「オーディションの条件は、僕が知る限り“英語が出来る20代前半の男性”。日本での書類審査を経て、向こうへ送るオーディション用の動画を撮ったのが最初のトライですね。英語の台詞が用意されていてそれを撮ってもらうんですけど、ほぼぶっつけ。担当の方が自分の気が済むまでやっていいとおっしゃってくださったので、2度だけやらせてもらいました。それから少し経ってムービーが通過したので監督と面接をという連絡をもらい、いよいよ向こうのオフィスに行ったんですが…部屋に通されるとそこに本物のスティーブンが! そこではソファに腰掛けてラフな感じで自分についていくつかの質問を受けたり、用意された台詞を演じたり。それをスティーブンが自ら撮るんですよ。普通のホームビデオみたいな小さなカメラで。あとびっくりしたのは、“さっきの台詞を日本語でやってみて”と突然振られたこと。もちろんやりましたけど、たぶん…全然間違ってたと思うなぁ(笑)。とにかくこんなようなことだろうなっていうのをなんとかフィーリングで日本語に直して。でもたぶんそれは訳があってるかどうかのチェックではなく、自分が日本語を話している空気とか、咄嗟の対応なんかを見たかったのかなって、あとで思いました」
「マネージャーさんにたずねても全然返事がなく。“とりあえずやっておいてね”と言われ、病院でのメディカルチェックや殺陣のレッスンなどは行ってたんですが、具体的な目標が見えないままやっていたのですごく変な気持ちでした。あ、ロケ地に行くためのビザも申請したんですよ。僕が受けたのは主人公・ウェイドの友人、ダイトウ役でしたが、マネージャーさんには“ダメだったとしてもなにか他の役で出られるようにお願いするから”と言われて、なにそれって。でもあとで聞いたらそれはごまかしで、実はスタッフさんたちはもうオーディションで僕に決まったって連絡をもらっていたけど、契約上のいろんなルールで本人に伝えて良い時期まで言えずにいたそうなんです。もちろんこっちはそんなこと知らないので“きっとダメなんだろうなぁ。もし他の役で出られてもあの役を別の誰かがやるところを現場で見るのは悔しいなぁ”なんて思っていたら、まさかの“合格”。最初はまったくわけがわからず…嬉しいというよりも気が抜けましたね。結果を待っていたあの悶々とした日々は、今思い出してもキツいです(笑)」
「現場のシステムもなにもかもが日本とは全く違うし、言葉も通じない。通訳の方を用意していただいたんですが、それもリハーサル中だけで、本番はすべて自分でやりとりしていました。ハリウッドで仕事がしたいという夢の一歩を踏み出したのに、最初は本当に辛かったです。ホームシックにもなったし、ストレスを発散するために部屋でひとり大声を出したことも‥。でも、あるとき気づいたんです。自分はこの現場では一番経験もないし、わからないのは当たり前だって。できないのにできるような顔をしたり、知ったかぶりして裏で悩むんじゃなく、知らないことは素直に知らないと言う、意見があったら自分の言葉で伝えていこうと。そういう気持ちになれたら不思議と辛さはなくなりました。英語でのコミュニケーションもだんだんスムーズにできるようになって、それも自信につながったし。できることを精一杯やることが楽しかったです」
「アバターのほうはモーションキャプチャできるスーツを着て、合成用のなにもないスタジオで撮るんです。例えば目の前にある棒に目印となるポイントがついていて“そこがドアですから”とかって感じで。なので、自分でどんなドアなのかなって想像しながらお芝居していました。一方、現実世界のほうでは町を借り切って撮ったりもしたんですが…道ばたに落ちている紙くずひとつも映画用に用意した小道具だったりと、準備の段階からスケールがすごいんです。とにかくすべてにおいて“これがハリウッド映画なんだな”と実感させられることばかりでした」
「アバターのほうなんですが、侍を意識して欲しいというのは何度となく言われましたし、そこのニュアンスにはとてもこだわっていたように思います。ちょっと大人を意識して低い声で少しゆっくりと喋ったり、アクションもSFの派手な動きというよりはもっと日本的な、時代劇寄りの本格的な剣さばきが求められました。そういうところは日本で暮らしているからこそわかる感覚も多く、今まで自分が経験したこと、準備してきたことがしっかり生かせたと思います」
「監督自身すごく思い入れのあるキャラクターなんだなというのは撮影中にも強く感じられました。その思いに応えるお芝居ができていたなら嬉しいです。実は僕自身まだ完成した映画を観ていなくて、明日やっと観れるんですけど…どれくらい出てるのかな? 大丈夫、ちゃんと活躍できているはずです(笑)」
「それは自覚があります。撮影中は飛行機は基本ビジネスやファースト、個別に楽屋トレーラーや移動用の専用車もありましたし、休憩では常にホットミールが用意され、稼働時間や休日もしっかり決まっている。なにより、スティーブンはじめあらゆるセクションのスタッフは超一流のプロフェッショナル。そんな場所にいると、逆に自分がなんてちっぽけなんだろうって、それこそ現実が見えてくるんです。ここにいるのは奇跡、ビギナーズラックなんだぞって。あんなに自分のことを見つめ直す時間を持ったのも初めてだったなぁ。主役のタイは自分にコーヒーを持って来てくれるスタッフに“thank you”と声をかけながらドアを押さえてあげたり、自分からどんどん周りに話しかけて空気づくりをしたりと、誰よりも謙虚でやさしくて紳士で、少しもスターぶる様子はなかった。それに感動したんです。スクリーンの中でドンと真ん中に立つ人は、人間としても器が大きいんだなって。スティーブンもとても温かい人で、俳優ひとりひとりのことを細かく観て声をかけてくれていた。映画はひとりじゃできない、関わってくれるすべての人に感謝しなくちゃってめちゃめちゃ思いました。それはもちろん日本に帰って来ても同じです。感謝の気持ち、改めて大事にしています」
「『レディ・プレイヤー1』は本当に楽しい映画です。映画と言うか…観ている間、自分もこのバーチャル世界に飛び込んで一緒に冒険している気分になれるアトラクションのような作品。80’Sカルチャーもたくさん盛り込まれているので、大人は懐かしく若者は新鮮。ぜひ家族で観て、面白かったポイントを大いに語り合って欲しいです。最初の挑戦が世代を超えて観ていただけるこの映画でホントに良かったです。次はぜひ、ストレートな現代劇を──決して派手ではないけれど観る人の心をつかむ、そんなドラマをやってみたいです。なんかね、帰って来て、いつもの自分の生活に戻って、向こうの世界しか知らない人よりも、全然違うふたつの社会を知っている自分だからわかること、表現できること、感じられることもあるぞ、“ああ、これが僕の強みだな”って思ったんです。そんな自分を最大限に生かした仕事を達成して、ハリウッドのレッドカーペットを歩きたい。その気持ちは日に日に強く、確かなモノとして僕の中に芽生えています」
Writing:横澤由香
MOVIE
4月20日(金)GW全国ロードショー
pagetop
page top