあったから。ボーカリストとして活動していく上でも、歴史あるミュージカルに触れることで得られるものが沢山あるし、今までの僕の知識だけでは太刀打ちできないことばかり。こうなったら、盗めるものはとことん盗んでやろうと思っているんです(笑)。ほとんど楽譜を読めなかった僕が、『あ、ここはクレッシェンドなんですね』とか『ピアニッシモっていうことは、トニーはこういう気持ちなのかな』って自然と譜面が読めるようになってきていることに気付いて、自分でも驚いてます(笑)」
「自分でも面白いなって思うんですけど、なぜか『主役だから目立ってやろう!』とか『みんなを引っ張っていこう!』みたいな気持ちには全くならなくて、僕の頭にあるのは『どれだけ皆で一緒に楽しめるか』っていうことだけ。今の自分ができることには限りがあるし、いきなりそれを超えようとしたら多分空回りすると思うんですよね。これまでは分からないことがあっても、簡単に周りに聞いちゃいけないような気がしていたんですが、今は見栄を張らず、背伸びもせず、分からないことは『分からない』って素直にさらけ出しつつも、一応オーディションには受かったわけですから(笑)、必要以上に卑屈にもならず、そこは周りを信じて前に進んで行こうと思っています」
「エンターテインメントの最高峰と言われる作品を、360回転する劇場で観るっていうところからして、この舞台の魅力が既に始まっていると思います。もちろん、舞台装置や美術に負けないだけの表現力を求められるという意味ではプレッシャーも半端なくありますが、これだけ素晴らしい舞台に立てるんだから、それもひっくるめて全部楽しむしかない。本番で僕がトニーを演じている姿を観た人たちに『あいつ、すっげぇ楽しそうだね!』って言われるのがすでに目に浮かぶんですが(笑)、でも舞台上で誰かの人生を演じるっていうことは、絶対にこんなに楽しいだけじゃないはずなんです。それがわかっているからこそ『(試練が)来るなら、早く来てくれ!』って思っているところがあります。そもそも僕らの仕事って、追い込まれてなんぼじゃないですか? でもそれを超えられた瞬間『すっげー気持ちいい!』って思うんです。だから今はトニーとして早く追い込まれたい。その方がもっと本番を楽しめるんじゃないかって思っています」
「もともと『ウエスト・サイド・ストーリー』のファンの方々はもちろん、普段ミュージカルをあまり観たことがないという人たちも、『ウィン君が出てるから観に行こう!』って、劇場に足を運んでくれたら嬉しいです。そこで『わぁ、これいい曲!』とか『もう一回観たい!』って感じたときに、『あぁ、あの曲にはこういう意味が込められてたんだ!』とか『あれ? 前回はトニーばっかり見てたけど、なぜベルナルドはあんなにキレてるんだろう?』とか、『ドクの店って、薬屋さんなのになんで灰皿が置いてあるの?』って、少しずつ興味の幅が広がって、それを機に『せっかくだから勉強してみよう』って思っていただけたらいいですよね。バスキアが描いた絵みたいに、観た後にみんなであれこれ言えるような作品でもあり、ディズニーの世界みたいに“ドーン”“パーン”“キラキラキラ~”っていう瞬間も沢山ある。老若男女、人種、趣味嗜好問わず楽しめる作品でありながらも、時代背景や当時の文化を多少知ってから観ると、さらに理解が深まるんじゃないかな。というのも、まさに今の僕自身がそうだから。高度経済成長期だった頃のアメリカの裏側を知って『ミャンマーでも、今まさに同じようなことが起きてたりするよね』って、自分の身近な問題と置き換えて考えてみたりすることで、次の日の朝のニュースの聞こえ方が違ってきたり、自分の日常の中でこれまで見えなかったものが見えてきたりすることもあると思うんです。舞台から感じるパワーって、役者の力だけじゃなく、衣装やセット、美術1つ1つからも溢れているんだなっていうことが実感できるし、もう本当に、何もかもすべてが桁外れに素晴らしい。本番ではバッキバキに輝いていると思うので(笑)、ぜひ公演を楽しみにしていてください!」
Writing:渡邊玲子
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