「気持ち的な部分では、これまでと変わりません。NHKの朝ドラや大河ドラマをよく観ている家族や親戚が、主役が決まったときにすごくよろこんでくれて。その様子を見て、プレッシャーもありつつ、みんなをよろこばせたい気持ちになりました。僕自身、この作品の顔は(妻・音役の二階堂)ふみちゃんだと思っています。彼女が一番輝ける瞬間を、みんなで作ることができたらいいなという思いで撮影しています」
「基本的には月曜から金曜までNHKのスタジオに通って撮影をして、たまにロケに行って、土日は休みというスケジュールです。会社員のような気持ちで過ごしています。リズムが決まっているのはすごく楽ですね。同じ場所での撮影でも、時代背景も違うのでタイムスリップした感覚も味わえるし、セットの中でも新しい出会いがあるので、新鮮な気持ちで過ごしています。なかなか経験できることではないので、自分の中で大きなものになる気はしています」
「僕が主役をやる作品だからと、スケジュールを空けてくださいました。今の僕があるのは唐沢さんのおかげ、という部分がたくさんあります。現場での立ち振る舞い、周囲の方へのケアなどいろいろと教えていただきました。役者が楽しんでいれば、それがスタッフさんそして現場全体に伝染していく。それを背中で見せてもらっているありがたい存在です。唐沢さんに甘えています(笑)。大御所なのにフランクに接することができる人柄は、本当に素敵だなと。前回の共演では義父だったのですが、今回やっと本当の父になって。新しい境地になった気がしています」
「臨機応変で人を立てるのがうまい女優さんという感じがします。現場で考えて感覚でできる瞬発力を持っている方ですね。(モデルの金子さんは)古関さんのためにレコード会社と契約交渉してしまうようなすごい奥さん。いつの時代でもそういう強い女性はいるんだなって。彼女の精神の強さや、自分に嘘がつけない性格を、ふみちゃんが説得力を持って演じてくれる。それを隣で見させてもらっています」
「モデルとなった古関さんは、敵が誰もいない。古関さんを悪くいう人がいないんですよね。それがすべてだと、役作りにおいて肝にしています。媚を売るまではいかなくても、空気を読んで誰かに好かれるために嘘をつく瞬間って誰にでもあるもの。でも古関さんはそれをしないんです。もし人を憎む瞬間があったとしても、あとで必ず憎しみが愛情に変わる人だと裕一を演じる中で感じています。最初は煙たがられても、最終的に音楽の力や古関さんの人格で、印象を変える、好きに変えてしまう。そういうところを大事にしたいと思っています。しかし、5,000曲も書くなんて一体どういう頭脳をしているのか、天才の一言です。音楽に向き合って作曲している間は無になって挑戦している、そういう演技も意識しています」
「クランクイン前に1カ月くらいハーモニカ、指揮、オルガン、譜面の書き方など、それぞれ担当の先生が指導してくださいました。クランクイン後も空き時間ができたら、ハーモニカの先生のところに行って練習していましたね。生音を使うシーンは特に緊張しました。音がハズレて音楽としては成立していない。でも、気持ちを表すという意味で成立しているのでOKになったシーンがあって。ハーモニカは、そのときの心情によっても音が違ってくるのでとてもおもしろいです。個人的には指揮が好きですね。今後は楽器の演奏よりも作曲がメインになるので、表情で表現できるのは役者としてはありがたいです。演奏家はみなさんプロの方なので、(指揮棒を)振ったら合わせてくれる気持ち良さがありますから(笑)」
「いいなって思います。裕一と音の文通は、ラブレターにハートマークがついていたり、封筒の縁を赤く塗って音符を書いていたり、ハートの上に音符がさしてあったりとかすごくかわいらしくて。ちょっと照れくさくもなりましたが、すごくイチャイチャしているんですよね。出会うべくして出会った二人なんだと、微笑ましくなります」
「同じ音楽でも作曲家と声楽家という違うジャンルに携わっていて、お互いにないものを補い合っているのは理想ですよね。作曲をしているときに音に歌ってもらうことで、ヒントを得たりとか。同業者の夫婦だと理解し合えることもあるし、話せることもたくさんある。そういうところは強みだと思います。音のキビキビしている部分も好きです。自分のやりたいことに明確に導いてくれる奥さんは、迷った時にこの人がいてくれるだけでと思えるので心強いです。音は例えばお披露目のときは、一歩うしろに下がっている。背中から支えてくれたり、前に出るとき、後ろにいるときといろいろあるけれど、基本的には横で手をつなぎ合っているところが素敵だなと。よく喧嘩をする夫婦なのですが、あまりふみちゃんを怒らせちゃいけないなって思っています。怒ったふみちゃんはとても怖くて、突き放し方が半端じゃないんです。ついさっきまでラブラブだったのにと、すごくショックを受けたので、平和が一番という気持ちでいます(笑)」
「これまでいろいろな方言をやってきましたが、歴代一位、すでに指導がいらないと感じています。指導の先生にも、もう大丈夫と褒めていただいて。すごく愛嬌のある方言だと思います。聞いているだけでほっこりする、愛くるしいという印象があります。古山家の中でも、僕、唐沢さん、(母・まさ役の)菊池桃子さんが話す福島弁には違いがあって、音楽を聞いている感覚にもなります」
「僕の中で、エールは愛情だと思っています。それがメロディにのっていろいろな人に届いている。古関さんの音楽が語り継がれてきたことも、すべてその証明なのかなと思っています」
「エールは自分を鼓舞する力にもなるし、誰かの頑張る力にもなります。それぞれの登場人物が話す言葉が浸透していく感覚は、音楽に通じるところがあると思います。いろいろなことが起きるお話ですが、重たいストーリーではないのでリラックスして観てください」
Writing:タナカシノブ/Photo:笹森健一
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