「坂下監督とは以前からぜひご一緒してみたいと思っていたので、オファーをいただけて嬉しかったですし、宮沢りえさんと初めて共演させていただけるということもあり、作品への熱量がますます上がりました。いざ台本を読んだら皮肉と毒がふんだんに散りばめられているにも関わらず、政治家秘書役である僕たちとしてはその振る舞いが皮肉や毒であるとは一切思わず演じるというのも面白い。監督が5年の歳月をかけて構成を練られた企画というだけあって、脚本段階ですでに世界観が完成していたところもあったので、むしろ僕たちは台本通り、その世界をそのまま素直に体現すればいいといった感じがありました」
「普通ならどうしたって候補者が軸になりますよね(笑)。でもそこをあえて僕たちのような政治家秘書や後援会の面々といった、候補者を支える側の視点で切り取っているのが新しいし、政治の世界で活躍する縁の下の力持ちの苦労や大変さが、台本からも感じられました。僕自身、最初は有美さんの“爆弾”に振り回される立場ではあるのですが、途中からその竜巻の中に一緒に入っていくので、両方の視点からその世界を見ることができました。物語の後半では、有美さんと結託してなんとかして選挙に落選しようと悪戦苦闘するんですが、落ちようとすればするほどなぜか周りからは評価されてしまうという(笑)。現実にもこういう皮肉なことって結構あったりするよなって、思ったりしました」
「でも、歪んだ世界って現実にも沢山あるじゃないですか(笑)。門構えをすごく綺麗に見せてはいても、どんな業界にも大なり小なり“裏”とか“闇”みたいなものはあるだろうし、この映画の舞台となる政治の世界においては、なおさらそういった風潮が強いんだろうなという予想もあったので。皮肉めいた部分も含めて、リアリティーをもって一つの映画を作れたという意味では、“ちょっと違う視点で捉えた政治を知るための教材”になったらいいなと思いました。僕も政治のことは詳しく知らないんですけど(笑)。そんな印象を受けました」
「イメージとしては、やっぱりマネージャーですよね(笑)。僕自身としては普段、有美の側の立ち位置の仕事ではありますけど、付き人やマネージャーの立場からこの世界を見るとなったら、きっと見え方が全然違ってくると思うので……。たとえば、撮影現場でものすごく機敏に動いて、何かあればお水をササーッと出して、『カイロ大丈夫ですか?』って気遣ったり、プロデューサーさんが来たら、すぐにタレントを引き合わせて紹介したりするマネージャーさんって、結構いらっしゃるんです。そういう部分は、“デキる政治家秘書”のイメージとどこか重なるところがあるんじゃないかなと思って、普段から観察していました(笑)」
「僕自身は政治家秘書や付き人の仕事には向いていないと思いますけど(笑)、助監督さんの仕事はぜひ一度やってみたいと思っているんです。大声で指示を出して、ものすごい速さで片づけたりとか、結構手際よく動ける自信があります(笑)。現場の活気は助監督さんの声で決まるところがあるんです」
「後援会や県議会議員の役を演じられた文学座の俳優さんたちのエネルギーが、とにかく凄まじかったです(笑)。監督の『よーい、スタート!』の声が掛かった瞬間、一気にトップギアになるんです。『どうすんだよ、これ!』とか、皆さんがめちゃくちゃ怒っている姿を横目に見ながら、秘書チームはみんな笑いをこらえるのに必死でした。『あぁ、板挟みになるってこういう気持ちなんだなぁ……』って、つくづく思い知らされましたから(笑)」
「クランクアップの日、監督の『カット!』の声が掛かった後にりえさんが感極まって泣いていらしたんですが、その涙がすごく印象的で……。本当にご一緒にできてよかったなと思います。りえさんって、エネルギー値がものすごく高い方なんですよ。大先輩ですけど、可愛らしくて、周りの人のことをすごく大切にされるし、『きっとこれまでいろいろな経験をされてきた方なんだろうなぁ……』って、実際に現場で対峙したからこそ感じられた部分もありました。有美役が宮沢りえさんじゃなかったら、あんなふうに僕は谷村の表情を作れなかったんじゃないかなと思います」
「政治家の方には政治家の方なりの苦労があるということも、今回の役をやってみて少し分かりました。でも何事も捉え方次第で変わるというか、結局のところ、たとえどんな状況に置かれたとしても、自分自身がそこで何を選択するか次第だと思います。人間って、口ではいくらでも、どんなことでも言えるけど、実際にやっている行動こそが、その人の本質を表しているものだと僕は思うから。現状はすべて自らが作り出したものだと分かれば、誰かのせいにすることもない。とはいえ、何ごともやってみないと、それが自分に合っているのか、合っていないのかなんて分からないから、先入観にしばられることなく、何でも一度はトライしてみた方がいいんだろうなとは思うようになりました。もともと僕は男兄弟だったこともあって、子どもの頃から女性と話す機会が極端に少なかったんです。でもこの現場は、女性スタッフさんと接する機会が意外と多くて、知らないうちに女性と話すことが普通になっていて……。自分では苦手だなと思っていることであっても、意外と自分が勝手に作り出した幻想というか、思い込んでいるだけだったりもするんですよね」
「自分でも変化したと感じるのは、ここ2年くらいですかね。やっぱり結婚で変わりました。それこそ20代のころまでは『自分には役者しかない!』と、自分を追い込むことでしか出せないものがあるんじゃないかと無意識に思っていたところもあったんですが、視界が広がりました。自分でも企画を立てたりできたら楽しいだろうなとも思うし、ボクシングももっとやりたいし。ゆくゆくは『サウナ小屋を作りたい!』という密かな野望もあったりするんです(笑)。とはいえ、たとえ役者以外のことをやっていても、経験したことすべてが芝居につながるのが役者の仕事の特権だと思っているところはあります」
Writing:渡邊玲子/(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
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1月7日(金)公開
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