「楽曲が出来上がって、レコーディングも佳境に入った段階で『Storyteller』というタイトルに決めました。今回、言葉が先にあってそこにメロディをつけるという形で制作して、語り手としての自分、歌い手としての自分を見せたいという気持ちが、他のアルバムよりは強かったと思うんですよ。「ストーリーテラー」という言葉がもともと好きだったこともあるし、まさにこのアルバムを表す言葉だなって」
「役者さんはきっとこういう喜びを感じているんじゃないかなって勝手に思いました。台本をもらって、肉付けして、キャラ付けして……という、面白さを感じたんですよね。たとえば自分が詞を書いて曲を書くとなると、書く瞬間からそのキャラクターは決まっている。今回は曲を付ける前に「この主人公はこういう性格で、こういう見た目で……」と妄想を膨らませて…。それがある程度決まらないとメロディも決まらないですし、それを考える時間がめちゃめちゃ楽しかったです。こういう人だからこういうメロディが合うんじゃないか、それがアレンジまで連れてきてくれる……みたいな。言葉ありきと言いながらも、どの瞬間もすごくクリエイティブで、ある意味緊張感が続いた制作でもありました。
(寺岡)呼人さんから送られてくる詞を読んで、一発でキャラクターが浮かばない時はその世界に入り込めず、メロディが浮かんでこないことも。詞をいただいてから結構な時間寝かせていたものもあります。『残像』とか『Bless U』とか。ただはっきり見えたらその後は楽で、アレンジも迷うことがなかったです。通常であれば家で60%くらい完成させた状態でスタジオに持っていくことが多いんですけど、今回は90%以上ほぼ決めてレコーディングに臨みました。最初に見えたビジョンがレコーディング後半まで続いていくっていうのは、他の楽曲制作とは違っていた気がします」
「今回は歌詞をA4にコピーして、それを持ってカフェに行ったりして。詞を読みながらコーヒーを飲んだり、散歩をしたり。ここで制作しようとか、この時間に作ろうとか、そういうルールは自分の中に決めませんでした。運転中に急に思い浮かぶこともありましたし、テレビを観たり、ラジオを聴いたりしていたときに「こんなのアリかも……」ってひらめいてすぐ制作に入ることもありました。ルールを作らないっていうのが、ルールだったのかもしれません。
前のアルバムから今回のアルバムまでの3年と少し、考え方やものの見方、聞こえてくるものも変わってきました。まぁ何があろうと結局作ることは一緒なんですが、でも今回、本当にシンガーっていうのはいい仕事だなと思ったんです。歌う喜び、表現者としての喜びを改めて感じたというか。元々歌う喜びから音楽を始めていたのに、忘れていた部分があって、それを取り戻した気がします。教会で毎週日曜日に歌うことが、僕の音楽生活のスタートで、もちろん教会に来る人は僕の音楽を目的にはしていない。人が集まるから、僕らが歌う。いろいろな人が集まって音を奏でるとみんなが笑顔になったり幸せな気分になったり、時には悲しくなったり。音のマジックに触れて、僕は音楽の仕事をしたいと思いました。これがプロになってやっていくうちに、Kという人をこう見せたい、こういう音楽をやっているんだなとか、自分自身のアピールもしなくてはいけなくて。もちろんそれも大切なことですが、歌う喜びをどこか失っていたのかもしれないなって。それが2、3年くらいで環境も変わったりして、その喜びをこのアルバムで感じたというのは結構大きな変化かもしれないです」
「子どもが生まれてから「作品を残していきたい」という気持ちがより強くなっている気がします。去年NHK Eテレの『いないいないばあっ!』で曲(『ほめられちゃった』)を書かせてもらったんですけど、いろいろなところで「子どもが大好きでよく聴いてます」とか、元々僕のことを知らない人にも言ってもらえることが多くて。音楽を通じて何かを「届ける」ってこういうことなのかもしれない。こういうことも作品を残すっていうことなんだろうと。形にとらわれず、とにかく音楽家としてクリエイトしていくのが大事だなって思いました。あとやっぱり好奇心、ですね。子どもって好奇心だけで生きてるじゃないですか。何が正解かもわからないまま、自分がやりたいと思ったことすべてをやろうとする。でもそれでハッピーになることも多い。音楽を作る人って多少そういう気持ちを持っていないとなって素直に思ったんです。今まで周囲に気を遣いすぎて、思いをうまく伝えることができなかったり、もちろんそれで結果うまくいくこともあるんですよ。でも今回は好奇心が出たらとりあえずやってみる、それを大事にしてみようと思いました。曲もアレンジも出来上がっているのに、「やっぱりこうしたい」って全部ひっくり返した曲、今回のアルバムに何曲もあります(笑)。その直感を受け止めてくれた呼人さんの包容力があってこそなのですが。でも、一つ乗り越えた気がするんです、自分の中で」
「『Storyteller』というアルバムのツアーなので、なるべくアルバムの音色やアレンジを忠実に再現したいと思っています。あと僕のライブに足を運んでくださっている方はわかると思いますが、ライブだからこそ起こるハプニングも、その日の演奏のひとつだと思うんです。ライブってステージに立っている人だけが演奏するものではなくて、お客さんの声や拍手もひとつの演奏に聞こえる瞬間がある。そういうものも感じていただければすごく面白いライブになるんじゃないかと思います」
「ツアーで各地を回るときよくやるんですけど、ライブ当日朝早く起きて、その土地の映画館に行くんです。もう13年くらい東京に住んでいるので、東京だとどこに行っても緊張しないんですけど、普段行かない土地に行くと迷子になっちゃうかもしれないドキドキ感があるじゃないですか(笑)。出口ひとつ間違ったら「あれ……?」とか。それ全然嫌じゃない」
「ストーリー性が強いアルバムなので、それぞれの置かれた環境とかそういうものにあてはめながら聴いてもらえると嬉しいです。でも、言葉がどれだけスッと入っていくかを考えて作った作品なので、まずは何も考えずに聴いてもらいたい。それからまた改めて歌詞カードを読んでみたり。何度も楽しんで欲しいです。あとどんなアーティストもそうだと思いますが、曲順にもこだわっています。1、2曲目とラストは呼人さんとある程度決めていたのですが、その間の曲順は、携帯に入れて何度も入れ替えたり、それこそ電車の中とか車の中とかシチュエーションも変えながら。これね、たぶん僕のクセなんですけど、アナログレコードがすごく好きで、普段CDを聴いていても5、6曲目で一旦集中力が切れるんです(笑)。それってたぶん頭の中にA面B面があるから。たとえば『ボーダー』とか楽器がぎゅうぎゅうに詰まっているので、アナログ盤の内側になっても音がそんなに悪くならないとか、楽器が少ない7曲目の『春の雪』は外側なのできれいな音で聴けるとか。アナログにしたらどうなるかで考えてしまう(笑)。なので、『ボーダー』まで聴いて、少し休んで、また『春の雪』から始めるって感じはどうでしょう。心の中でレコードを裏返す感じで」
Writing:西澤千央
ALBUM
発売中!
LIVE
pagetop
page top